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竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


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Sランク(?)のお手並み拝見

 単独で迷宮を進んでいたレイズと合流、嫌々ながら同行を許可してからというもの、1つ明らかな変化が起きていた。


「──……増えたよな、襲撃」


「えぇ、明らかに……」


 そう、どういうわけか潜入当初より明らかに減少していた彷徨う者(ウォーカー)の襲撃頻度が、ここに来て盛り返しつつあるのだ。


 実際に襲い来る個体の数自体は最初の総攻撃に及ぶべくもないが、それでも少しずつ、少しずつ彼らは消耗しており。


 このままだと【最強の最弱職(ワーストゼロ)】の手を借りずして最奥まで辿り着く事など夢のまた夢なのでは、と思い始めていて。


 その原因こそ明らかになってはいないが、しかし。


「キッカケっつーなら……なぁ?」


「……()()()、ですよね」


 彼らの視線の先に居る人物は、もれなく一致している。


 襲撃頻度が増したタイミングで起きた変化はといえば。


「〜♪」


 この男、【高潔なる二面性(デュアルノーブル)】が一行と合流した事。


 当の本人は、もうすぐ【輪廻する聖女(セイントオブオラクル)】を救えるからかユニと共に在れているからか、とにかく上機嫌な様子だが。


 そんな呑気な彼を見ていると、流石に思うところもあり。


「……なぁ、次はアンタも──」


 そろそろSランクらしい活躍の1つも見せてくれ、と指示にも似た願いを【紅の方舟(ナグルファル)】の魔剣士キャバリエが口にせんとした時。


『『『──WOOOORMッ!!』』』


「ッ、また来た!! 構えろ!!」


 もう何度目かも解らない襲撃の刻が訪れる。


 数は、およそ30ほど。


 万全な状態であれば多少の苦戦こそすれ問題なく掃討できようものの、残念ながら今の彼らを見て万全とは言い難く。


「ッ、おい! そろそろアンタも戦ってくれねぇか!?」


「えぇ? これくらい君たちでもやれるだろうに」


「だとしてもジリ貧なんです! どうか助力を……ッ!」


 ユニは何を言っても戦わないだろうし、もし無理を言ってホドルム蘇生の約束を反故にされては敵わない、そう判断してレイズに助力を求める魔剣士キャバリエに、聖騎士パラディンも便乗して叫ぶ。


 当の本人は、『この程度も切り抜けられないような弱卒が何故ここに?』とでも言いたげな様子で肩を竦めていたが。


「……仕方ない。 そこまで言うなら魅せてあげようかな」


 ここで無駄に手間取っていてはマリアを救えないかもしれない、そうでなくとも『救助が遅い』として疎まれてしまうかもしれない、そう思ってか溜息をつきつつ1歩前に出て。


「 〝カストル〟、〝ポルクス〟。 出番だよ」


「あ、あの双剣は……ッ!!」


 腰に差した鞘から抜き出でたるは、2振りの長剣。


 金色に輝く煌びやかな装飾が特徴の〝カストル〟。


 漆黒の光沢を放つ剣身が特徴の〝ポルクス〟。


 双方ともにSランクと銘打たれた迷宮宝具メイズトレジャーである。


 当然、その評価に相応しいだけの能力も秘めてはいるが。


「【剣聖術:付与(エンチャント)】──火と氷でいいかな?」


『『──』』


「そっか、それじゃあ行くよ──」


 この程度の強さ、そして数の相手にそれを発揮する必要はないと踏んだのか、まるで2振りの剣に意思があって当然だとでも言いたげに声をかけた後、属性を纏わせた剣を手に。


「── 【剣聖術:属刃(エナジーブレイド)】、【剣操術:連撃(ダブルエッジ)】」


『『『O"ッ、AAAA……ッ!?』』』


「視覚があるのか知らないけれど、もしあるのなら確と焼き付けておく事だ。 君たちに捧ぐ──〝死出の剣舞〟をね」


 麗しき舞踊が如き剣技による、殺戮が幕を開ける。


 今も自身へ襲い来るそれらが竜化生物ではないという事に気づいているかはともかく、いくら何でもLvに変動が一切ないという事には気づいている筈だが、これといって違和感を持つ事もなく、次から次へと触手を掃討していくレイズ。


「す、凄い……! 何て流麗な動きと剣捌きだ……!!」


「やはり、あの双剣を用いての剣舞こそが彼の……?」


「あぁ、あの男が【高潔なる二面性(デュアルノーブル)】と呼ばれる所以だ」


「……」


 そんな風に眼前で繰り広げられるレイズによる一方的な戦闘に、【銀の霊廟(グリトルス)】の5人はもちろん【紅の方舟(ナグルファル)】の3人さえ魅了され、〝二面性〟とは正しく2振りの迷宮宝具メイズトレジャーの事を指しているのだと改めて認識し直していたようだが。


 それを又聞きしていたユニは、ただただ溜息をつく。


 ……()()()()()()()()、と。


 さも他人事が如く戦闘を俯瞰していた、そんな彼女に。


「ゆ……ユニさん」


「ん?」


「あの人、本当にSランクなんですか……?」


「……どうしてそう思うんだい?」


 疑念を溜め込んでいられなかったサレスが問いかける。


 曰く、『あの程度でもSランクになれるのか』──と。


 そんな少年の疑問に対し、ユニは質問で返す。


 曰く、『どこを見て、その疑念を持ったのか』──と。


「た、例えばですけど……今のボクじゃユニさんは殺せません、どれだけ時間をかけても……でも、あの人は3手あれば殺せると思うんです。 これって、おかしいですよね……?」


「あぁ、そういう見方ね……」


 その理由を、サレスは言葉に詰まりながらも説明する。


 殺人者の本能が、あの男を〝弱者〟と断じたのだと。


 それを聞いたユニは、『なるほど』と納得した後。


「君の見解は正しいよ。 ()()アレは甘く見積もってAランク下位、Sランクどころか最後の希望(ラストホープ)にさえ劣る雑魚だ。 それでもアレがSランクとして扱われている理由こそが──サレス。 君が最初に問うてきた疑問への解答に繋がってくる」


「本当にSランクなのか、っていう……?」


「そう。 アレは、【高潔なる二面性(デュアルノーブル)】は──」


 今ここで戦っている時以外は違うのか、という新たな疑問はさておき、ああして戦っている彼にはBランクをギリギリ上回る程度の実力しかないと断言しつつ、その理由の全てが少年の抱いた疑問への答えになると告げたユニの返答は。


「──半分Sランク(そう)で、半分Sランク(そう)じゃないんだよ」


「は、半分?」


「ま、いずれ解る。 さぁ、私たちも行こう」


「え、あ、はい……っ」


 どうにも、要領を得ないものだった。

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