【通商術:転送】から現れたモノ
突如として顕現した【通商術:転送】から姿を現し切るより早く、ユニの眼前まで迫って来た粘蝸牛竜の巨大な殻。
5人が懸念した通り、ユニほどとまではいかずともBランク以上かつ場慣れした者でもなければ咄嗟に反応する事もできず、そのまま無残な轢殺死体が出来上がっていたろうが。
幸か不幸か、現れたのは【最強の最弱職】。
(……あぁ、粘蝸牛竜……こっちは雨天だったのか)
技能も魔術も一切使わない〝指〟の力だけで完全に突進の勢いを殺すだけでは飽き足らず、その正体をも看破しつつ。
(ゆったりとした蠕動じゃなく、わざわざ殻に籠って移動してるって事は、今の今まで戦ってた何かから逃げて来たのかな)
巨大かつ頑強な殻を武器とした突進自体が脅威であるとはいえ、そこに〝追う者の愉悦〟か〝追われる者の恐怖〟がなければこの形態に移行する事はなく、大抵の場合で後者の感情を基に移行すると知っていたが為に経緯さえ読み切る中。
「どこのどいつか知らねぇが、そのまま止めてろ!」
「あぁ、トドメは僕たちが……!」
(なるほど、彼らがそうか)
「これで終わりだ! 【護聖術:白架】ッ!!」
「ぶち割れろ! 【斧操術:重断】ッ!!」
『NI"ッ!? A"、AAAA……ッ』
予想外の速度と第三者の出現、突然の事態に直面してもなお足を止めていなかった武闘匠と聖騎士はどうにかこうにか追いついたのも束の間、全力で以て各々の技能を振るい。
咄嗟に顔を出して反撃しようとした粘蝸牛竜の息吹ごと斬り伏せる両者の攻撃により、鈍色の空に断末魔が轟いた。
それから、後に続くように『ガラン』だの『グチャッ』だのといった小気味良いとは言えない鈍い音が鳴り響く一方。
「すまない、突然の事とはいえ助太刀感謝す──えっ?」
「おい、どうし──はッ!?」
図らずも手を借りる形となった第三者に謝罪と感謝を伝えようとした、聖騎士と武闘匠の顔が驚愕の色に染まった。
無理もないだろう、何しろ殻の向こうに立っていたのは。
「あ、アンタ、【最強の──ぐえッ!?」
そして、その正体を武闘匠が口にしようとした時──。
「ユニ様……! ユニ様ですよね!? 元虹の橋の!」
「鏡試合観ました! カッコ良かったです!」
「私を知ってるのかい?」
「もちろんです! 私たち、ファンクラブ入ってますから!」
「そっか、それは嬉しいね」
「あの、よければ握手とか……!」
「いいよ、それくらいなら」
「「きゃー!」」
武闘匠を押し除けて急接近してきた召喚士と死霊術師の女性2人組は、どうやらユニのファンクラブに入会している会員だったようで、虹の橋が解散してもなお応援してくれる人が居るというのはユニとしても悪い気はせず握手に応じ。
「……そろそろ本題に入りたいんだけど、いいかな?」
「え? あ、そ、そうね、つい舞い上がっちゃって……」
ユニより少し年上なのだろう女性たちが黄色い悲鳴を上げて歓喜する中、一段落ついたと見るやおずおずと3人の間に割り込んできた聖騎士の言葉で我に返った2人をよそに。
「まずは礼を言わせてください。 貴女のお陰で討伐対象を取り逃がさずに済んだ。 また数を殖やされては事でしたから」
「気にしなくていいよ。 ここに転移したのは前に来た事があるからだけど、あのタイミングで転移したのは偶然だしね」
おそらくリーダーなのだろう聖騎士が恭しい態度で頭を下げて謝意を告げてきたものの、ユニからすれば全ては偶然の産物でしかない為、礼など不要と返しつつ村の方を見遣る。
どうやらユニは彼らと違い、ドラグハート以外の国に点在する迷宮へ挑む最中、偶然に立ち寄ったこの村からの依頼で討伐クエストを受けたという縁があり、ちらほらと避難所から姿を現し始めた村人たちがざわつき出していた一方。
「……アンタ、活動拠点はドラグハートじゃなかったか?」
「そういえば……どうしてこの国に?」
押し除けられていた武闘匠からの問いを又聞きし、『確かに』と共感した強化術師が口にした抱いて当然の疑問に対して、ユニは『あぁ、実はね』と前打ってからこう答えた。
「この村の先に在る街の竜狩人協会の協会長が顔馴染みでね、その人から要請を受けたんだ。 『頼みがある』って」
「この国の……いや、他国の協会長から要請を……?」
他国からの要請という、何とも稀有な事情がゆえだと。
ここは、〝アイズロン〟。
Sランク狩人と最後の希望を1人ずつ擁する、ドラグハートとウィンドラッヘに次ぐ規模を誇る第3の大国である。




