第百二十五話 お茶のお供に爆発物はいかが?
第百二十五話 お茶のお供に爆発物はいかが?
ひょんなことから、喜熨斗さんから殺し合いを申し込まれていたけど、合流した月島さんが、代わりに受けてくれることになった。
「さすが月島。話が分かるぜ」
殺し合いの申し出に乗ってきた月島さんに、惜しみない拍手を送る喜熨斗さん。その様子を、私は傍から心配そうに見ていた。
「そうと決まれば、神様ピアスをとっとと手に入れないとな。確かまだ見ていない扉は、残り二つだったな」
「それなら、二手に別れよう。そっちの方が手っ取り早い。俺と真白とイルちゃんの組と、お前だけの組に別れて探そうぜ」
自分一人だけ除け者にされたのに、気にする素振りも見せずに、喜熨斗さんは受け入れた。彼にすれば、その後に待っている殺し合いの方が重要なのだ。
「じゃあ、俺は魔法使いの扉の先に向かう。お前はメルヘンなお姫様の方を見てこいよ」
「おう!」
ここまで私の意見が挟まれることもなく、淡々と決まってしまった。まあ、最初から挟む気もないけど。
「逃げるなとは言わないぜ。お前に限っては、あり得ないことだからな」
そう言うと、喜熨斗さんはさっさと扉を開けて、中に入ってしまった。
「俺たちも行こうか。残っているのは、お姫様の扉だけだから、どこに入るのか悩む必要もないな」
月島さんはシンプルで良いと笑っていたが、私は内心複雑だった。
「良いんですか?」
もし、神様ピアスが見つかったら、月島さんは喜熨斗さんと殺し合いをすることになってしまうのだ。私は助かったとはいえ、気分は重い。
対照的に、殺し合いをする予定の二人は軽い感じで、深刻そうな様子はない。あまりにもとんとん拍子で、話が進んでいくので、心配になって声をかけたが、月島さんは「俺に任せておけ」の一点張り。……信じて良いのよね?
不安の晴れない私をよそに、月島さんはお姫様の絵が描かれた扉を開けた。後姿からは、警戒心の欠片も感じられない。頼もしいけど、少しは身構えてください。見ているこっちが怖いです。
私はぼんやりと、月島さんの背中を見ていたけど、イルにつつかれて、慌てて後を追った。
お姫様の扉の先には、一面の花畑が広がっていた。てっきりお城の内部みたいな場所に広がっていると思っていたのに、予想が外れたわね。
さっきまで殺し合いについて論じていたのが嘘に思えてしまうくらい、のどかな光景の中を三人で進んだ。
「そう言えば、月島さんは、どうやってこの異世界にやって来たんですか?」
私は黄色のピアスがあるから、ここにやってくることが出来たけど、月島さんは所持していないから、ここには来られない筈よ。
月島さんはよくぞ聞いてくれましたという顔で、得意げに振り返った。
「特殊能力を使ったのさ。イルちゃんからもらった新しい能力をね!」
イルからもらった能力。『魔王シリーズ』の能力ね。そう言えば、能力を得ると同時に、御楽に襲撃されちゃったから、どんな能力だったか聞いていなかったわ。
今の話の流れからすると、本来なら自分が入れない異世界にも侵入できる能力と見たけど、意外だわ。てっきり攻撃系の能力をもらうと思っていたのに。私の『スピアレイン』とか、御楽の『最終審判』みたいに。気になったので、早速詳しく聞いてみることにしましょう。
「どんな能力なんですか? 全く新しい能力とか?」
「そうだね。これと同じ能力にはお目にかかったことがない。かなりユニークな能力といえるね」
ユニークか。能力を使用している月島さんもまんざらではない顔だし、もし使えそうな能力だったら、私もイルにお願いして習得させてもらおうかしら。
「ん? 前方にテーブルを発見! 誰かがティータイムを楽しんでいるね」
会話が盛り上がってきたところで、また邪魔が入ったわね。月島さんの能力はまだ謎のままな訳?
私は先に能力について教えてほしかったけど、月島さんがイルと一緒にテーブルへ向かっていったので、泣く泣く断念した。
どうせ罠だろうと思って近付いてみると、お姫様が切るようなドレスが、カップを持ちながら、さながらお茶を楽しんでいるようだった。ただドレスがお茶を飲み込むことなど出来る訳もなく、中身は空だった。
「俺たちを出迎えてくれているのかな。人数分のお茶が用意されているよ」
テーブルの上に置かれているカップの数は四つ。一つはドレスが自分のために用意した分だろう。他にテーブルに座っているのが見えないから、私たちのために用意されていると考えるのも無理はないわね。
「不思議の国のアリスで、似たようなシーンありましたよね」
幼いころに見た童話を思い出してしまう。あっちの方は、こんな優雅なものじゃなかったけどね。
お姫様のドレスにかなり接近したけど、襲ってくる気配はなし。むしろ、私たちを歓迎しているようにも感じられたわ。
というか、私たちが近付いたら、あからさまにお茶を勧めてきた。カップの中には、紅茶と思われる液体まで入っているし、やけに手が込んでいるわね。
でも、せっかくもてなしてくれるところ悪いけど、そんな怪しい液体を飲む気にはなれないわ。
「あっ、これ、意外にいけるな」
「うん、美味しい!」
……私が警戒しているのに、月島さんとイルは、勧められるままに飲んでいた。あなたたち、少しは怪しんでよ。毒が入っていたら、どうするの。
「真白ちゃんは飲まないの?」
「ええ……。喉が渇いていないので……」
本当は乾いていたけど、だからといって、こんな得体の知れない液体を飲む気にはなれないわ。こうなったら意地よ。他の二人が飲んでいても、私は絶対に飲まないんだから!
私が意地を張っているのを見て、ドレスがテーブルの下をごそごそと探し始めた。そして、何かの箱を取り出した。
箱から出てきたのは、お皿で、それに何かを盛っている。お菓子でも載せているのかしら。そこまでして、私にお茶を飲ませたいというの? いくら今おもてなしが流行りだからといっても、ここは異世界よ。怪しいわ。
私が訝しんでいると、ドレスは皿に菓子を盛りつけて、こちらに差し出してきた。
「へえ、きれいに盛り付けるものだな」
「あっ、チョコレートやビスケットもある。も~らいっと!」
これまた、月島さんとイルは、警戒しないで、お菓子に手を伸ばした。もう、この二人に警戒しろと願うのは、無意味なことと判断して止めた。
でも、本当に種類だけはあるわね。チョコレートでしょ。ビスケット。それに、キャンディ、神様ピアス。……うん、明らかに、お菓子じゃないのも交じっている。
「私はこの青いのが好きかな……」
「私も好き!」
「しかも、結構あるね」
二人も神様ピアスに気付いていたようで、当然、お茶菓子そっちのけで、話題の中心になった。
「ここが当たりだったんでしょうか」
しかも、出された神様ピアスは結構な数だった。
「これをイルちゃんに渡して、能力を要求したら、俺たち二人、一気に多数の能力を習得することが出来るね」
「はい。キメラ一派を一網打尽に出来ます」
最初からここに入れば良かったわ。そうすれば、さっさと強くなれたのに。
自分の勘の悪さに苦笑いしながら、出された神様ピアスの一つに手を伸ばす。そして、伸ばした手が、神様ピアスに触れようとした瞬間だった。神様ピアスがいきなり爆発したのだ。




