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第百十三話 2ON2

今回はいつもよりバトル成分多めでお送りします。

第百十三話 2ON2


 お姉さんに向かって、キメラと揚羽が同時に『スピアレイン』を放った。それをギリギリのところまで引き付けてから、躱す。慣れたものね。


「それなら、これはどうだ?」


 先に揚羽に撃たせて、タイミングをずらしてキメラも撃つ。最初の一撃を躱した後に、二撃目で当てるという作戦なんだろうけど、それもお姉さんには通用しなかった。一撃目を同じ要領で躱すと、直後に来た二撃目をナイフから衝撃波を出して、相殺してしまった。


「この程度の攻撃で、私を倒せると思ったのか? おめでたいやつだ!」


 お返しとばかりに、衝撃波をキメラに向けた。もちろん、当たる前に『スピアレイン』で相殺される。


「身のこなしは相変わらずだな。揚羽、ペースを上げるよ」


 物量作戦で攻めることにしたキメラは、揚羽と一緒になって、『スピアレイン』を連射し始めた。


 お姉さんは懸命に対処するが、さすがに手が行き届かずに、徐々に黄色のピアスにダメージが蓄積していった。


「順調だな。ごり押しで僕たちの勝ちだ」


「ああ……、お姉ちゃんがやられちゃう……」


 口では心配しているものの、揚羽の顔は興奮で赤らんでいた。姉を窮地に落としておいて、興奮しているらしいわ。理解に苦しむ性癖をしているわね。


「あああ……。またかすった。お姉ちゃん、そろそろ降参した方が良いと思うよ。キメラは許してくれないと思うけど、うん」


「……さっきまで攻撃を渋っていたやつとは思えん台詞だな。やはりお前は信用できない」


 表情からは余裕はなくなっていたが、それでも毒舌は健在。自身を鼓舞するかのように、強気な態度を崩さなかった。


 この後、キメラか、揚羽のどちらかが、止めの一撃を放って、窮地に陥ったお姉さんを駆けつけた私がガードするというのが、お約束の展開なんでしょうけど、その前に到着するのが私の偉いところよ。


「お姉さん!」


「真白か」


 いつも通りのぶっきらぼうな口調で、お姉さんは私を出迎えた。口元辺りが緩んでいないかなとも期待したけど、変化なし。お姉さんってば、本当に鉄の女!


 気を取り直して、キメラに向き直ると、高らかに宣言してやったわ。


「待たせたわね。ここからは私も参戦させてもらうわよ!」


 このまま最終決戦に突入しても良いくらいだわ。引導をしっかり渡してあげるから、期待していなさい。


「遅れてきたくせに、生意気だわ……」


 揚羽が怒りで震えながら睨んできているけど、その顔もすぐに恐怖に染めてみせるわ。


 けれども、肝心のキメラは衝撃を受けるどころか、ほくそ笑んでいる。何よ、私の登場がそんなにおかしい訳? 失礼しちゃうわ!


 そんな私に向けてキメラが放った、思わぬ一言に、私は戦慄した。


「わざわざイルをここに連れてきてくれてありがとう。探しに行く手間が省けたよ」


 え? イルですって!?


 驚いて振り返ると、ちょうどイルが、私にすり寄って来るところだった。


「ど、どうしてここにいるのよ? 牛尾さんに預けてきたはずなのに!?」


 責めるような口調で、イルに詰め寄ったが、本人は「お姉ちゃんと離れるのは嫌!」と、相変わらず駄々をこねる。ここまで来ると、可愛いという感情も奥に引っ込んじゃうわ。わがままも度を越すようなら、叱りつけてあげないと。ただし、この戦闘が終わった後にね。


