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第百二十六話 中ボスは喋らない

第百二十六話 中ボスは喋らない


 キメラから避難してやって来た異世界で、ついでに神様ピアスを探すことにしたけど、謎のドレスからもてなされた際に、お茶菓子代わりにピアスを出されたのには驚いたわ。


 しかも、一個だけじゃなくて、複数よ。ここって、ひょっとして神様ピアスを稼ぐにはもってこいのスポットだったりするの!?


 そういえば、テレビゲームで時々そういうのがあるわよね。パワーアップアイテムが、簡単に稼げる場所が。


 『神様フィールド』だって、ゲームだし、そういう裏技染みた場所が存在しても良いわよね。


 甘い解釈をして、チョコやキャンディをかき分けて、神様ピアスに手を伸ばす。


 そして、手がピアスに触れようとした瞬間、大きな爆発が生じたのだった。


 ドレスが空のティータイムを傾けて、お茶を飲み仕草をしている中、爆風が辺りを締めていったわ。


 煙が晴れてからも、後にはドレスが何事もなかったように、ティータイムを続けていた。不可解なことなんだけど、あれだけの爆発が起こったのに、テーブルも椅子も元のままだった。まるで、私たちのみを対象にした爆発だったようね。


 私たちの姿が消えていることを確認すると、ドレスは勝利を確信したように頷いた。こうして私たちは簡単な罠に引っかかって、短い命を終えたのでした。……何てね。悪いけど、そう思い通りにはいかないわよ。


「今のは何? 不意打ちのつもりなの?」


 勝利の余韻に浸っている間抜けなドレスさんに、からかう口調で呼びかける。この程度では、私たちを嵌めることなんて出来ないわよ。


 爆発の瞬間、後ろに飛び跳ねて、衝撃を回避していたのだ。爆風が完全に晴れたのを確認して、悠然とドレスの元へと歩み寄る。そして、ドレスのすぐ横に立つと、バンと大きな音を立てて、テーブルを叩いてやったわ。ドレスは怯えた素振りは見せなかったけど、食器類がカチャカチャと、割れそうな音を立てていた。


「残念だけど、今のはバレバレだったわね」


 私だって、伊達に死線を越えてきていないのよ。あんな餌を露骨に提示されたら、怪しむに決まっているでしょうが! そもそも神様ピアスは、各異世界に一つずつしか存在しないのよ。それをあんな大量に模造品で誤魔化すなんて、仕事が雑なのよ。


 得意げに宣言してやると、ドレスが私の方を向いた。あら、ひょっとして悔しがっているのかしら。


 私とドレスで、ちょっとした睨み合いを演じていると、後ろで月島さんが声を上げた。


「よし、この手でいこう!」


 月島さんの顔は、何故か満足そうだった。テストで、難問の答えが分かった時みたいな、つかえの取れた爽快な笑みを見せてくれるわね。


「? 何の話ですか?」


「喜熨斗とやり合う方法だよ。今の爆発で面白い方法を思いついたんだ」


 あ、そうですか。目前のドレスのことではないんですね。というか、眼中にも入っていないんですね。


 まあ、いいです。代わってもらった恩もありますから、こんな衣服くらい、私だけで対処します。


「とにかく、あなたは倒すわね。恨みはないけど、先に仕掛けてきたのはそっちだから、悪く思わないでね」


 ただの衣服でしかないこいつに、恨むという感情があるとは思えないけどね。無駄なことを言ったかなと思いつつ、警棒を振り下ろした。


 ドレスは、警棒での一撃を避けようともせずに、されるがままに受け入れた。爆発という奇襲には驚いたけど、呆気ない幕切れね。


 後はドレスがビリビリに引き裂かれて、テーブルに崩れ落ちると思っていたら、……破けない!?


「どうして? ただのドレスじゃないの!」


 触って確かめてみたけど、特別に強化している風ではないわ。生地には、そんなに詳しくないけど、私の力なら難なく破ける筈よ。


 なのに、ドレスを破くことが出来ない。何度警棒を振り下ろしても。自棄になって、手で掴んで力を込めても、全然ダメ。まるでダメージが無効化されているようだわ。


 うん? 無効?


