第二十三話 親友との再会
第二十三話 親友との再会
苦戦はしたものの、どうにか勝利を収めた私たち。
先に現実世界へ戻した小桜はちゃんと保護されただろうか。別の変質者に誘拐されていないだろうか。戦闘中は、小桜のことを考える余裕がなかったので、後回しにしていたが、終了した今になって気になりだした。
考えていたら、どんどん不安になってきた。月島さんを置いていくことになるけど、先にログアウトしてしまおうか。
「ねえ、真白ちゃん。この能力って、使用期限とかってあるの?」
「その空間内に、2つの神様ピアスがある限り、ずっと続きますよ。いつまでだろうと、ずっと」
「便利な能力だね」
そう言いながら、手元から花束を出していた。力を使えるのか、実験しているのだろうか。
「ここは俺が神様の世界なんだよな」
月島さんがまた良からぬことを考えていそうな顔をしている。
「のどが渇いたな……」
またメイドでも作り出して、用意させるつもりなのだろうか。私が冷めた目で見つめていると、メイドさんが一人こちらに歩いてきた。
「畏まりました」
従順なメイドらしく手に持ったお盆には、すでにトロピカルジュースが二人分載せられていた。
「月島さん……」
本当に作り出すなよと冷めた視線を強めていると、月島さんにしては珍しく、少々慌てた様子で弁解してきた。
「違う。まだ力を使っていないよ」
「はい。たった今作られた訳ではありません」
メイドさんも、月島さんを庇うように発言してきた。
ということは、このメイドさんは異世界交換で切り抜いた空間の中に偶然いたのか。異世界交換を発動する場合、範囲内に神様ピアス保持者以外の生物がいてはいけないという制約はあるが、交換される別の世界の方では、切り抜かれる部分に誰かいても問題がないらしい。便利なのか、不便なのか、よく分からない能力だな。強力なのは変わらないけど。
見ると、月島さんは能天気にジュースを飲み始めていた。
私ものどが渇いてきていたので、ジュースを取ろうとすると、メイドさんが私をじっと見つめていた。
「……何か?」
微妙に気まずくなってしまい、聞いてみると、驚きの答えが返ってきた。
「その人、この間、いらっしゃいましたよ。神様がお帰りになった後、私たちのところに来ました」
「……何ですって?」
常人ならドッペルゲンガーかと驚くところだろうが、私の思考はすぐに一つの可能性を示唆した。……キメラだ。私から元の体とお父さんを奪った敵! あいつとニアピンしていたなんて……。
「ねえ、そいつ。何しに来たの?」
「分かりません。私たちの様子を見に来ただけの様でした。ただ……」
「ただ?」
「私たちの世界の食べ物を増やしていってくれました。その他にも、蚕や羊を作っていってくれました。これは服の原料にしろということでしょう」
何かのサービスだろうか。少なくとも危害は加えられていないようなので、安心した。
「人の世界でずいぶん勝手な真似をしてくれるね」
月島さんが面白くなさそうに話している。神様ピアスを入手して以来、一度も訪れていないものぐさ神様のくせに、嫉妬しているのだろうか。
「またキメラが来ても撃退できるように、屈強なボディガードでも作っておこうかな」
「止めておいた方がいいですよ。相手は神様フィールドのメインプログラムですから。神様の力だって、あいつが設定したものですし、その気になれば無効にすることも容易いでしょう」
対抗意識を燃やして、神様っぽいことを始めようとする月島さんをそっと諌めた。それより、私に伝えてほしい。そうすれば、すぐに飛んで行くから。
ジュースを飲み終えると、月島さんはうずくまったままの氷室の前まで歩み寄った。ご丁寧に、さっきまで氷室が付けていた神様ピアスを機用に回しながら。
「ああ、後それからね。こいつは没収だ。犯罪に悪用している以上、持たせたままにする訳にはいかない」
氷室は一瞬、手を伸ばしたが、すぐに唇をかみしめながら出した手を引っ込めた。こいつなりに、もう無駄なことを理解しているらしい。人間、引き際は大事だ。
