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勇者様は魔王様!  作者: くるい
4章 死と腐敗の王
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89話 旧き時の

「――お目覚めになったようですね、アルマ様」


 俺が次に目覚めた時、すぐ目と鼻の先にステラの顔があった。

 どうにも既視感のある光景だ。

 というより、少し前に全く同じ状態になった記憶が残っている。


 視線を下へ向けると、俺の胸部に彼女の手が添えられていた。

 そこに送り込まれていた緑色の輝きが徐々に収まり、消えていく。


 俺は()()()()()()()()()()()()、ということを知っているような気がした。

 見た事があると言った方が近いだろう。


「単刀直入に申しますと、アルマ様が先程まで体験していたのは現実ではありません。()()()()()()を見て頂きました」


 一瞬頭の理解が追いつかなかったが、直後に俺が覚えた既視感のことを指しているのだと分かった。

 今こうして彼女が俺の真上を陣取っていることを知っているのも――彼女が見せていた出来事なのだろう。


「……なぜ、俺に未来を見せたんだ?」

「正確には予測であることにご留意を。アルマ様の行動に対して可能性の高い反応を返していただけで、相手の反応が確定しているとは限りません」

「どういうことだ? 未来予知とどう違うのか分からん」

「そうですね……あくまで私の知る情報を元にした空間なので、あれは予知ではないのです」


 ステラはそう言って、俺の真上から退いた。

 それから俺の真横へと移動し、何かを思い出したように口を開く。


「ちなみに、アルマ様の傷は既に治しています」

「全身が焼けていたのも事実だったのか」

「ですので、数日は安静にして頂きたいものですが」

「……」


 ここでも俺は頷きを返すことはできなかった。

 未来予測の俺は、安静にしていただろうか?

