〝射撃〟
ガキン、と片方が通信機器とは思えないほどの金属音を立てて、互いに距離を取った【竜化した落胤】と死霊卿。
せっかくの接近戦に特化した形態へと姿を変異させているのだから、わざわざ距離を取る事もないと思うだろうが。
この行動は、双方の思惑が一致したがゆえのもの。
かたや、不意打ちともいうべき渾身の一撃を涼しい顔で防がれた事による仕切り直しの意味を持つ戦略的後退と。
かたや、お気に入りのプマホケースを万が一にも傷つけられたくないという単なる保身の意味しかない利己的後退によりテクトリカが宙に、リューゲルが荒れた地面に降りた時。
(当たりゃ少しは削れる筈……まずは当てる為の隙を作る!)
一撃竜は今じゃなかった、もっと決定的な隙を作ってからにすべきだったという反省を一瞬で済ませつつ、リューゲルは瞬時にその隙とやらを作る事に適した姿に変異していき。
『【五竜換装】──〝射撃竜〟!!』
『うわ何それキモっ!』
渾身の勢いで変異を遂げたその異形を、テクトリカは『気持ち悪い』とバッサリ切って捨てたが、それも無理はない。
失っていた一対の翼と、破城槍の如く凶暴なら様相を呈していた尻尾は、みるみる内に3門の大砲のような形を取り。
強靭な丸太の如く肥大化していた四肢は、大砲と化した翼や尻尾を支えて反動を抑える為の脚架、及び鈍重ながらも移動が可能な無限軌道と同様の機構を持った鱗を生やすといったように、正しく異形という他ない姿に成っていたからだ。
そして、テクトリカが気持ち悪がりつつも『撮れ高じゃんコレ』とパシャパシャ写真を撮ったり録画したりする中で。
『さっき言ったろ、姿も手段を選ばねぇ──ってなァ!!』
『∑(゜Д゜)!?』
勝ち筋があるなら見た目には拘らないという、ユニやトリスと並ぶくらいに女性ファンの多い狩人から出たとは思えない言葉とともに放たれたのは、ユニをして『手数だけなら自分にも劣らない』とまで言わしめたテクトリカでさえ目を疑う──4門の大砲を起点とした圧倒的な物量の息吹の弾幕。
右翼、左翼、頭上まで高く持ち上げた尻尾と、これまでと同様に放出を可能とする大きな口、合わせて4つの砲口から放たれた息吹は、あの鏡試合の時と同じ最大出力のものから撹乱目的の最小出力のものまで、まさに選り取り見取り。
当然、テクトリカは驚きつつも【無尽の憑依】を再発動。
そこらに転がる石ころ1つでさえ強固な盾へと変え、リューゲルが放つ息吹を大小問わず相殺せんと試みはしたが。
『ちょ、やばたんなんですケド!? 何コレゆにぴ!』
「……」
『あれぇ!? しもしもー!?』
どういうわけか、思わぬ劣勢を強いられるテクトリカ。
彼女の最大の誤算は──〝弾速の差異〟。
彼が今も放出し続けている息吹は全て、テクトリカに着弾するまでの時間が均一ではなくなるように調節されており。
強すぎるゆえに最高速度の息吹に反応できてしまうテクトリカからすると、わざと遅れて届いてくる息吹の方が逆に対応しづらいらしいのだが、それを漫然とすら理解できずユニに助言を求めるも、ふいっと目を逸らされるだけ。
徹頭徹尾、強い方に肩入れする気はないのだろう。
たとえ、形勢が逆転したとしても──。




