責任転嫁にも等しい
「仮にもSランクに到達した狩人が2人も居れば人的被害も各方面への損害賠償も最低限で済むと考慮したからこそ恥を忍んで他国の狩人の参戦も許可してやったというのに! それを台無しにしたのは貴様らの〝怠慢〟ゆえだ! 違うか!?」
「酷い言い種だね」
「ッたく、どいつもこいつも……」
堰を切ったように中年の口から飛び出る苦言は、その全てが責任転嫁に等しい身勝手な屁理屈でしかなく、ユニはもちろん自国の人間の醜態にリューゲルも呆れ返っていたが。
「何を他人事のように構えているのだ【竜化した落胤】! そもそも貴様が【最強の最弱職】など招き入れたせいで面倒ごとが増えたと理解していないのか!? この役立たずが!!」
「……やはり成り損ないではな」
「【墓荒らしの女王】が居ればこんな事には──」
呆れ返って当然の暴論に対し、矛先を変えてリューゲルへ投げつけられたのは更なる暴論であり、それに対する反論をする間もなく、警察官の長の勢いに中てられたのか竜騎兵と首狩人協会の長までもが次から次へと苦言を呈してきた。
仮にもSランク狩人を相手に、この上から目線。
ユニなら『弱者の言う事だし』と流してくれただろうが。
──ドカァン!!
「「「「〜〜ッ!?」」」」
という派手な音とともに、リューゲルが片脚を軽く振り下ろしただけで如何にも高級な机が砕け散って、それまで意気揚々と彼を責め立てていた3人はもちろん竜狩人協会の長までもが言葉を失い、またしても沈黙を強いられてしまう。
……これといって気は長くなく、弱者に優しくもない。
それが、【竜化した落胤】の本質であった。
「下手に出てりゃあ調子に乗りやがって……」
「だッ……だが事実だろう!? 大体──」
それを証明するように発せられた底冷えするような低い声音による脅しは更に長たちを委縮させたが、ここで退けば威厳も何もあったものではないと己を鼓舞した警察官の長が震える身体と声で精一杯の反論をしようとした、その時。
「さっきから色々言ってくれてるけど、要は私の存在が気に食わないってだけだろう? 最初からそう言えばいいのに」
「……しゃあねぇよユニ、コイツらは無能じゃねぇが揃いも揃って〝臆病者〟。 現場に足を運んで命を懸ける度胸もねぇ癖に、気位と悪知恵ばっか伸ばし続けた奴らの末路だな」
「ッ! 言わせておけば……!」
先程の〝怠慢〟という評価が引っかかったがゆえか、それとも単に下らない論争に辟易したがゆえかは定かでないものの、ユニの口から溜息とともに出た全てを見抜いた上での嘲りに、リューゲルもまた乗っかるようにして煽り散らす。
実際、先日の激戦で命を落とした4人の代表者と比較した場合、〝統率力〟はもちろん単純な〝戦闘力〟でもこの4人の長たちの方が優れており、リューゲルをして『無能ではない』と言わしめるだけの実力自体はあるようなのだが。
下手に優れているあまり、『こんなところで死んでいい存在ではない』と自身を過大評価してしまっているようで。
それが2度3度と続いた結果、安全が解り切っている戦場にさえ顔を出さない〝臆病者〟ができあがったのだという。
そして半端に優秀なせいで、それを自覚していたらしい長たちがSランクの重圧に怯えつつも立ち上がろうとする中。
「ところで話は変わるんだけど。 〝これ〟、何だと思う?」
「……は? 何だそれは──」
突如、ユニが【通商術:倉庫】から何かを取り出した。
何をいきなり、という困惑から出た言葉でもあろうが。
何だそれは、と口を突いて言ってしまったのはユニが取り出し見せてきた、マスカット1粒くらいの小さな球体が何なのかが全く解らず、どういう理由で今この時に取り出す必要があったのかさえ要領を得ていなかったからだったものの。
「──うおッ!? ユニ、お前それ……!!」
「これは、リューゲルが討伐した──」
ただ1人、リューゲルだけはそれが何かを知っていて。
Sランクが思わず飛び退くほどの脅威が、あの小さな球体に宿っているのかと4人の長が戦々恐々とする一方、ともすれば場違いと捉えられかねない冷静さで以て、こう告げた。
「雲羊竜、サタン=クラウドを構成していた全てだよ」
「「「「ッ!?」」」」




