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勇者様は魔王様!  作者: くるい
4章 死と腐敗の王
75/107

75話 魔王城周辺の再調査

 目的が新たに見つかったものの、即出発とはならない。

 俺もステラも氷霜樹の実の形や在処など知らないからだ。


 何度も魔王城周辺は探索しているが、それらしいものは記憶にない。

 というか素人が特徴だけ知っていても、目当ての物を探し当てるのは難しいだろう。

 

 故に少女に同道を頼もうとしたのだが……。


「――わ、わわ私が一緒に行くのは無理ですよ!?」

「魔王が居ないと言ってもか」

「採取中に戻ってきたくるかもしれないですし……と、とにかく無理です!」


 両手を前に出してまで全力で拒否され、むぅと唸る俺。

 まぁこれだけ怖がられているのだから、本人が居ないとはいえ押し切るのはやめておこう。


「無理強いをするものではありませんね。アルマ様、行きましょうか」

「ああ。適当にそれらしいものを幾つか摘めば、当たりも見つかるだろう」

「え……闇雲には探しませんよ? 他に氷霜樹の実を知っていて、付いてきてくれる方を探せばよいのです」

「そんな珍しい奴がいるか?」


 彼女の怯え方を見ると、他の連中に頼めるとも思えない。


「丁度良さそうな方が居たではありませんか。ほら、手癖の悪そうな盗人族の彼です。近辺の情報には詳しいと思われますよ」

「奴か……あまり頼りになるとは思えんのだがな」

「頼りになる、とは私も思っていません。ただ彼が実の知識さえ持っているのなら、危ない橋でも渡ってくれるでしょう。大きな利益が得られますしね」


 希少な酒の原料ともなればそうだろう。

 通常は断られるが、盗人族(ゴブリン)なら承諾してくれる可能性は高い。


 もっとも、彼が氷霜樹の実を知っていればの話だが……。

 そんな俺の懸念は、直後に消失した。


「話は聞いたっすよぉ!」


 その時、ばんと扉が大げさに開け放たれたのだ。

 俺達の目の前で両手を広げているのは、どこか死臭の残る盗人族(ゴブリン)そのもの。

 

「俺っす、俺っすよ旦那ぁ!」

「お前臭うぞ。死体を片付けた足で店に入ってくるな」

「すんませんっ!」

「しかも盗み聞きしていたな」

「いやいや! そんなつもりじゃないっすよ、ただ扉の前でちぃーっと話し声が聞こえましてね? 耳に入ってきちゃうじゃないっすか」


 大げさな手振りと大声で言い訳をする盗人族(ゴブリン)


 まあ、聞かれて困る話はしちゃいないからいいとして。

 むしろ手間も省けて丁度良かったと言える。


 しかしなんだ、雰囲気変わったか?

 元々肌が緑色で分からないが、少々血色が悪くなったような気もする。


「お前、臭いぞ」

「二度も言わなくてもいいじゃないっすか!」

「身体くらい洗ってから出直せ」

「洗えたら苦労しないっすよ……そんな金銭的余裕は俺ないっす」


 彼は困り果てた様子で首を傾げた。

 ステラが俺の肩に手を載せ、小声で告げる。


「アルマ様。この方死んでますよ」

「ああ、そのようだな……待てなんだって?」

「心臓が鼓動をしていません。恐らくアンデッド化していると思われるのですが、妙ですね」

「……言われてみれば。死臭はこいつ自身から来ているらしいな。だがさっきまでは生きていたぞ」

「私にも分かりません。仮に別れた直後に死亡しても、すぐにアンデッド化などしないのですけれど」

「ちょ、こそこそ何を話してるんですか! 俺氷霜樹の実のこと知ってるんすよ! いいんすか、貴重な人材っすよ!」


 やかましい奴だな。

 しかしアンデッド化しているのに、生前と変わらない様子に見える。


「ところでお前、頭でもぶつけたか?」

「それって俺のこと馬鹿って言いたいんすか!」

「いやお前……隠すことでもないな。死んでるぞ」

「えぁ? し、死んでないっすよぉ~何言ってんすか死体が喋るわけないじゃないっすかあはは!」


 盗人族(ゴブリン)は腹を抱えて笑っている。

 その大げさな仕草からは何も見て取れないが、彼の心臓は今も全く動いていない。


 間違いなく死んでいるし、血色が悪い理由も分かった。

 その割に呼吸はしているみたいだが……空気を肺に送っているというより、喋るために使っているだけのようだな。


 まさか自分が死んだことに気付いていない?


「どうでも良いか。氷霜樹の実を知っているなら話は早い、森へ行くから付いてきてくれ」

「へへ……報酬は頂けるんすよね?」

「構わん。こっちは俺達が飲める分量だけ手に入れば良い」

「さすが旦那! 太っ腹ぁ!」

「やかましい。旦那というのはやめろ」


 両手を擦り合わせて店内に入ろうとした盗人族(ゴブリン)を外へ蹴り出し、流れで表へ出る。


 念の為周囲の気配を探ってみたが、彼と同様の症状が発生している者はいないようだ。

 ステラにも心当たりがないとなれば、俺が探るだけ無駄だろう。


「……アルマ様。視線を感じます」

「どこからだ?」

「いえ……そこまでは。ただ、見られている感覚だけが残っていて」


 俺も再度周囲へ意識を配る。しかし、そんな感覚はない。

 少し考え込み、そこで思考を取り止めた。


「何かは知らんが好きにさせておこうか」

「分かりました」


 アンデッド化に続いて死んだ盗人族(ゴブリン)の登場。

 どこか作為的な物は感じるが、何をされようがこちらは構わない。

 問題が表面化した後、真正面から対処すればいいだけなのだから。


「早速行くっすよ! 大船に乗ったつもりでいてください!」


 ああ、腐ってないといいな。

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