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第百四十三話 血だまりは道標

第百四十三話 血だまりは道標


 萌を眠りから覚まして、一息つく月島さんたちに、喜熨斗さんの口から、驚愕の事実が告げられた。


 何と、黄色のピアスの持ち主は、みんなもう死んでいる人間だというのだ。


「まあ、例外もいるけどよ」


 驚く月島さんたちをよそに、喜熨斗さんはボソリと呟いた。例外の存在に対して、月島さんはすぐに見当がついたようだ。


「真白ちゃんのことか?」


 喜熨斗さんが頷く。お父さんの書斎で、黄色のピアスを偶然見つけた私だけは、生きながらにして、黄色のピアスの所持者になった例外なのだ。


「本当なら、死んだ人間にのみ許される黄色のピアスを、生きながらにして使いこなしている訳か。反則染みたことだな」


 牛尾さんが妙なところで感心しているけど、あまり嬉しくもないし、実感も沸かないのよね。月島さんも、そのことはどうでもいいみたい。でも、私のことを忘れていたことは思い出したみたいね。


「そういえば、真白ちゃんの後を追わないといけないんだった」


「お前の義妹か。そういえば、単身でキメラのところに殴りこんだんだっけな」


「やれやれ。相変わらず危なっかしい真似を繰り返しているな」


 みんな口々に勝手なことを言っているわ。丁度今、当の私は、バトルの真っ最中だというのに、呑気なものよ。


「萌ちゃんも起きたことだし、急いで後を追おう。いくら真白ちゃんでも、一人でキメラに挑ませるのは危険だ」


 そう言いながら、月島さんが行動を開始しようとするけど、牛尾さんが心配そうに傷口を見る。月島さん自身、出血がひどく、逆に助っ人を頼みたい状況なのだ。


「そんな傷で、大丈夫なのか? 気のせいかもしれんが、顔色が悪いぞ。駆けつけたところで、真白の足手まといにしかならんと思うがね」


「ははは……! これくらい許容範囲だ」


「脂汗がすごいぞ……」


 本音を言うと、月島さんに今すぐ来てほしいけど、あまり無理をしてほしくないというのもある。月島さんにとって、私が大切な存在であるのと同じように、私にとっても、月島さんはかけがえのない存在だから。


「まあ、行くだけなら問題ないんじゃねえの? バトルは俺が担当するからよ」


 一度裏切っているとはいえ、この場面では、月島さん異常に頼りになる喜熨斗さんが前に出た。現実世界とはいえ、喜熨斗さんが念じると、空間は裂けて、キメラの世界への扉は開く。……筈だった。


「む! キメラの世界に行けなくなってやがる」


 恐らく、揚羽の口から、喜熨斗さんの裏切りが伝えられたんでしょうね。キメラがいつまでも、裏切り者に自らの世界への侵入を許しているとも思えないわ。


「まだ行けると思ったんだがな。さすがに手が早いな」


「相当キレていたからね」


 しかし、これではキメラの世界に行くことが出来ない。頭を抱えてしまいそうな状況の中、月島さんが能力を発動した。確か、名前は『ダブルフリーダム』で、貫通の力を備えていたんだったかしら。使える能力だけど、この場面で役に立つのかしら?


「かなり痛むかもしれんが、俺たちを裏切った落とし前だと思って、耐えてくれ」


「! つ、月島。喜熨斗に銃口を向けて、何を言っている!?」


 色めきだつ牛尾さんを無視して、月島さんはそのまま本当に引き金を引いてしまった。銃口からは弾が発砲されて、喜熨斗さんの脇腹を貫いた。


「お、おい、月島……!」


 一度は喜熨斗さんを貫通した弾が、今回は勢いよく脇腹の肉を削り、そこからおびただしい出血を発生させた。


 いきなり攻撃されたことに対して、当然起こると思いきや、喜熨斗さんは悟ったような笑みを見せている。


「相変わらず容赦がねえな……。でも、お前らしいぜ」


「悪く思うな。真白ちゃんを負うためなんだ。お前を撃った血が、道標に変わっていくんだ」


 月島さんの言う通り、『ダブルフリーダム』によって、貫かれた部分から噴き出している血が、異世界へのログイン用カードへと姿を変えていく。


「ど、どうして血液が、異世界へのログイン用カードに変わっていくんだ? これが、その拳銃の能力なのか!?」


「ご名答!」


 苦し紛れに牛尾さんが呟いた一言に、月島さんが人差し指を立てる。


「撃った人間の血をログイン用カードに変化させる。これが『ダブルフリーダム』の第二能力だ。こいつは、能力を二つ有しているんだ。このカードを使えば、キメラの世界にもログインできるのさ」


