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勇者様は魔王様!  作者: くるい
3章 逆賊の騎士
62/107

62話 旅の果ての終わり

ちょっと短め。


 ――迷宮の敵は手強いが、それでも突破できないほどではなかった。

 無尽蔵に湧いて出てくるのは厄介だが、魔界の強敵と比べれば生易しいものだからだ。


「よし、コイツで――最後!」


 最後の魔物を斬り伏せ、霧散する魔素を抜け奥へと進む。

 俺達は、迷宮の最深部へと辿り着いていた。


 休まず魔物を斬り伏せながら突っ走っていたため、全員の息は上がっている。

 特に俺の速度に合わせて索敵していたアリヴェーラは、肩の上でぐったりしていた。


 とはいえ、アリヴェーラから文句は出て来ない。

 こういった迷宮でゆっくり進めば、その分だけ魔物と交戦する数が増えるだけ。

 もっと人数がいれば話は別だが、戦力が俺一人である現状は最速で突破するのが最適解だ。


「……はぁ、はぁ、やっと着きました」


 ニーエも、少し後ろで腰に手を当て肩で息をしている。


「悪い。病み上がりの身体には辛かったかもしれないな」

「エルフなので大丈夫です」

「いやどういうこと……?」


 荒げる息を深呼吸で整えると、ニーエは胸に手を当てる。


「それに私は戦ってませんので。はぁ、すごい疲れました。ところで、何もないように見えますが」


 彼女は周囲を見渡すと、そう首を傾げた。

 ここは術式が張られており、魔力が溜まらずに流れる空間だが、表層よりずっと濃度の濃い場所だ。

 しかしニーエの視線の先には最深部の広間と、七色の魔鉱の輝きのみ。


 最後に倒した魔物はやや大物だが、迷宮の奥にしてはあっさりと進めてしまった。

 つまりこれは、発生する魔力体が定期的に倒されているからだろう。


「アーサー、奥の壁が通れるようになってるよ」

「あれ、俺には壁にしか見えないんだけど……なるほど」

「解除してあげるから近付いて」


 アリヴェーラに言われるがまま、俺は魔鉱の足場を踏み締めて壁まで進んだ。

 奥の壁は他と変わらず輝きを放ち、太陽の光が届かぬ迷宮を照らす。そこにアリヴェーラが飛んでいき、指先で壁に触れた瞬間――輝きが消え、霧散する魔素と共に奥への道を指し示した。


 どうやら、この迷宮の特性を活かして、()()()()()()()()()()が生み出されていたらしい。


「本当に来たな。歓迎するぜ、勇者様」


 七色の光の消えた先。

 壁の向こうで、ラウミガ・ラブラーシュが静かに佇んでいた。




 ◇




 ――本来の迷宮に存在しなかった、最深部の更に奥。

 そこには人工的な真四角の部屋が作られており、鎧を脱いだ騎士達が思い思いに座っている。

 まるで隠れ家のような部屋の端っこで、マグリッドは壁に背を預けるようにして座っていた。


 ラウミガと共に彼の元まで歩いてきた俺は、包帯で上半身を覆う彼を見下ろす。

 あれで死んだとは当然思っていないが、思ったより元気そうだ。


「待っていた。お前は……アーサー、か」

「ラウミガからちゃんと話は聞いてたんだな」


 俺は立ち上がろうとしたマグリッドを制して、言葉を掛ける。


「傷に障るだろ。俺が言うのもなんだけど、わざわざ立たなくていいよ」

「俺が付けた傷に比べれば、こんなものは蚊に刺されたようなものだ」

「はは、蚊ね……もう一太刀浴びせた方が良かったか?」


 言いつつ、俺は腰の剣には手を当てない。

 代わりに向けるのは、言葉の刃だ。


「ここにはお前の言い分を聞きに来た」


 彼の瞳に残る、濁った瞳。

 つい最近に見た気がするとは思ったが――ニーエのそれと、同じだ。


「……言い分は、ない。見たままだ、俺は落ちぶれてここにいる」

「それで?」

「アルテは、どうなったのだ」

「アイツは間違いなく死んだよ。死んだ心が二つに分かれ、その片割れとして俺が居る。もう一人はここにゃいないけどな」


 今アルマと名乗る彼が、もうアルテではないというだけの話だが……そこまで伝える理由はない。

 彼はマグリッド達と再会したい、などとは思っていなかった。


「でも今俺の話はしてないだろ。平和を築いたこの世界でお前が落ちぶれたのは……なんでだ?」

「……俺達の平和を、取り戻すためだ」


 対して彼は、俺を見上げて言い放つ。

 その瞳に、燃えるような憤怒を灯して。


「俺達の今までの旅は仕組まれていた。そう言ったら、お前は信じてくれるか」

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