落下地点の中心に
その一撃は本来、落下地点付近から生物という生物全てを消し飛ばしながら地表を大きく抉り、その余波でさえ国内全土に轟くほどの衝撃を伴っていた──……筈だったが。
『……なーんにも聞こえないね』
「完全防音だからね」
『んー、これじゃ臨場感がなぁ──』
衝撃どころか破壊音の1つも聞こえてこない事に、絶賛撮影中のテクトリカが撮れ高のなさに愚痴をこぼしかけた時。
『──っていうかさ』
「ん?」
『これ、アイツも死んでない? 自爆上等……ってコト?』
「さぁ、確認してみない事には……」
どうやら、リューゲルの生死がふと気になったらしく。
正直言って彼がどうなろうが知った事ではないが、それはそれとして安否を編集で載せるか載せないかを後々決める為には確認しておきたかったようではあるものの、ユニからすれば正しくどうでもいいであろうそんなやりとりの後。
「テクトリカ、今から【禁定守封閂】を解く。 その時あの中から湧き出てくる血肉だの土煙だのの対処を任せていい?」
『おけまる──』
ありとあらゆる生物や物質、今回の場合で言えば結界の中でグチャグチャになっているだろうサタン=クラウドの肉片だったり一帯の土壌だったりに憑依させ、それらが飛散しないようにとの依頼を受けたテクトリカがピシッと敬礼した。
その瞬間──。
『──うえぇ!? ちょ、多すぎィ!!』
ユニの【禁定守封閂】によって強制的に押さえつけられていた【竜星に願いを】の衝撃と、サタン=クラウドの雷撃や重力が血肉や土煙とともに堰を切ったかの如き爆発を伴って噴き出し、さしもの冥界のNo.2も驚きを露わにしたが。
「取りこぼしたら怒るよ」
『鬼! 悪魔! ゆにぴ!』
全方位へ飛散しようとする多種多様で破滅的な物体の数々を、たった1つでも取りこぼしたら〝怒る〟──という何をされるのか全く想像がつかない宣告に苦言を呈しつつも、テクトリカは必死に死霊を超広範囲へ拡散させて結界を生成。
『ぐぬ……丸まれ、丸まれ、マスカットくらいに……!』
血も肉も骨も土も草も衝撃も雷撃も重力も、その全てへ見事に憑依させ切った後、ギュッと纏めて手の平サイズにし。
『ぷはっ! ど……どう!? 完全無欠じゃない!?』
「んー……うん、大丈夫そうだね」
『や……やったぁ、ばたんきゅ〜……』
本人の言う通りマスカット1粒くらいの大きさにまでなったそれを覗き込んだユニからの承認を受け、さも空気が抜けた風船のように『ふへぇ』とテクトリカが緩やかに伏す中。
ユニは一歩、また一歩と爆心地に近づいていき。
黒煙燻る焦土の中心で、〝それ〟を見つけた。
両の腕と脚、一対の翼、角に尻尾、半人半竜たらしめる全ての部位が千切れ飛び、およそ生命維持に必要な臓器さえ焼け焦がしながらも、どうにか命だけは繋いでいた──。
「お疲れ、【竜化した落胤】」
満身創痍という言葉でも足りぬ、死に体のリューゲルを。




