第五十三話 無意味な能力乱射
第五十三話 無意味な能力乱射
キメラの申し出で、決闘を行うことになった。勝負内容は、私に向かって放り投げられた黄色のピアスを、十分間守り切れば私が勝ち。奪還されればキメラの勝ちというものだ。勝てば、私の体とお父さんを返してくれるという。しかも、私が負けてもペナルティーはなし。これはもう、受けるしかないでしょう!
決闘場所に指定されたヘリポートで、キメラの部下である御楽と哀藤が見守る中、私はキメラと対峙していた。自分と向かい合うのは変な気分だが、これに勝てば、戻ってくるのだ。今だけは気持ちを鬼にして挑まなければなるまい。
「君のタイミングで初めていい。スタートと宣言した瞬間から、決闘スタートだ」
私に負けることがないと思っているのか、キメラはあくまで余裕だ。スタートの合図まで自由なんて。ある意味では不意打ちしても構わないと言っているようなものよ。もし、ここからうんと離れてから、小声でスタートを宣告したら、どうするのかしら? 場合によっては、キメラ側がスタートしている事実も知らないまま、私の勝ちが確定するのよ。……まあ、私はやらないけどね。
逃げ切って勝つなんてありえない。こいつには、怒りが収まらないのだ。殴って、蹴って、ノックアウトさせた上で勝つ!!
「じゃあ、スタートで」
キメラが話し終えてから、ほとんど時間を空けないで、スタートを宣言した。御楽がもう少し心の準備とかしてからスタートしろよと呆れているのを無視して、私はキメラを睨んだ。
先手必勝でいきなり突っ込んでくる事態に警戒していたが、その様子はなさそう。キメラは身じろぎもしないで、ただ悠然と微笑んでいる。それならそれで構わないわ。
先手は私が取らせてもらう。早速特殊能力を発動することにした。試しに『奴隷人形』を四体召喚してみる。
通常なら、特殊能力が使用できるのは、一度のログインで、三回まで。つまり、奴隷人形の召喚は最高でも三体までしか出来ない。しかし、今は私の上下左右を囲むように、木製の奴隷が四体出現していた。
召喚された奴隷たちは一斉に私に向かって挨拶してきた。
「ゴシュジンサマ、ゴキゲンイカガ?」
「オハヨウゴザイマス」
「キョウモガンバルゾ!」
「ナンダヨ、オレハネムイノニ……」
うざい……。一体でもうざいのに、四体になると、こんなにうざいのね。しかも、気のせいかしら。反抗的なのも、混じっているっぽい。
とりあえず反抗的なやつを真っ先に突っ込ませようと思いつつ、次の能力を発動した。
『誘拐ブレイド』を四回発動。出現した剣を一本ずつ奴隷に持たせた。
「あいつに襲いかかる時はこれを使いなさい」
「ゴシュジンサマ!」
「アリガトウ」
「センキュー」
「ヤッター!!」
……反抗的な言葉は聞こえてこなかったけど、やっぱりうざい。
「と、とにかく行きなさい!」
「「OK!!」」
号令とともに奴隷軍団はキメラに突っ込んでいった。
私を攻撃するのは、気が引けるが、今はそんなことを言っている場合ではない。断腸の思いで、攻撃を断行した。
もうすぐ異世界の彼方に運ばれていく私の体を複雑に見つめていたが、全く無駄な心配だった。
剣で襲いかかる奴隷たちの攻撃を軽やかな足つきで交わすと、そのまま剣を奪い取り、それで奴隷たちを順番に切り付けていた。
「「ワアアアアアア……!!」」
絶叫と共に、どこかへ運ばれていく奴隷軍団。いつも呼び出す度に、しっかり仕事をこなしてくれる頼れる奴隷の呆気ない敗北に唖然としてしまった。
「なかなか面白い趣向だったよ……」
息一つ乱さずに、勝利の笑みを見せるキメラ。あまりにもあっさりやられてしまったので、固まってしまいそうになるが、まだチャンスは続いている。今、追撃すれば、まだ攻撃は当たる筈だ。
「『特権解除』!!」
異世界におけるピアスによる物理ダメージ免除を解除する能力を使う。キメラは耳に何のピアスも付けていないが、物理ダメージを食らいそうにないのは明らか。でも、それもこの能力で無効にしてやる。
能力で、物理ダメージを食らうようになったところで、攻撃の雨を降らせることを決行した。
まずは、この能力。
「『落雷一閃』!!」
一定時間、対象に向かって、落雷を落とし続ける能力だ。以前、瑠花がこれを使って、私を助けてくれたこともある。
ふふん! 決闘場所を天井で覆われていないヘリポートに選んだのは間違いだったわね。さあ、今度こそ容赦しないわよ!