 アラビア風の異世界に、私を追ってきたのも、この能力の力という訳ね。


 床に落ちているカードを拾い上げて、月島さんは得意げに宣言している。能力を自慢するのも良いけど、喜熨斗さんの傷の手当てをするのも忘れずにね。


「しかし、改めて見ると、すごい血だまりだな。仕方がないとはいえ、さらに血を流しやがって……。これがお前ら二人の体から流れたものだと思うと、ゾッとするな」


 おびただしい量の血液を眺めながら、さすがの牛尾さんもドン引きするのを抑えられない。


「まあ、これだけの血を流しても、平然としていられるんだからな。全く。お前らには頭が下がるよ」


 呆れながらも、顔をほころばせながら、牛尾さんは月島さんの方へと振り返った。でも、そこには牛尾さんが予想していたような、元気な月島さんの姿はなかった。


 ぐったりと床にもたれかかるように、崩れ落ちたまま、電池の切れた人形のように動かなくなっていた。


「月島……?」


 呼びかけに対する返答はなかった。というか、月島さんは動きを止めていた。




 月島さんが崩れ落ちているころ、私と御楽はハイスピードで、室内を飛び跳ねていた。


「おらああっ!!」


 御楽に向かって、思い切り箪笥を蹴りつける。これを食らって、少しでも御楽が怯むようなら、『スピアレイン』発動よ。


 でも、御楽は持っている鎌で、あっさりと箪笥を消滅させてしまった。そして、カウンターで、攻撃を仕掛けてくる。


「ぐっ……!」


 警棒で攻撃を受け止めつつ、後ずさりする。危なかったわ。『最終審判』の攻撃を、警棒なんかで受け止められるか分からなかったけど、試してみるものね。


 大きく息を吐きながら、警棒を見た。先の方で髑髏がうごめいている。それは増殖していき、警棒を伝って、私のところへ這って来ようとしていた。


 反射的に警棒を投げ捨てたおかげで、髑髏にまとわりつかれることはなかったけど、心臓に悪い光景だわ。


「あ~あ、もう少しで行けると思ったんだけどな。残念!」


 本気かどうか分からないけど、御楽が露骨に残念がっている様子が頭に来るわ。


 いつまで経っても、『スピアレイン』を発動するチャンスを作れない。思わず叫んでしまいそうになるけど、御楽が聞いたら、ざま見ろとか言われそうなので、グッと堪える。


 でも、私が劣勢なのは、御楽も把握していた。


「どうだ? まだ俺をたいしたことないと思うか?」


「ええ、思っているわ。片腕のせいかしら。三人いるのに、私一人でどうにかなっちゃっているわ。これで、月島さんたちが助っ人に来てくれたら、一気に形勢は逆転するわね」


 苦し紛れの強がりだったけど、御楽は気に入らなかったらしく、月島さんの名を口にしたところで、眉間に皺を寄せた。御楽なりに、片腕を取られたことを根に持っているのね。


「そうか。それなら、理解できるように、もっと痛めつけてやろう」


 てっきりもっと分裂してくるかと思ったけど、三人で向かってくるところは変わらなかった。


「柄じゃないけど、哀藤の敵討ちもこめてね」


「敵討ちって何よ。まるで私が哀藤を殺したみたいな言い草じゃない!」


 御楽が何気なく呟いた一言に噛みつく。でも、それを聞いて、御楽は意外そうな顔をした。


「!? 殺しただろ。ここに来る前に。『スピアレイン』で!」


「な、何を言っているのよ。『スピアレイン』を撃ったのは事実だけど、異世界からログアウトさせただけよ」


 それを人殺しみたいに言うなんて、物騒な物言いだわ。でも、御楽の言葉は私の動揺を加速させた。


「異世界からログアウトさせた? それだけの筈がないだろ。命代わりの黄色のピアスを砕かれたんだぞ? ただで済む訳がないだろ」


「……はい?」


 命代わりの黄色のピアス? 重要な話をしているのは分かるけど、御楽が何を言っているのか理解できない。


 私が呆けているのを見て、理解していないことを見抜いた御楽が、やれやれと詳細を説明しだした。


「知らなかったのか? 黄色のピアスを付けているやつは、みんな、もう死んでいる人間なんだよ。キメラに黄色のピアスを代わりの命として授けられているおかげで、かろうじてこの世に留まっていられるんだ。お前は事情が違うみたいだけどな」


 以前、瑠花が話してくれたことを思い出す。確か瑠花も一度死んだあと、キメラの手によって蘇生されたと言っていた。


「嘘……。じゃあ、私は人を殺したの……?」


 知らされた事実の重さに愕然とする。私は、人殺しなの……?


 驚愕に押し潰されて、御楽とバトル中だということも忘れて、膝から崩れ落ちてしまった。


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