「揚羽はお姉さんの相手を続けてくれ。僕はこの二人を潰す」


 さっき見せてくれた笑顔は一瞬で鳴りを潜めると、温度を感じさせない冷たい声で、私と対面した。


「心配しなくいい。君は殺さないように、マスターから言われているから、極力危害を加えないように善処しよう。だから、あまり下手に動き回らないでくれよ」


「ふんだ! 萌の人形を狙っていたくせによく言うわ。それとも、私は殺すなと言われていたけど、萌は殺していいと言われていましたとでも、言い訳するつもりかしら」


「そんな言い訳はしない。もちろん、萌ちゃんも殺すなと言われている一人さ。でも、僕の前に立ちはだかるなら、仕方がない。それは君も同じことだよ」


 開き直りともいえる台詞だが、こいつに体を盗られた私にとっては、妙に納得のいく言葉だった。


「しっくりくる説明で、助かるわ。これで心置きなく……」


 台詞を言い終えるより先に、『スピアレイン』を放つ。光の槍がキメラに向かって、最大速度で飛んで行く。


「あんたを片づけることが出来るわ!」


 お父さんが何を考えて、キメラを暴走させたのかは知らないけど、私にとっては脅威でしかないの。だから、排除させてもらうわね。気に入らなかったら、今すぐ眠りから覚めて、私に説教しに来てちょうだい。お互いの拳で、感動の再会と洒落こもうじゃないの。


「……何か余計なことを考えていないか?」


 私の放った『スピアレイン』は、キメラの『スピアレイン』によって、相殺された。


「僕に勝った後のことを考えていそうな顔だ。違うか?」


 キメラは正確に私の考えていることを言い当てていた。きっと顔に出てしまっていたのね。でも、それがキメラのプライドを刺激したのは確か。


「心外も甚だしいな。こんなちゃちな攻撃一発で、僕が倒れると思っているのかい? 『魔王シリーズ』を手にしたから、浮かれすぎているんじゃないのか?」


 私の目をじっと見据えながら、キメラが一歩一歩着実に歩み寄ってくる。


 私が浮かれまくっているですって? そっちこそ、一撃を華麗に躱したくらいで浮かれているんじゃないの? そういうのは、これを躱してから言いなさいよ。


 『スピアレイン』を発射する光の球体。これ、何も上空に発生させなくてもいいみたいね。一度、能力を解除して、再度発動。光の球体を出現させたのは、キメラのすぐ近く。


「!」


「その近距離から撃ったらどうなるかしら? ちゃんと躱せるか見ものね!」


 ちなみに私なら無理。こんな近距離からの砲撃、絶対に躱せない。あなたはどうかしら?


 不意も突いたみたいなので、もしかしたら上手くいくと思ったのだが、キメラは今度も余裕で相殺してしまった。


「僕をあまり舐めないでもらいたいな」


 二度も私の攻撃をあっさりと躱したキメラは、殺気に加えて、軽蔑を含んだ眼差しで、私を見つめた。


「僕が何者なのか忘れたのかい? コンピュータの最新式のプログラムだよ。素早い処理は得意分野だ」


 確かに、咄嗟の行動はお手の物だとでも言いたげの、危なげのない対処だった。ここまであっさり対処されると、さすがにショックね。でも、呆けている暇は、私にはなかったわ。


「ほらほら~! よそ見している暇はないわよ!」


 大声で揚羽が、自分の姉と私に、『スピアレイン』を同時に砲撃してきた。しかも、心なしか撃つたびに、性格がハイになっている気がする。俗に言うトリガーハッピーな性格らしいわ。


「よそ見している暇がないのは、お前の方だ!」


 揚羽に向かって、お姉さんが衝撃波を放った。揚羽が私にも攻撃を仕掛けているおかげで、反撃する隙が出来たようね。私への攻撃を中止して、お姉さんから放たれた衝撃波を『スピアレイン』でガードした。


 その隙をついて、揚羽を攻撃してやりたいところだけど、キメラからの攻撃に対処しないといけないから、せっかくのチャンスも活かせない。歯がゆいわね。


「キャハハハ! すごい、すごい。面白い!」


 あちこちで土煙の舞う派手な乱戦で、気分がハイになってしまったのか、イルが私にしがみつきながら奇声を上げてはしゃぐ。楽しんでいるようだけど、私たちが負けたら、あなたは死ぬのよ。そこのところ、分かっているのかしら。……分かっていないんでしょうね。ここまで危機感のない性格は、ある意味で尊敬に値するわ。


「アヒャヒャヒャ! みんな、みんな、撃ち殺されちゃいなさいよ!!」


 イルに負けず劣らず、揚羽の気分もどんどんハイになっている。というか、どこまでハイになるのかしら。今のところ、天井知らずだわ。


 互いを撃ちあうのに、私は既に一杯一杯なのに、キメラも揚羽も、まだまだ余裕を感じる。お姉さんは、まだ顔に余裕があるものの、いつまで体力が持つか分からない。衝撃波を撃つために、ナイフをいちいち振り回しているので、消耗は一番早い筈だから、うかうかしてもいられないわ。


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