それを人間と定義するなら
現在、戦場は3つのグループ間で繰り広げられている。
1、覚醒した【高潔なる二面性】。
2、サレスに引き離されつつある3人の生き残り。
3、その先を征くサレスとフリード。
それぞれの戦場で得物を振るう狩人たちには戦力差があるが、そこで相手取っている触手の強さもまた均一ではない。
ライトに精神が乗っ取られる前からそうだったのだろうものの、それぞれの強さに合わせて数や強弱が変化していた。
具体的には、6:1:3といったところか。
ああなる前のライトは仮にもAランク狩人、〝敵戦力の見極め〟というその一点においてはユニとマリア以外の人間に対する興味を持っていなかったエルギエルより優れており。
死の恐怖を一瞬でも抱かせた矮小極まる下等生物の排除を最優先していたエルギエルと違い、ライトの意識の大半は倒れていた優男の中から現れた気怠げな美女に割かれていた。
その判断は、決して間違いではない。
口だけは達者なAランク下位相当の雑魚とは比較にもならない強者特有のドロリとした覇気を纏うそれを、ちょっと他より人間を殺すのが上手いだけの少年の排除を優先するが為に一時的にでも捨て置くなど愚行という他ないからである。
……そう、ライトは決して間違っていない。
少年の内に澱む殺人衝動が、すでに【高潔なる二面性】と同等の脅威に成りつつあるという、その一点を除けばだが。
「く、そ……ッ、もう、身体が思うように……」
『随分ト怠ソウダ、僕ガ終ワラセテアゲルヨ』
「ッ!? しまっ……!!」
一方、【伝播する怠惰】の影響がいよいよ洒落にならないところまで及び、もはや武器を持っている事も億劫になり始めていた3人の護衛たちの隙を、ライトが見逃す筈もなく。
『【戦闘術:充填】、ソシテ──【剣操術:連撃】』
「嘘でしょ!? アレって……!!」
「技能……ッ!?」
(マズい、躱し切れな──)
無数の細い触手を束ねた巨大な触手を幾つも振りかぶったかと思えば、あろう事か彼はそれらを【剣】と認識した上で戦士と剣の技能を発動、3人を屠るべくそれらを振るい。
人間の肉体では不可能だった、その1本1本に2つの斬撃が込められた触手の弾幕を前にした3人は、もはやこれまでかと己の不甲斐なさを悔いながら死を覚悟していたのだが。
「──【爪操術:穿孔】」
「「え……ッ!?」」
『オヤ……?』
「サレス……!?」
その瞬間、音の伝達にも等しい速度で3人と弾幕の間に割って入ってきたフリードに乗る少年、サレスが力強いとは世辞にも言えない手つきで振るった高速回転する斬撃と風圧によって、彼らだけを避けるかの如く触手の一部に穴が空き。
「……やっぱり、いける。 殺せるんだ」
サレスとフリードを除く全員が困惑や疑念や驚愕に包まれる中、少年はフリードの背に降り立ちつつ爪の粘液を拭う。
不気味極まる触手を人間と定義するなら、攻撃も通せる。
それが、生粋の殺人者として覚醒した今のサレス。
『中々ヤルジャナイカ、君。 少シバカリ見縊ッテイタヨ』
「別に嬉しくないです、これから殺す人に褒められたって」
『……上等ダ、マズハ君カラ始末スルトシヨウ』
そのたった一撃で、ライトも少年を脅威と認めたようだ。
少なくとも、彼が定めた比率を変えさせるくらいには。




