あちらの長の黒歴史
膝元に置かないという事は、つまり。
この街の首狩人協会には登録させないという事であり。
〝竜も首も関係なく、辞めた協会への出戻りは不可〟という規則がある以上、竜狩人協会を辞してしまったサレスは。
首狩人にもなれず、竜狩人にも戻れず。
正しく、狩人としての未来を断たれる事となる──。
──……ここは、首狩人協会の応接間。
野次馬の前で話す事ではない、と協会長が判断したのだ。
……閑話休題。
「貴方がこの子を拒絶するのは自由だけど、そこに私を納得させられる理由はあるのかな? ないなら──……解るよね」
「「……ッ」」
全てを解っているからこそ、ユニはラオークに微笑む。
私の目的を阻み、敵に回してまでする選択か? ──と。
そう言っているようにしか聞こえなかった2人が戦々恐々とする中、当のラオークは気圧される事もなく溜息を吐き。
「ワシがその小僧を初めて見た時、何を思うたか解るか?」
「え……?」
「さぁ?」
10年前に邂逅した時にラオークが抱いたという初見の反応について問うも、もちろんサレスもユニも『?』で返す。
かたや単にピンと来ておらず、かたや単に興味がなく。
そんな反応を見せる2人に、ラオークは更に呆れつつも。
「──〝処さねば〟、じゃ」
「しょ、処すって……っ」
何よりも優先して始末せねばならぬ、という強迫観念にも似た義務感から来る殺意を抱いたのだと一言で以て明かし。
先ほど人間を殺したばかりとは思えない、あまりにおどおどした様子でサレスがラオークの発言を反復するその一方。
「【最強の最弱職】、ドライアと知り合うて何年じゃ?」
「ん? あぁ、10年くらいかな。 それが何?」
唐突にユニとドライアが初めて出会ってから何年ほど経っているのかと問うてきた彼に、ユニがそう返答したところ。
「では彼奴が今のような腕利きの協会長でなく、居っても居らんでも変わらぬ飾りのような頃があった事は知らんな」
「ドライアさんが飾り……? いや、知らないけど」
返ってきたのは、ユニも知らないドライアの〝黒歴史〟。
組織の長として擁立されていながら、まるで触れてはならぬ腫れ物の如き扱いをされていた過去があったのだと言い。
「半世紀ほど前に発生した〝とある事件〟以降、与えられた職務をこなすだけの抜け殻に成り果てていたドライアがある日、何処で拾うたのかも知らぬ薄汚れた小僧を連れて来た」
「それが、ボクって事ですか……?」
「まぁ10年も前の話じゃ、覚えておらんでも無理はない」
その原因となる事件が起きてから50年もの間、今の老獪さとは無縁で活力の『か』の字もなく、されど彼女以上に能力がある者も居なかったが為その座に就き続けていたドライアが、唐突に何の連絡もなく連れて来たのがサレスとの事。
ちなみにサレス自身はボンヤリとしか覚えていない。
何か辛く哀しい事があったような気はするが、それが何だったのかもドライアに連れられた経緯もあやふやであった。
それこそが最も重要だったと後に知る事になるのだが。
それはまた、別のお話──。




