ある者には絶望を、ある者には歓喜を
フュリエルが事態を訝しみ、ユニが事態を面白がる中。
「今の声、口調……ッ、冗句じゃ済まされねぇぞ……!!」
「何で……何であの人の声が……!?」
護衛の4人は、ただただ困惑しきっていた。
ユニを始めとするSランク狩人を基準にしてしまうと見劣りするが、Aランクの最上位に座す最後の希望もまた認知度で言えば〝英雄〟と呼んで差し支えないほどのものがあり。
この国に住まう者たちはもちろん、それ以外の国に住まう狩人ではない者たちにさえ名と姿を知られている者が殆ど。
言うまでもなく、【輪廻する聖女】もその1人であり。
そんな彼女を、しつこいぐらいの勧誘で引き入れる事に成功したAランクパーティー、【白の羽衣】も凡百の高ランクパーティーとは比較にならぬほどに名が通っていたようだ。
もちろん、ここに居合わせた4人も例外ではない。
元々【白の羽衣】の面々に嚮導役を務めてもらった過去を持つ【銀の霊廟】は当然ながら、【紅の方舟】もまた目の上のたんこぶとして彼らを意識せずにはいられなかったとか。
そして、そんなAランクパーティーのリーダーが今。
(マリア同様あの天使に呑み込まれたライトが天使の精神を乗っ取ったと考えるしかねぇが……だったら何で天使と同じように俺らを殺そうとする!? アイツの目的は何だ……!?)
仮に魔剣士の推測通りの状態になっているとして、では何故エルギエルの行動までもを引き継いで自分たちを排除しようとしてくるのかが全く解らない事も困惑の一因だったが。
そんな疑念に囚われている余裕など、ありはしない。
……否、囚われてしまったからこそ──。
「──え"、あ……ッ?」
「!? そんな……!!」
「クソがァ!!」
強化術師は一瞬、攻撃への反応が遅れてしまい。
致命傷で済めば或いは、と魔剣士が剣を振るうも全てを捌く事など【伝播する怠惰】の影響下では到底不可能であり。
強化術師に喰らい付いた触手を斬り落としたと思ったのも束の間、断面から溢れ出した無数の小さな触手の群体に覆い尽くされた後、肉片の1つも残さず貪り喰われてしまった。
状態好化は、ひとたび付与すれば使用者が死んでも続く。
とはいえ、それも永続ではない。
あと数分もすれば最期の状態好化は解除され、どうにかこうにか引き離される事なく追従できていたサレスとフリードに大きく遅れを取り、孤立し──やがて始末されるだろう。
(((よりにもよって……!!)))
何故、自分からではなかったのか。
最も失ってはならない駒が欠けた時点で、もう自分たちは役割を果たす事もできない無意味な存在となってしまった。
……ライトは、知っていたのだろう。
強化術師の厄介さと、それを失った際の落差を。
残された3人を、悍ましいまでの絶望感が苛む中。
「……くひっ」
『EA?』
「あぁ、ごめん。 何でもないよ」
サレスは静かに、されど確かに──……ほくそ笑んだ。
精神が、天使から人間に切り替わったというのなら──。
(──殺せる……人間なら、殺せる……っ!!)
何の支障もなく、己が〝欲〟を満たせるではないかと。