「オラオラオォラァ!」
漫画の主人公になったつもりで、キメラに向かって正義の雷を落としまくった。正義だろうが、雷を落としたら、ただの暴力だろうというツッコミは受け流す!
「ふふふ! 今度はどうかしら?」
さぞ黒こげになっているかと思いきや、キメラは全くの無傷だった。それどころか、気持ちよさそうにしている。まるで、肩の凝りを電気マッサージでほぐしたような顔だ。
「自慢のペットが破壊されておかしくなったのかい? 僕が異世界の雷で倒される訳がないじゃないか」
「……!」
倒される訳がないですって!? だって、雷よ? それを何度も食らって、平気な顔をしているって、どんな体の構造をしているのよ。
今、キメラが使っているのは、元は私の体なのだ。構造が人並みなのは、私がよく理解している。なのに、雷を食らっても、あいつは平気だった。一体どうなっているの?
混乱してしまい、攻撃が途切れた私を見ながら、キメラが準備体操をしながら、口を開いた。
「次は僕の番かな?」
神速で私の後ろに回り込むと、私の持っている黄色のピアスに手を伸ばそうとしてきた。しまった……と思う間もなく、手がかかる。……な~んてね!
「『重量調整』!!」
「む!?」
対象の重さを、1tから1kgの間で、キログラム単位で増減できる能力だ。もちろん、今回の対象というのは、キメラに決まっている! 増やせる重量の最高値、1tの重みをプレゼントしてあげるわ。
キメラの体がコンクリートにめり込む……、とまではいかないが、地面に吸いつけられるように張り付いて動けないのは確か。
さすがのキメラも、ここまで体重が上昇してしまっては、もう俊敏に動き回ることは出来ないようね。動けないキメラに、能力で発生させた拳銃で攻撃する。
この拳銃は特別で一定時間の間、弾切れなしで打ち続けることが出来るのだ。
「『幻想痛覚』!!」
拳銃の弾だけでは心もとないので、念のため、能力で出来たシャボン玉を呼び出した。これを割ってしまうと、中に詰まっている「骨折」や「臓器破裂」などの様々な痛みを追体験で味わうことが出来るのだ。
私の心の痛みを味わいなさいと意地の悪いことを考えながら、シャボン玉を飛ばして、同時に拳銃の引き金を引いた。
しばらくキメラに攻撃のオンパレードが続き、運の良いことに全部ヒットしてくれた。ふふふ……、もう痛みは想像を絶するものでしょうね。私だったら、気が狂っているかも……。
自分がもだえているところを見るのは、あまり気分が良いものではないが、勝つためだ。仕方がない。
これだけ痛めつければ、もうキメラは動けないでしょうね。私の勝ちも確定かしら。
「無駄だよ」
勝利の二文字が頭をよぎった私の希望を、キメラの言葉があっけなく打ち砕いた。
攻撃の嵐が止んだ中を、キメラが悠然と歩み寄ってきた。
「さっきの雷といい、どれだけ打たれ強いのよ」
「おいおい、この体の打たれ強さについては、持ち主である君が一番分かっている筈じゃないのか?」
分かっているわよ。その分かっている範囲を超えるダメージを受けても、尚あんたがヘラヘラしているから、聞いているんじゃない。
「簡単なことさ。ダメージを食らう瞬間に、ダメージがゼロになるように、計算をやり直した。忘れたのかい? この世界は、元はオンラインゲームの世界だったんだぜ」
「嘘……。『特権解除』で、物理ダメージを食らうようにしたのに……」
「説明が足りなかったな。物理ダメージを食らう状態にはなっているよ。ただ、今の君の攻撃の威力をゼロにしたのさ。ラスボスに威力のない魔法を使ったものと思えばいい。ダメージは受けるけど、ほとんど効いていない時があるだろ? あんな感じさ」
つまり、いくら強力な攻撃を仕掛けても、ダメージ計算を施されて、威力のない攻撃にされてしまうということなの?
「そんな……、反則じゃない……」
「そうだ。僕には反則が自由自在なのさ。だから、この世界で、どんな勝負をしても、負けることはないんだ」
分かったかとでも、言いたそうな顔で、キメラが諭すように、私に言った。
特殊能力を書き連ねるのは、楽しかったです。たいした結果は出ませんでしたけどね。




