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第百五十四話 怯える蜘蛛

第百五十四話 怯える蜘蛛


 『アップデート』の力で、自分の寿命と引き換えに、身体能力を天井知らずで上昇させた私は、体に巻きついている糸を力任せに引きちぎり始めた。


 揚羽も最初は、余裕の笑みを浮かべて観察していたけど、糸を引きちぎるスピードが思ったより早いことに、徐々に顔色を変えていった。


 もう少し……! もう少しで糸をちぎれる……! 私の力に、揚羽が血相を変える。


「い、糸がちぎられる……。おい! 何をしているのよ! 私が殺されちゃうじゃない! もっと気合を入れて、糸を吐きなさいよ、単細胞!!」


 檄を飛ばされた蜘蛛が、全身をびくつかせた。ふふん! いつも人を見下した態度をとっているから、動揺が非常に分かりやすいわ。それにしても、この程度で動揺するなんて器の小さいやつ。蜘蛛の人形も、とんでもないやつにこき使われて、かわいそう。


「獅子も! ボケッとしていないで、そいつに掴みかかりなさいよ。頭とか握りつぶしちゃいなさいよ!」


 獅子の人形なら、さっき私がこの手で粉々にしたばかりじゃないの。揚羽だって、しっかり見ていた筈なのに、同様のあまり、忘れちゃったのかしら。みっともないわね。


 蜘蛛は檄を飛ばされた効果もあり、今まで以上の勢いで、私に糸を吐きかけてくるが、『スピアレイン』も交えながら、それを軽快に防ぐ。そして、ペースは遅くなったけど、体に巻きついている意図もブチブチとちぎっていく。


「おらあっ!」


 私の気合いが上回る。よし、これが最後の一本。


「くっ……!」


 人形に任せておけなくなったのか、揚羽が『スピアレイン』で直接私を妨害してきたけど、私も『スピアレイン』を放って、相殺した。『スピアレイン』は、あなただけの専売特許じゃないと、さっき言われた台詞をそっくりそのまま返してやるわ。


 揚羽からの妨害も無事に跳ね返して、糸ももうすぐちぎれる。やったと思った時に、ふっと辺りが暗くなった。


 え? 停電? などと思っていたら、黒い影が、私の上空を覆っていた。


 停電になったのではなく、蜘蛛の人形が、私に覆いかぶさろうとしていたのだ。おそらく糸で動きを止めるのが間に合わなくなったので、直接抑えつけて、動きを抑制し、その間に体内に糸を巡らせるつもりなのだろう。


 分かったところで、時すでに遅し。人形たちの目論見通り、私は下敷きにされてしまった。


「キャアッ!」


 人形のくせに、中身が詰まっているのか、かなりの重さで、私はバランスを崩してしまい、転倒してしまった。そこに蜘蛛がチャンスとばかりに、馬乗りになって覆いかぶさってきた。


「よしよし! やればできるじゃない。そのまま至近距離から、糸を吐きかけてしまいなさい!」


 さっきまであんなに罵倒していたくせに、態度を豹変させて、蜘蛛を褒めちぎる揚羽。何とも心のこもっていない謝辞だこと。


「く、蜘蛛……」


 とにかくこいつをどうにかしないと。体内に蠢く糸を仕込まれるなんて、冗談じゃないわ。


 糸が体内に入ってくる前に拘束を解こうと、力を強める。糸がぶちぶちいって、切れていくんだけど、このスピードじゃ間に合わないわ。しかも、吐きかけてくる糸も防ぎながらのため、さらに遅くなってしまう。


「フ、フフフン。やっと真白の年貢の納め時ね。私が勝つのは世界の常識だけど、ちょっと手こずっちゃったかな」


 あれだけ動揺しておいて、よく言うわ。私はまだ終わりじゃないっての!


「最期の時を、ただ待っているのも暇でしょうから、冥土の土産って訳じゃないけど、一つ良いことを教えてあげる」


 教えてほしくない。どうせ私にとって、この上なく、よろしくないことでしょ? 私の考えを読んだのか、OKを出していないのに、揚羽が勝手に話し出した。


「この糸ってね。私の意志で細くすることも可能なのよ」


 糸を、細く……?