 いいや、ステラから忠告を受けたにも関わらず――アレが予測とはいえ、苦笑を浮かべるしかない。


「アルマ様に未来予測を見せたのは、最悪の事態を防ぐためです」

「最悪の……エレアノールの事だな」

「あの兵士が骸骨の魔人の影響を受けている可能性は高いでしょう。アルマ様が同じように行動されれば、似たような結果になります」

「じゃあ、あの白いモヤは何だ?」

「部屋に訪れた相手を予測できなかったのでしょう。モヤのせいで先の予測を続けられず、魔法も強制終了しました」

「では、あの場に現れたのは他の兵士ではなかったというわけか……」


 あのタイミングには出来過ぎたものを感じる。

 予測ならば、偶然で発生するものではない。

 関所の兵士を除いた誰かが医務室に現れたのであれば、それを予測させるだけの何かがあったのだろうが……。


「骸骨の魔人なら、俺がエレアノールを殺したように見せるくらいはやりそうだな」

「そうとなると、やって来たのは取り返しの付かない相手になるでしょう。例えば、知らせを受けてやって来たオールダンですと戦闘は免れませんね」

「ありそうで困る。だが、そうか……知らせを届けさせたという情報があったから、お前の予測は白いモヤを生み出した訳だな」


 溜息を漏らし、俺は起き上がる。

 最初は混乱したが、今置かれている状況は理解した。


 視線を己の身体へ落とした後、一度拳を強く握る。

 腕を伸ばし、軽く柔軟を行う。


 それからステラへ視線を向けた。

 普段と変わらない様子を見せているが、その目元には明らかな疲弊が窺える。


 それに今の彼女からは魔力をほぼ感じられない。

 兵士の治療や、この未来予測にも大きく魔力を消費しているのだろう。

 ……随分と無理な活動を強いていたようだ。


「ステラ、俺はエレアノールに呼ばれているのか?」

「はい。どうされますか?」

「すぐには会わない。だが、このまま居なくなるわけにもいかないな」


 俺に疑いを持っている者を放置するのは、今後のためにはならない。

 それに、予測で見た最後の光景を無視できない。


「エレアノールが破裂した原因は分かるか?」

「治療の際に彼女の状態は見ていますが、特に何も見つかってはいません。しかし……相手も私が居ると分かっていますから、痕跡を見せるような真似はしないでしょう」


 まあ、それもそうか。

 今回が初邂逅ならともかく、二度目だ。

 魔人がステラを甘く見ることはないだろう。


 だが、最初の襲撃とは違う点がある。


 骸骨の魔人は俺達の行動を先回りしていたが、念入りな準備はできていないはず。

 向こうはこちらの狙いを必死で潰そうとしている。

 そこに、余裕などあるはずがない。


「原因を予想するくらいならできます。きっと、呪いの類をエレアノールへ仕掛けているのでしょう」

「呪い?」

「加護と似たようなものですが、呪いは対象に法則や制約を課すのです。性質が特殊なので、同じ呪いに精通していなければ痕跡にも気付けません」

「エレアノールに呪いが掛かっているが、ステラにも分からないということか……」


 はい、とステラは頷く。


「これも予想になりますが……相手の狙いから逆算すると、呪いの発動条件はアルマ様が傍にいることだと考えています」


 あぁ、俺を陥れるきっかけならばそれで充分だろう。

 ステラにさえ分からない痕跡だ、他の誰かが辿れるとは思えん。


「そうだな……」


 ステラに解呪は頼めないが、呪いに対処できなければ後の懸念が残り続ける。

 呪いによるエレアノールの死を俺に擦り付けられれば、あの未来は避けられない。


「ステラはエレアノールと一緒に居てくれ。俺は外で一度、来訪者を迎える」

「ですが、呪いはその者にも掛かっている可能性も……」

「そこまで考え出すとキリがないぞ。俺達も未来予測で出来得る限りの先回りをしているのだ、そこまで相手が読んだなら――最初から詰んでる」


 そのためにステラは俺に魔法を行使し、俺は最悪の未来を視たのだ。


「……申し訳ありません。少し、怯え過ぎていたようです」

「気にするな。あと、エレアノールから魔石を譲って貰え」


 関所にある結界維持用の魔石を使えば、魔力不足はある程度補強できるはずだ。

 最悪呪いが発動しても、魔石があれば直後の治療は行えるはず。


「この場は頼むぞ、ステラ」

「畏まりました」



 ◇



 防壁の上側から外に出ると、視界の下方に兵士達が映った。

 いずれの兵士たちも、竜のブレスによって大きく抉られた地面をならしている様子が窺える。


「動ける兵士は修復作業中のようだな」


 関所の内部に兵の姿が見当たらなかったのはこのためか。

 地形破壊の規模が酷く、到底一日で終わる量ではなさそうだが……。


「しかし……違和感だけあったのだが、そういうことか」


 土を掘り起こす兵士達の多くが鎧を脱いでいたから気付いたが、兵士の中に男の姿が一人も見えなかった。

 鎧で姿の見えない者も当然居るが、よく注意して見れば女だと分かる。

 彼女達の姿を見るに同じ獣人族(ビースト)だと思うが、男が存在しない種族というわけでもないだろう。


