第3王子の目的
「……はっ? せ、【輪廻する聖女】を……?」
世界に7人しか居らず、ある意味Sランクより貴重とも言える最後の希望の一角、マリア=ローゼスとの結婚だと当然のように答え、それを聞いた聖騎士は唖然としてしまう。
聖騎士のみならず、ユニ以外の全員が。
「そうさ。 あの美貌、あの実力、何より人間の身でありながら天界への干渉が可能……正しく僕の伴侶に相応しい──」
その一方で、レイズの得意げな表情は声色にまで伝播していき、マリアの魅力を列挙するだけならまだ良かったが。
「──いずれアイズロンの王になる、この僕の伴侶に」
「!? アンタ、継承権を放棄したって聞いたぞ!?」
「それは兄たちが流布した誤報。 姑息だよね」
優秀な王太子や第2王子に敵わないと悟り、継承権を自ら放棄して狩人の道を選んだ──という、もはや国中の人間が知っていると言っても過言ではない噂はレイズの兄たちによる妨害工作だったと聞かされて更に困惑する彼らをよそに。
「僕が王になった暁にはマリア嬢を妃とし、この国をジークガイアきっての大国にするんだ。 Aランク最強格とSランクが統治する国は素晴らしいものになる、そうは思わない?」
「……ッ」
もうすでにアイズロンの王となる事を前提とし、マリアとともにドラグハートやウィンドラッヘといった大国をも凌駕する国に造り直すとさえ決めているらしい彼の未来予想図に、唇を噛みちぎりそうな勢いで悔しがる聖騎士が1人。
この様子だと、おそらく彼もマリアを──。
──……閑話休題。
レイズが現れてから沈黙を続けていたサレスはと言えば。
「……?」
ホドルムを5手で殺害した時と同じように、『何手で殺せるか』を殺人者としての本能で考えてしまっていたのだが。
どうにも、様子がおかしい。
何やら納得がいかないようだ。
それもその筈、新進気鋭のAランクは5手だったのに。
(……4? いや、3……? これで、Sランク……?)
眼前の軟派なSランクを〝3手〟と見てしまったから。
何度も何度も脳内で模擬戦闘はした。
だが何をどうやっても目の前のSランクには『4手どころか3手で充分』という結果になってしまい、この程度の危機管理能力でもSランクになれるのかと首をかしげるサレス。
とはいえ、それを今ここで言って何になるのか。
誰が自分の無意味な目測を真面目に聞いてくれるのか。
そう思って自分で虚しくなった少年が溜息をつく中。
「……『極力、私に関わるな』。 これを守れるなら……」
「そう来なくては。 さぁ征こう、未来の伴侶の下へ」
「「「……」」」
やはり最初から1人ないし2人と1匹で来れば良かったと後悔しつつ、こうなってしまったからには譲歩するしかないと判断したユニからの妥協案にレイズはニコリと笑って踵を返し、さも自分がリーダーであるかのように進み始めた。
その背中に、言いようもない嫌悪と疑念の視線を受けて。
(たとえSランクが競合相手でも、僕は……ッ)