「人間の体にはさ。汗を拭きだす汗腺ってあるじゃない? あそこを通れるサイズにまで細く出来るのよ。私が何を言いたいのか、分かるわね?」


 分かりたくないけど、分かってしまった。つまり、これから無数の糸が、私の汗腺を通して、体内に侵入してくるってことね。


「正解よ」


 何も言っていないのに、勝手にしたり顔になった。こいつ、私の心を読んでいるのかしら。この調子だと、私が止めろと言っても、勝手に糸を細くしてくるんでしょうね。


 そう思っていたら、蜘蛛の人形がどんどん細くなっていった。まだ揚羽から指示が出ていないのに。きっと、また怒鳴られるのが怖いから、気を利かせたのね。何ともご主人想いなことだけど、それがひたすら恨めしいわ。


 細くなったせいで、格段に掴みづらくなった。『スピアレイン』もまるで当たらない。これじゃ、糸が体内に入ってくるのも時間の問題だわ。


「そんなこと……、させるか~!」


 絶叫と共に力を込めると、私を拘束していた糸が全部切れた。あとは、のしかかっている蜘蛛の人形をどかすだけ……。いいえ、どかすなんて、生ぬるい。獅子と同じように握り潰してやるわ。


 両手で蜘蛛の頭を掴むと、ビクリと震えたのが分かった。さっき獅子が握りつぶされるのを見ていたから、自分がどういう目に遭おうとしているのかが分かってしまったのね。すかさず、私から離れようとするけど、それを揚羽が制した。


「離れるな! そんなことをしたら、真白が自由になって、私の身が危険に晒されるでしょ。下敷きにしたまま、糸を体内に仕込むのよ。あんたが破壊される前に、仕込めばいいだけなんだから!」


 揚羽ったら……。自分の身が可愛いからって、血も涙もない指示を出すわね。蜘蛛だって、そんな命令を無視して逃げればいいのに、律儀に従おうとしている。健気なのか、馬鹿なのか。


 でも、蜘蛛には悪いけど、私があんたを握りつぶす方が先よ。


「うららああ~~!」


 蜘蛛の頭がどんどんひび割れて、変形していく。今にも悲鳴が聞こえてきそうだけど、蜘蛛は私に一心不乱になって、糸を飛ばそうとしている。でも、そうはさせない。


 のしかかってきたおかげで、蜘蛛の顔がかなり至近距離まで近づいていた。蜘蛛からすれば、私に糸を吐きかけるのに、かなり有利なんだろうけど、ところがどっこい、私にとっても有利なのよね。


「『スピアレイン』!!」


 蜘蛛の人形、特に糸を吐いてくる口の部分を狙って、『スピアレイン』を連射した。


「~~!!」


 私に糸を吐きかけることしか考えていなかった蜘蛛が、攻撃を防御することが出来る訳もなく、どんどん穴だらけになっていった。特に口元は見る影もなく、破壊されていった。


「止めよ! 蜘蛛ちゃん!」


 今の私の力は万力を凌駕する。渾身の力で、蜘蛛の頭をぺしゃんこにしてやったわ。


「さあ、これでこいつをどかせば、晴れて私は自由の身!」


 そうしたら、いの一番で揚羽をとっちめてやるわ。今の内に泣き言でも考えておくのね。


「どうしたの? 顔がにやけているわよ」


 潰れた蜘蛛の頭を踏み越えて、揚羽が飛び出てきた。


「私をギャフンと言わせるところでも想像しちゃったの?」


「うっ……」


 どうして、こいつはこうも勘が良いのかしら。図星だったから、つい「うっ」て言っちゃったじゃない。


「でも、残念。あんたが自由にならない内に決めちゃうから……」


 驚いたことに、蜘蛛ごと『スピアレイン』で撃ち抜いてきた。これが致命傷となって、蜘蛛の人形はピクリとも動かなくなった。


「あんた……。自分の人形になんてことをするのよ……」


「何を目くじらを立てて、怒っているのよ。所詮血の通っていない人形じゃない。まあ、私は、血が通っていても、容赦なく切り捨てるけどね」


 何の自慢にもならないことを偉そうに……。でも、今の攻撃は痛かったわ。刺客からの攻撃だったから、迎撃もままならなかった。致命傷にこそならなかったけど、黄色のピアスに入っているひびがさらに大きくなってしまった。


「アハハハ! そうら! とどめよ!」


 まだ蜘蛛の体が消滅していないのを良いことに、また蜘蛛を貫通させての『スピアレイン』を放とうとしている。私もガードするつもりだけど、死角からの攻撃じゃ、完全に相殺は出来ない……。


 せっかく『アップデート』を使ったのに……! 歳まで取ったっていうのに……! こんなことで負けて堪るか~!


 私と揚羽。二人が、己の存亡をかけて、差し違えんばかりの気合いで、攻撃を繰り出した……!


昨日は遅い投稿ですみませんでした。本日から、またこの時間帯に投稿させていただきます!

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