 それなのに女しか居ないというのは、何か理由がありそうな気がするが。

 今それを考えても仕方ない、ひとまず覚えて置こう。


「さて、こちらはステラの予測の通りだな」


 俺が見晴らしの良い場所へとわざわざ出たのは、外の気配を探りやすくするためだ。

 意識を領地の内側方面へと集中させて気配を探ると、こちらへと向かってくる気配がある。


 気配は三つ。

 二つはここの兵士達と同じく獣人族(ビースト)で、もう一つは――豚族(オーク)だ。


「オールダン……ではないな」


 魔人が持つ強力な魔力は感じられない。

 ただ、頑丈そうな黒い鎧に身を包んでいることから、アレも兵士だろう。


 俺は彼らがある程度まで関所へ近付くまで待機した後、防壁の上から飛び降りた。


「あーーーーっ! アレっ、アレじゃん! 自称魔王ぉ!」


 俺の姿に獣人族の一人が気付いたらしく、遠くからこちらを指差してくる。


 アレは関所から領地の方へと向かった兵士なのだろう。

 豚族とは異なり、二人共に黒い軽装に身を包んだ姿をしている。


 その獣人族は気の抜けたような叫び声と裏腹に、俺を見つけた瞬間にはもう片方と共に姿が消え――俺の着地と同時に逃げ道を塞いでいた。

 左右から距離を詰められ、俺の首を断てる位置に刃が突き付けられている。


 俺はゆっくりと両手を上げ、二人を見上げた。


「なんで領地の中に入ってきてるのさ、コイツ!? 殺されたいの?」

「待ってリブレ、敵意はないみたいよ……ねぇ君、理由を説明してくれる?」


 ()()()と呼ばれた方は俺を警戒しているが、片割れはそうでもないようだ。

 俺が返答する前に、豚族も遅れてやって来る。

 彼は俺の姿を見つけるなりその周囲へと視線を巡らし、こう言った。


「聞いてた話じゃ他に盗人族と長命族が居るはずだ、姿が見えない」

「あー……そういえば! おいお前、他の連中はどこだ!」


 俺達の情報は三人組として伝わっているらしい。


 しかし、竜が暴れたことは知らないのか?

 ……いや良く考えれば、領内から壁の外は見えない。

 更に言えば領内は全面障壁で覆われているため、外の気配を察知できない、ということか。


「俺はお前達が来るのを待っていた」

「はぁ? なんか意味分からないこと言い始めたんだけど!」

「リブレと言ったな、()()()()()()から命じられて報告に行っていたんだろう」

「は、なっ、なんでお前が隊長の名前を知って……」

「俺がこの場に居ることも含め、状況を共有したい。無論だが敵意はないし、許可無くこれ以上領地に踏み込むつもりはない。手を下ろしてもいいだろうか」


 竜の襲来について知らないというなら、最初に話しておくべきだろう。

 どこに何が仕掛けられているか知らないが、俺が見る限り職務を全うしているだけに思える。


「そのままでいろ、一人でいる以上は勝手に関所を通った事に変わりはない。少しでも怪しい真似をすれば、斬られると思え」


 豚族は背中にある大斧を構える素振りを見せ、牽制してくる。

 俺はそのまま手を動かさず、豚族へと目を向けた。


 彼個人に覚えはないが、豚族は何度か戦場で相まみえたこともある。

 もしかすると、此処の豚族であった可能性もありそうだ。


「ではこのまま話すが、関所が竜に襲われた」

「はああぁ!?」


 真っ先にリブレが反応し、驚きの声を上げた。

 他の二名も声こそ上げなかったが、俺の言葉に少なからず動揺を見せている。


「被害は最小限に抑えたが、外が滅茶苦茶でな。兵士達は修復作業中だ」

「それが、()()()()()で居る理由にはならんぞ」

「尤もだ。しかし、エレアノールは大怪我で話せる状況にない。今、こちらの連れが彼女の治療に当たっているところなんだ」

「……あんだって?」


 豚族の眉がぴくりと歪められた。


「俺が外に立っていたのは、()()()()()()()()を警戒していたからだ。ひとまず外の状況を確認した方が良いんじゃないか?」

「……あぁ、そうさせて貰おう。少なくとも話がデタラメか否かが分かる」


 豚族は頷き、獣人族へ目配せする。


「リブレ、私達は隊長の安否を確認しに行くよ」

「え……でも隊長がやられるとか、ホントかなぁ?」

「それを確かめに行くのよ」

「ぎゃーっ! 尻尾引っ張るなぁ!」


 獣人族は俺から距離を取り、関所の中へと消えていく。


 ……本来ならエレアノールに会わせること自体止めたかったが、流石に不自然だろう。

 どこか気の抜けた空気感を見せつつ、あの二人は俺への警戒を続けていた。

 ここは予測の状況を信じ、ステラに場を任せることにする。


「なぁ、()()()。一つ訊きたいことがあるんだが、良いか」


 手を上げたまま、俺はゆっくりと豚族へ視線を合わせる。

 含みのある呼び方。怪訝な目付き。

 確認を取っている体ではあるが、この場で俺に拒否権はない。


「構わないが、何だ」


 聞き返せば、豚族は俺に顔を近付け――睨むように目を細めた。


「以前、俺と会ったことはないか?」

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