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勇者様は魔王様!  作者: くるい
4章 死と腐敗の王
74/107

74話 希少酒


 酒屋店内にて。

 俺は腕組みをして、棚に並ぶ酒を物色していた。


「……うむ」


 どうやら、置かれている酒の種類は少ないようだ。

 こじんまりと設置されたカウンターがあり、両脇の棚に同じ酒樽がびっしり敷き詰められている。


 種類が分かったのは、棚に貼り付けられた木札に銘柄が刻まれていたからだ。

 とはいえ、文字は読めても何を意味しているのかはさっぱりである。


 書かれているのは魔界の原産地などだろうか。

 どれも人間界で耳にする種類の酒ではなさそうだし。


「どのくらいを買っておけば良いだろうか?」

「お好きなようにして頂ければ。長持ちしますので」

「ふむ……あ、今更だが金はあるのか」

「その辺りはご心配なく」


 懐に手を入れると、ステラは幾つかの魔石を取り出していく。

 なるほど、金や銀ではなく魔石を取引に使うのか。


 さて……とりあえず匂いを嗅いではみたが、酒の違いは大して分からん。

 ならば銘柄を全て買っていこう。


 そう思い店頭に積み上げていくと、店主が目を見張るようにこちらを見つめていた。


 二対の翼を生やした女……少女? だろうか。

 俺より背は大きいが、頭一つ分も差がない。


 種族は不明だが、少なくとも戦場では見たことはない気がする。

 小人族と似たような種族であれば、これでも幼体ではないのだろうか。


「あのぉ~……お酒、お強いんですか?」


 ぽつり、と一言。

 彼女は背中の羽を揺らしながらそう呟いた。


「む、これだと多いのか?」

「いえその、足りるかという話をされていたので気になって。外から来られたんですよね? しばらく滞在されるんですか?」

「いいや、酒を買ったらすぐに町を出るつもりだ」

「なら一樽にされると良いかと。自分の体積より多いものを無理に飲んでは毒でしょうし……持ち運びも大変だと思いますし」

「少ない方を勧めるんだな。沢山買った方が店としてはありがたいのではないか?」

「えっ? あ、えと、それはそうなんですけど……」


 翼を畳み、店主はどこか返答しにくそうに顔を背ける。


 酒樽の大きさは、俺の背を基準に胸元までの大きさだ。

 これを三つともなれば、数日では消費できまい。


 が、それは旅をしている前提での話である。

 俺達が魔王城からやって来たという情報を知らない側からすれば、指摘するのも自然か。


 まぁ彼女の言う通り、全部買う必要もないな。

 それこそ、欲しければまた足を運べばいい。


「ではお前のおすすめはあるか? それを一つ貰おう」

「は、はい! おすすめは……あー、えっと……」


 だが聞けば、彼女は棚を指差そうとしてそのまま固まってしまった。


「あー……おすすめできるものは、実は今、品切れ中でして」

「品切れならば良い。今この場にあるものの中で充分だ。どれがいい?」

「えと……今並んでいるのはその……あまりおすすめできるものではなくてですね」

「ふむ。それを店主のお前が言うんだな」

「す、すみません!」


 今残っている酒は不味く、お世辞にも勧められない品質しか残っていないということか……。


「どうする?」

「私としましては粗悪品でも構いませんが……」

「俺も別に構わん、飲めんものは置いていないだろうしな」

「ええ。ですが折角なので、おすすめのお酒を口にしてみたいとは思いますね。何せ、アルマ様と初めて共にする酒席です」

「……だが品切れなんだろう?」


 物がなければどうしようもない。

 その酒が届く頃にまた町へ町を運ぶ、でも構わないのだが。


 ステラは「そうですね」と首肯した後、店主へ視線を傾けた。


「お悩みのように見えますが、仕入れられない問題があるのでしょうか?」

「えと、実は……材料が氷霜樹の実なので、もう入手できないんですよね」


 彼女は壁際の窓へと目を向ける。

 その方角があるのは、魔王城。


「魔王が復活してあの城にいるのでは、とても採りに行けませんよ」


 なるほど。

 魔王城付近が原産地だったか。


 あの付近は元々の瘴気も濃いが、魔王が居ると生物がほとんど寄り付かなくなるからな。

 つまり採りに行けるのは、魔王が出現していない短い間だけのレア物だ。


 前回の魔王ディエザリゴから直ぐに俺が現れたわけだから……ほとんど採れないじゃないか。

 

「ふむ。ステラがご所望なら、氷霜樹の実とやらを採りに行くとしようか」

「是非行きましょう。ただ、私も初耳ですので実がどこにあるかは分かりませんねぇ」

「え゛ぇっ!? いやあの、ちょっと待ってください、あそこには――魔王がいるんですよ?」


 驚きの声を上げる彼女を前に、俺はステラと視線を合わせる。

 この町での扱いはステラに任せるけれども。


「私達はあの森を通って来ましたが、魔王の気配はありませんでしたよ?」


 そうか。隠すかぁ。

 では、そういうことにしておこう。

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