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竜化世界で竜を狩る 〜天使と悪魔と死霊を添えて〜  作者: 天眼鏡


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舌戦に乱入、2人の最強

 ──翌日。


「ここからでも聞こえるね、何の価値もない論争が」


「よくもまぁ飽きもしねぇで……」


 善は急げとばかりに、遊撃が売りの傭兵マーセナリーを除く4つの組織の代表者──代表と言ってもトップは現場に出てきていないようだが──が今この瞬間も責任の擦り付け合いや討伐成功における手柄の分配方法など醜い舌戦を繰り広げている天幕へと赴いたユニとリューゲルは話を遮るように割り込み。


「邪魔するぜ、口先だけの無能ども」


「「「「ッ!?」」」」


 口先だけの無能と罵られた事に目を剥いたのか、リューゲルが唐突に姿を現した事に驚いたのか、それとも別の理由から表情を強張らせたのかは定かでなくとも、4つの組織の代表者やその部下たちは確かに舌戦を中断させられたものの。


「【竜化した落胤(ドラゴンフォールン)】! 貴様、この非常事態にどこへ……!」


「あぁ? どこへも何も──」


 数秒後、取り繕うかの如く大袈裟に机を叩いた服装ばかり偉そうな巨漢からの糾弾に対し、リューゲルは肩を竦め。


「──助っ人、連れて来てやったんだ。 感謝しろよ」


「助っ人……? Sランクの貴方が誰に頼る、と──」


 横に立つ長身かつ中性的な美女を指して〝助っ人〟と称したSランク狩人ハンターの上から目線な一言に、おそらく竜狩人協会(D・ハンターズギルド)の代表者なのだろう、片眼鏡が特徴的な壮年の男性が美女を視界の中心に入れようと身体を傾けた──……その瞬間。


「「──〜〜……ッ!?」」


(はッ、目ぇ剥いてやがる)


 その男性のみならず、対角線上に座っていた軽鎧姿の精悍な美女も合わせた2人の表情が、みるみる内に真っ青になっていく様子に、リューゲルがくつくつと喉を鳴らす一方。


「……? 誰だ貴様、男か女かも解らん風体をしおって」


「……そうだね、まずは自己紹介といこうか」


 机を叩き怒号を放った巨漢が、おそらくウィンドラッヘにおける警察官ポリスのものなのだろうパツパツの制服を軋ませながら立ち上がり、その美女の性別さえ判断できぬのか汗臭さとともに近寄ってまで覗き込んできた事に辟易しつつも。


「私はユニ。 【最強の最弱職(ワーストゼロ)】って名乗った方がいい?」


「「はぁッ!?」」


((……ッ!!))


 もう1人、如何にも若さと顔の良さが取り柄といった具合のチャラチャラした女性とともに、その名を聞いて巨漢が呆気に取られる中、彼らより早くユニの正体に気づいていた2人は『まさか』が『やはり』に変わり、緊張感が高まる。


 実はユニ、竜狩人ドラゴンハンター界隈や一部の情報通、そしてファンクラブの会員を除けばあまり顔を知られていなかったりする。


 目深に帽子を被り、スカートも履かず、最大の判別材料の胸もあるのかないのか一見では解らない上に、そもそも狩人としての活動時間の殆どを迷宮で過ごす彼女について〝誰もが羨む長身かつ中性的な最強の狩人ハンター〟という事以外は何も知らない者たちも多い為、致し方ない部分もあり。


 この場においては警察官ポリス首狩人バウンティハンター、4つ中2つの組織の代表者が〝何も知らない者たち〟に該当していたわけだ。


 ……警察官ポリスはともかく首狩人バウンティハンターだったら知っておけと思う事請け合いだろうが──……まぁ、それはそれとして。


「ウィンドラッヘに入国しているという事は報告を受けておりましたが……まさか貴女が救援に来てくださるとは……」


「ちょうど1つの迷宮を攻略し終えたところでね、Lv100が相手ならEXP(経験値)も美味しいだろうなって思ったんだよ」


「な、なるほど……? まぁ動機は何にせよ、ありがた──」


 どうやらユニの入国自体は把握していたらしい竜狩人の代表者たる男性は、謙りつつも媚びてはいない真っ直ぐな視線と姿勢で素直に謝意を告げるとともに、あくまで私欲だと語る眼前の最強にガクッと来つつも手を差し出そうとしたが。


「──待て! 黄金竜の世代(エル=ドラゴ)だか何だか知らんが、これはこの国で起きた事件! 部外者の手を借りるつもりはない!」


「そうよそうよ! ブスの手助けなんて要らないんだから!」


「そう言われてもなぁ。 ねぇ? リューゲル」


「ん? あぁ……」


 突然の黄金竜の世代が一角の登場に開いた口が塞がらなくなっていた警察官ポリス首狩人バウンティハンターの代表者が、おそらく手柄を奪われたり面目を潰されたりする事を恐れ、やいのやいのと文句を垂れている姿を、リューゲルは何とも冷めた瞳で射抜いている。


(……命知らずなのか、それとも物を知らねぇだけか……どっちにせよ長くねぇ、邪魔だけはしねぇで欲しいモンだな)


 ……あまりの無知さに呆れ返っていただけのようだ。

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