上下前後左右、全てが──
ラオークが提示した条件に従い、〝仮免許〟の発行を受けて竜狩人側の盗賊に就き直したサレスは今、盗賊ではなく。
以前、【黄金の橋】相手に適用した【増強術:躍進】をユニが発動した事で、これまでとは異なる職業に就いていた。
……何となく解るだろうが、それはまたおいおい。
とにもかくにも、まだ竜狩人として経験がゼロのサレスを先頭に置いて迷宮へ潜入する事になったユニたち10人。
Fランクが1人、Cランクが4人、Bランクが3人、Aランクが1人、そしてSランク──もといEXランクが1人。
何とも歪な捜索及び救助隊が、潜入直後に見たものは。
「な……何だこれは……地面も、壁も、天井も……ッ」
「全部が、〝砂〟……?」
上下、前後、左右。
目に映る全てが〝砂〟という、奇妙な光景だった。
この世界にも、〝砂漠〟は存在する。
だが、そこには当然ながら砂漠と緑地の境界線が然りとあるし、もっと言うなら目線を上に向けるだけで空が見える。
しかしこの迷宮は、正しく全方位が砂に覆われている。
……否。
壁、床、天井──全てが砂で構成されているのだ。
扉を通り抜ける際の僅かな浮遊感の後、『ざふっ』という足音が全員から──サレス以外の全員から鳴った以上、水で固められているわけでもないのに崩落の兆候も見られない。
とはいえ、それ自体は特筆すべき事でもなかった。
そもそも迷宮とは、この世界を生きる者たちが頭の中で想い描いたありとあらゆる〝可能性〟を三界の支配者たちが拾い上げて気紛れに創った、いわば〝法則無視の無限回廊〟。
何が起きてもおかしくはない、そういう場所なのだから。
では今、最も注視せねばならぬのは? ──と。
「おい〝穀潰し〟」
「え……」
「『え』じゃねぇ、さっさと教えろ。 こン中の──」
それについてを、この迷宮を攻略する上での重要なピースであるところのサレスに確認しようとした【銀の霊廟】の武闘匠からの蔑称に嫌な反応を見せたのは当人ではなく。
「この子はサレス。 そう呼べないなら帰ってもらうよ」
「……チッ」
一応、彼の推薦人とも言うべき【最強の最弱職】。
頭まで下げて初めて同伴を許してもらえるような立場の分際で、人を見て態度を変える馬鹿なんて必要ない──暗にそう吐き捨てられた気がして思わず気まずげに彼が舌打つ中。
「仲間がすまない、サレス君。 だが僕も聞きたい──」
リーダーである聖騎士はサレスの今までの評判を知っていながらも揶揄するような事はせず、それでいて仲間が言おうとした事も代わりに聞き出そうとするべく一呼吸置きつつ。
「──この中のどれが、進むべき経路なのかを」
全員の視線を、サレスや自分から周囲の光景へ移させる。
全方位が砂に覆われた、この迷宮の壁・床・天井に在る。
無数とも言うべき、ぽっかりと空いた深く大きな穴へと。