「へへっ! 二枚目の神様ピアスをゲットだ」
「猫ババしていいんですか。ばれたら、懲戒解雇されるかも」
「俺、不良刑事だから」
ああ、そうですか。そうでしたね。
今に始まったことじゃないですし、異世界を二つも所持しているから、最悪首になっても、飢え死にすることはないでしょう。
ここから先は警察の仕事だ。小桜を取り戻すという、当初の目的は達成されたので、私は一足先にログアウトさせてもらった。
現実世界に戻ると、すぐに小桜がログアウトされた筈の校門前まで急いだ。
「まだいたらどうしよう。小桜はああ見えて、男子にも人気があるからなあ……。襲われていないか心配だわ」
校門に行くと、無人だった。小桜の姿もない。保護されたのか、また誘拐されたかのどちからだろう。
家に電話して確かめてみるか。でも、今の私は男だからな。絶対に家族から怪しまれる。小桜の携帯番号はまだ聞いてないし、どうしよう。
「何を悩んどんねん」
悩める私に瑠花が話しかけてきた。
「瑠花……」
すっかり忘れていた。小桜を助け出すのに、夢中で置いてけぼりにしていたのだ。瑠花の性格上、絶対に怒っているよ。
「え~と、小桜は……」
「家に戻っとるよ。校門で寝ているのを起こして帰らせたわ」
言葉に気を付けながら、小桜の安否を聞いてみると、家に帰っていると言われたので、一気にホッとした。
「良かった。一時はどうなるかと思っていたけど、無事で良かった……」
「真白が小桜のライフピアスを外して、ログアウトさせるのを見ていたからなあ。最初にログインした校門に戻っていると思って行ってみたら、案の定や。そのまま放っておいたら、不審者にいたずらされると思ったから、すぐに叩き起こしたわ」
相変わらず瑠花はしっかりしているなと、笑い飛ばそうとした時、瑠花の台詞におかしい部分を見つけた。
見ていた? 私が小桜をログアウトさせるところを?
「へ、へえ……、真白っていうと、瑠花たちの親友だった子のことだよね。元気だった?」
どうなっているのか分からないが、まずい。とりあえず、とぼけねば。
わずかに上ずった声で聞いてみたが、瑠花は鼻で笑うと、あるものを私に突き出してきた。
「とぼけても無駄や。お前が異世界では、真白の姿でいたことはリサーチ済みなんやで」
「あっ……!」
瑠花の手に握られていたものを見てビックリ。キーパーのみが使用を許された黄色のピアスだった。
「妙に急いでいたから、小桜を助けにいったと思って、先回りしていたんや。しばらく待っていたら、イケメンの兄さんと一緒におるし、真白の姿をしているしで、大混乱や。どういうことなんか、説明してもらいましょうか?」
瑠花は詰め寄ってきたが、混乱しているのは私も同じだ。瑠花の手にある黄色のピアスを凝視しながら、ようやく声が絞り出せた。
「そ、それをどこで……?」
「質問したのはうちが先や。もう一度聞くで。お前は真白か? それとも、真白の姿をしているだけか?」
すごい剣幕だった。返答次第では、戦闘も辞さない覚悟も感じた。瑠花の目を見つめながら、どうしたものか考えていたが、やがて私の心も決まった。
「真白本人だよ。今は事情があって、男の姿をしているけど」
瑠花の目が本気だったことと、事情を全く知らない訳でもなさそうなことから判断して、正直に話すことにした。
途端に瑠花の目から大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
「ホンマか? ホンマに真白なんか? 嘘だったら、承知せえへんで?」
「嘘じゃないよ。姿はすっかり変わっちゃったけど……」
瑠花と私はひしと抱き合った。
「何、性転換してんねん……。アホとちゃうか?」
「仕方がないでしょ。男の体しかなかったんだから。そうか……。雷を落として、助けてくれたのは、瑠花だったんだね」
二人でしばらくの間、再会の喜びに浸るのだった。
寒い日ばかり続いています。いつ雪が降ってきても、私は驚きません。




