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竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


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2つじゃなくて?

 今、彼女たちの前では激しい戦闘が繰り広げられており。


 まともな感性をしていれば『それどころではない』と解りそうなものだが、それでも伝えるべきと断じたという事は。


 それだけ重要度の高い事案であるという事なのか。


 それとも、()()()()()()()()()()()という事なのか。


 いずれにせよ、3柱の中でも最も誠実で忠実で──それでいてユニを神と同等に崇めてさえいるフュリエルが、この状況で


 無碍にするという選択こそしないが、それはさておき。


「……2つじゃなくて?」


 どういう理屈からか、ユニはフュリエルが言った『お伝えすべき事』を、3つではなく2つだと勝手に推測していた。


 その発言は、フュリエルが伝えるべき事を伝える前からすでに把握しているという事の証明に他ならなかったものの。


『流石で御座います。 とうに2つも看破しておられるとは』


「そうなると、あと1つが気になるな。 確認しても?」


『是非に及びません』


 差異が生じているという事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があるという事であり、それを双方ともに理解しているからこその擦り合わせが始まる。


 ……1つ目。


『1つは、あの人間たちが相手をしている蠕蚯蚓竜ぜんきゅういんりゅうが竜化生物ではないという事です。 こちらについては如何ですか』


 8人が必死に戦っている蠕蚯蚓竜ぜんきゅういんりゅうの群れの中に()()()()()()()()()()()という、驚愕と困惑に彩られかねない事実を何の気なしに明かしてみせたフュリエルに対して、ユニは。


「それは知ってる。 【通商術:鑑定(アプレイザル)》】で視たから」


『文字通りの()()()、畏れ入ります』


 すでに見抜いている、とやはり何の気なしに返答する。


 EXランクの転職士リワーカーである彼女は、ごく一般的な転職士リワーカーと違い『職業ジョブを切り換える』と思考したその瞬間に転職が可能となっている為、既知の竜化生物が相手であっても必ず最初に商人トレーダーに転職、【通商術:鑑定(アプレイザル)】を発動する傾向にあり。


 今回もそうした結果、図らずも知る事になったようだ。


 少なくとも、あれらが竜化生物ではないという事を。


 ……2つ目。


『では次に、あの竜化生物擬きの正体についてですが……』


「うん」


『何と申し上げれば良いか……アレは、情けなくも──』


 じゃあ、竜化生物でなければ何だというのか。


 それを告げるだけだというのに、フュリエルは言い淀み。


 情けない、と言ったからには彼女自身に何らかの責でもあるのかとユニは勘繰ったが、それは少し違っていたようで。


『──……()()()()()()()、に御座います』


「あぁ、()()()()()使()()()()()()んだ?」


『そう、なります』


 フュリエルが告げたのは、8人が戦っている竜化生物のような何かが全て、フュリエルと同じ天使の一部だという事。


 前脚も後脚もなく、翼はあったりなかったりする化け物じみた無数の触手が全て、天界の住人由来のものだという事。


 最初からフュリエルの言を疑うつもりなど毛頭なかったユニだったが、その発言のお陰で1つの謎が解けていた。


(どうりでLvが視えないわけだ)


 天使に限らず、悪魔も死霊も共通してLvを持たない。


 ゆえに、Lvすら視えなかったのだ。


 ちなみに『天使で合ってた』という発言からも解るようにユニの【通商術:鑑定(アプレイザル)】は低Lvの商人トレーダーでは看破し得ない情報も読み取っていたが、かと言って全ては視えておらず。


「位階は? 流石に君と同列って事はないと思うけど」


『……第4位階、〝主天使ドミニオン〟ではないかと』


「へぇ……」


 全部で9つあるという天使の位階についてを問うてみたところ、返ってきたのはフュリエルより3つも下の中位階。


 天界の者でありながら唯一至上神スプリームゴッドより御言葉を賜る事も叶わず、熾天使セラフィム智天使ケルビム座天使スローンからなる上位3位階に属する天使の命令で動く、〝遣いの遣い〟とも言うべき天使たち。


(その割には苦戦してるな──)


 ……の中では最上位であるとはいえ、フュリエルを圧倒したユニからすれば中位3位階などもれなく弱卒に等しく。


 普通の狩人ハンターは下位3位階でさえ苦戦しても何らおかしくない、という事実を知らずに疑問符を浮かべていた、その時。


 ふと、今回の目的を思い出したが為に新たな疑問を抱く。


「──っていうかさ、それだと【輪廻する聖女(セイントオブオラクル)】を天界の者がその手に掛けたって事にならない? いいんだっけ、それ」


 フュリエルを従える己を除けば唯一、精神のみとはいえ天界への干渉を可能とする人間という事もあってか、マリアは熾天使セラフィムまで含めた全ての天使から一定以上の敬意を持たれている、と他でもないフュリエル自身から聞いた事があり。


 4柱の熾天使セラフィムを除く天使側からの過干渉は禁じられているとも聞いていたユニからすると、マリアが未帰還となった迷宮に主天使ドミニオンが居る事自体が謎に思えて仕方なかったようだ。


『……よろしくは、ありませんね。 何としても消さねば』


 そして、それはフュリエルにしても自明であり。


 神の意思に反する同胞──……否、すでに同胞と呼ぶにも値しない叛逆者への殺意を秘めた白炎を揺らめかせつつ。


『……まぁ、ひとまず置いておきましょう。 最後に──』


 何はともあれ対面してからだ、と完璧に己を律してみせたフュリエルが最後の1つについて語り始めんとしたその時。


「──先に迷宮ここへ潜ってるヤツらが居る、だろう?」


『……仰る通りです』


「で、これは君の方が知らない事だろうけど──」


 1つ目が把握済み、2つ目が看破したが確証なしだった時点で、3つ目が把握済みの事案である事はすでに明らかで。


 むしろ、これからユニが語る事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと前打ってから一呼吸置いて──。


「──私の予想じゃ多分、()()()()()()()()()だよ」


『えっ?』


 限りなく確信めいた予想を、心なしか渋面で口にした。

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