 心当たりのある展開に、私の直感が働いた。この漢字、覚えがあるわ。


「どうやら、こいつが神様ピアスを所持しているのは、間違いないみたいですね」


「ああ。しかも、それを今、身に付けている」


 ただドレスを、穴の開くほど見回しても、どこにも付けているのを確認できない。となると、ピアスの行方は一つしかないわね。


 目の前に置かれている大量の神様ピアスの中に、当たりが混じっているということで良さそうだわ。


 私がまたピアスの山に手を伸ばすことを決めたのを感じ取ったのか、ドレスがにんまりと笑った気がした。その態度に、ちょっとイラッとしてしまう。


「何? ひょっとして、神様ピアスがあるから、大丈夫だとでも思っているの? 私たちに倒されることがないと思って、舐めているの? どっちもお門違いよ!」


 ドレスはまた空のカップを傾けて、お茶を飲む仕草をした。とことん、余裕の態度を崩さないつもりね。その態度だけは、立派に王族だわ。絶対に、こいつから神様ピアスをぶんどってやるわ。余裕ぶっていられるのも、今の内よ。


 私は勢い込んで、ドレスの隣の席に座った。そして、視線をドレスから、お菓子の山へと移した。


 確か外れを選ぶと、爆発するんだったわよね。とりあえず慎重に選びますか。……というところだけど、本当に残念でした。私はダメージを無効にする黄色のピアスを付けているので、爆発に巻き込まれてもへっちゃらなのよ!


「月島さん、ここは私に任せてください。バンバンやっちゃいますから! いくら爆発したって、私は平気ですからね!」


 月島さんに力強く宣言した。殺し合いを変わってもらったんですもの。これくらい役に立たないとね。いくら外れは爆発するといっても、『魔王シリーズ』の能力でなければ、傷つくことはないから、気軽でいいわね。


 ダメージを負う危険がないということで、完全に舐めてかかった私は、ドレスが差し出した、お菓子の積まれた皿の中から、まだ残っていた神様ピアスの一つを手に取った。


 さっきと同じように、触れると同時に爆発したけど、黄色のピアスが無効にしてくれるから大丈夫。


 そう思って、今度は爆発を避けることもなく、悠然と構えていた。案の定、周りが爆風に包まれる中、私は痛みを感じることもなく、涼しい顔で構えていた。


 爆発から少しして、そろそろ落ち着く頃かと思っていたら、煙をかいくぐるように、シャボン玉が私に向かって飛んできた。爆風の中にシャボン玉という、ミスマッチな光景に目を見張っていると、それは私にぶつかって爆ぜた。途端に激しい痛みに襲われる。何、これ? 痛みは無効にされる筈なのに……。いや、待って。この感覚。以前にも食らったことがある。


「ぐっ! あっ……!」


「どうした、真白ちゃん!?」


 地面にうずくまって、痛みに耐える私に、月島さんとイルが駆け寄ってきた。


「ま、前歯に鋭い痛みが……」


 折れたかと思って確認したけど、全部無事だった。


 ホッと胸を撫で下ろしながらも、以前体感したことのある能力を思い出していた。確か、アーミーが使ってきた、未体験の痛みを体感させられる能力を思い出すわ。名前は『幻想痛覚』……。


 さっきまで椅子に座って、優雅にティータイムを嗜んでいたドレスが、いつの間にか、私の前に立っていた。何の気配も感じられず、自分の近くまで接近を許してしまったことに愕然とする。


 しかも、ドレスが私たちを見ながら、あざ笑ったような気がしたのだ。


「あなた……、ひょっとして、特殊能力が使えるの?」


「……」


 口がないから当然返事はない。でも、不遜なオーラはビンビン伝わってくるわ。答えはイエスで良さそうね。あと、間違いなく私たちを挑発してきているわ。


「このドレス、口がないから、会話をすることは出来ないけど、何を言いたいのかは不思議と分かるんだよね。恐らく、神様ピアス当てゲームでも、直接のバトルでも、俺たちに勝てると思っているようだね。どっちの方法で挑むかも、こっちで決めて良いらしい」


 あら、偶然。私も同じことを考えていたわ。ドレスが否定のジェスチャーを取ってこないところから、強ち間違いでもないみたいね。


「余裕を見せてくれるじゃない……」


 ゲームでいうなら、さしずめ、こいつは中ボスってところかしら。なかなか面白い真似をしてくれるじゃないの。


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