表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

360/364

指示に背いてもなお

 武闘匠バトルマスターが命を落とした事で、残るサレスの護衛は5人。


 前衛1人、中衛3人、後衛1人という何とも歪な構成。


 加えて言えば、中衛の全員が【銀の霊廟(グリトルス)】に属するCランクの狩人ハンターであり、こちらが護衛対象だと言われても納得しかねないほど前衛や後衛との練度に差があるのは間違いなく。


 更に、よりにもよって召喚士サモナー死霊術師ネクロマンサー強化術師エンハンサーからなるその3人が、この策の中核を担っているという事実が前衛の魔剣士キャバリエと後衛の神官プリーストの心身に多大な負担をかけていた。


 ……いや、それでも精神的にはまだ折れていない。


 聖騎士パラディンの命を賭した鼓舞のお陰だろうか。


 問題なのは、あまりに激しいHP(体力)の減少と肉体の損傷。


 魔剣士キャバリエの片腕欠損はもちろんの事、蠕蚯蚓竜ぜんきゅういんりゅうの亡骸を触媒とする触手を覆う人体には有毒な粘液によって装備は著しく損傷し、その奥にある肉体をも俄かに蝕み溶かしていく。


 当然、それを許さないのが後衛を担う神官プリーストの役割ではあるのだが、どうにも彼らの肉体に治癒の形跡は見られない。


 魔剣士キャバリエに『余計なMP(魔力)を使うな』と言われたから?


 ……否。


 彼は、とうに【神秘術:回復(ヒールスペル)】を発動している。


 しかも1度や2度ではなく、何度もだ。


 たとえ今ここで死んでも【輪廻する聖女(セイントオブオラクル)】さえ救う事ができれば後々蘇生が可能となる──という事は理解している。


 だが、それはそれとして最低限の回復すらも節約したせいで貴重な戦力を喪失してしまっては本末転倒である為、命を繋ぎ止める程度の回復だけは常に欠かしていなかったのだ。


 なのに、回復の形跡が見られないのはどういう事か。


 答えは簡単。


 回復が、()()()()()()()()だけ。


 実を言うと、すでに彼は魔剣士キャバリエからの『余計なMP(魔力)を使うな』という命令に近い指示をかなり早い段階で破っている。


 そうでもしないと間に合わないと理解したからだ。


 しかし、そうまでしてもなお間に合っていない。


 彼は仮にも現状Bランクかつ適性Aランクの神官。


 人間相手であれば遅れを取る事の方が珍しく、たとえ竜化生物や竜化病を発症した人間や獣が相手であっても仲間と連携すれば苦戦こそすれ敗北を喫する可能性は限りなく低い。


 だがそれも全ては『このランク帯の狩人ハンター、或いはパーティーなら難易度的に問題なく達成できるだろう』と協会ギルドが判断したクエストに向かっているがゆえの達成率の高さであり。


 更に言えば、ここに居ないホドルムと副リーダーの魔剣士キャバリエによる指揮能力や単純な戦闘力も相まって、Aランクパーティーまで昇り詰める事ができたのは間違いない──……と。


 今も最前線で戦い続けている魔剣士キャバリエに視線を向けた時。


「!? おい、どこに向かってやがる! 標的はあっち──」


 何故か前を征く5人と1匹が少しずつ軌道を逸らし始め。


 どう見ても壁の方へ向かっていると気づいた彼が『寝ぼけてんのか』と注意喚起せんとした──……まさに、その時。


 彼の叫びに呼応して振り返った5人と1匹は。


「──……は、あ?」 


 5人と1匹ではなく、1つの〝塊〟だった。


「よく見ろ馬鹿野郎! そいつら偽物だ!」


「あの天使の罠です! 早くこっちに!」


(まさか、【忍法術:同形(ブンシン)】の意趣返しを……!?)


 そう、そこに居たのは細い触手同士が絡み合い蠢き合う事で擬態していた5人と1匹のようなモノであり、どうやらエルギエルは思っていたより忍者シノビの分身に騙された事を根に持っていたのだろうと、それを擬態という形で意趣返ししてきたのだろうという事までは解ったが対処するにももう遅い。


 ならば、ここで彼にできる事は──……これしかない。


「ッ、受け取れお前らァ!! 【神秘術:祝福(ブレッシング)】!!」


「「「「……!!」」」」


「後は、たの──」


「〜〜……ッ、征くぞ!!」


「「「はい!!」」」


 一時的かつ持続的なHP(体力)回復効果の付与や微量のLUK(運勢)上昇効果を持った状態好化バフを、護衛対象サレス込みで付与する事と。


 あの時の聖騎士パラディンと同じように仲間の背中を押す事。


 技能スキルに込められた真意を瞬時に悟った4人が、それ以上そちらを振り向く事なく前へ、天使の方へ意識を向ける一方。


(……どうして、あんな献身的になれるんだろう)


 その中心で護られ続けているサレスは、困惑していた。


 彼の心には存在し得なかった、〝献身〟という概念。


 あの劣悪な環境下では芽生えようがなかった他者への〝思いやり〟を今、成人して初めて理解しかけていたようで。


(ボクも、あんな風になった方が……でも、ボクは──)


 この場は己が要であり、命を賭すわけにはいかないと解っているが、いずれそういう場面に遭遇したのなら見習うべきなのだろうかと、またも普通の感情を抱きかけるサレス。


 しかし、まだ抱きかけている程度に留まっているのはユニの存在が大きく、己の才を見つけてくれたあの狩人ハンターの期待に応えたいという想いが彼のまともな成長を阻害して止まず。


 ユニの歪んだ期待に応える為には、気づかねばならない。


 己の本質が、罷り間違っても他者への〝献身〟にはなく。


 無慈悲で貪欲で利己的な、〝殺意の奔流〟にある事を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