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勇者様は魔王様!  作者: くるい
3章 逆賊の騎士
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60話 勇者の道


 俺達一行は商業都市レイスへと帰ってきていた。


 あの後は森でゆっくり過ごしていたため、帰ってきたのは太陽が隠れる手前だ。

 行きは生気の薄かったニーエも、帰りはどこか元気そうな様子である。


 顔に表情があるわけではないが、肌のツヤだったり、あと歩き方も違うのだ。

 総じて朝よりずっと逞しさを感じる。

 森のエネルギーってそんなに凄いんだろうか。


「あの。街ですよご主人さま」

「ご主人さまってちょっと止めて欲しいんだけどな……」

「そういうわけにも。上下関係ははっきりしてた方がいいと思います」


 ニーエは街の手前で歩みを止めると、俺の顔をじっと見つめ呟いた。

 あの話の後から何故かニーエは俺のことを「ご主人さま」と呼ぶようになってきたのだ。


 気軽にアーサーとでも呼んで欲しいと伝えたのだが、彼女は嫌らしい。

 新しく料理作ろうと言った時も遠慮されたし、常に一歩引いている感じである。


「そういうもんなの? アリヴェーラ」

「なんで私に聞いたの」

「上下関係の上の方にいそうだから」

「なら私のことをご主人さまと言え」

「あのいいんですか本当に。私が普通に歩くのは……」


 恒例の俺とアリヴェーラの舌戦が開始されようとするも、ニーエが割って入ってくる。

 どうやら心配しているのは、魔物が街中を歩くことについての懸念らしい。


「今更大丈夫だと思うけどな。ほら、行きも歩いてたし」

「あの時は魔力が底を尽きかけていたので、極端に気配が薄かったです」

「なんかあったら使い魔って言えば問題ないよ」

「いえ、契約もしてないんですけど……」


 大丈夫かコイツみたいな目でこっちを見てくる。

 話していて分かったことだが、ニーエは話をする時に相手の目を凝視してくるんだよな。


「大丈夫、アリヴェーラも契約してない」

「私はちゃんと要所で隠れてるでしょうが。アーサーは今まで私の何を見てきてたの」

「え、恥ずかしがってるからじゃなくて?」

「は?」


 思い返してみれば、確かにアリヴェーラが隠れている時は……。

 そう納得しそうになった俺だったが、解せない点があることに気付いた。


「食事の時はどこでも出てくるのに」

「……食欲には敵わないだけじゃん」


 その言い訳はお茶目過ぎるでしょ。

 いや、別に全然いいんだけどさ。


「ていうか私は偽装もしてるから。けど、この子までは無理」

「アリヴェーラの卓越した魔法でもか?」

「……褒めても何も出ないからね。ていうか私言ったでしょ、このサイズだから怪しまれないの」


 確かに言っていた。

 そもそも人が使い魔として隷属させる魔物は、精霊の類が多い。

 特に四大精霊(エレメンタル)は小さな人形を取る場合が多いため、アリヴェーラを連れ歩いていたところで大した違和感はないのだ。


 けれど、ニーエは違う。

 アリヴェーラのように小さくなれるわけでもないし、連れ立って歩いていれば嫌でも目を惹いてしまうだろう。そして多くの場合、それが良い方向に働くことはない。

 俺やアリヴェーラだけでも目立つというのに、加えて魔性のエルフなのだから。


「この子……ニーエが言う通り。契約の印がないってバレた時点で終わり。だから対処法としては、()()()()()()()()()()のが一番手っ取り早いかな」


 そうすれば連れ歩いたって問題はない。

 多少奇異の目線を向けられるかもしれないが、逆に言えばそれだけだ。

 ニーエを連れ歩いている事が原因で問題に絡まれたとしても、俺の実力で困りはしない。


「でもアーサーがやりたくないのは、取り返しが付かないからでしょ」

「うん、それじゃ助けたことにはならないだろ」


 人間が魔物を所有物とするには、相応に強力な魔法が必要。


 最初に誰が編み出したかは知らないが、その魔法は強力な縛りを魂に刻み込んでしまう。

 つまり修復不可能な傷を負うようなもので、二度と解除できないのだ。


「じゃあ二つ目。危険な案だけど、この子には人間に化けて貰う方法。この街じゃ知られてるから他での対策だけど。この街では最初の弱さを出せばいいんじゃないかな」

「よしそれで行こうか」

「待って、もう少しよく考えて?」

「いや、考えはあるよ」


 ニーエを助けると決めた時から、最悪の結末は思い描いていたことだ。

 彼女を匿っていると露見した時点で、勇者存続どころか俺の命はないのは分かっている。


「それに都合が良い面だってある」

「何の都合が良いの?」

()()偽るしかないけど、彼女を知って貰うには良い機会だろ」


 このやり方では、ニーエにはしばらく人間に偽装して過ごして貰うことになるだろう。

 しかしそのままでは、彼女は()()としての評価で終わってしまう。


 でも、俺はエルフとしてのニーエを見て欲しいのだ。

 彼女が危険ではないと理解して貰った上で、真実を伝えることで成されると思っている。


 俺の意図を汲み取ったアリヴェーラは、呆れた様子で溜息を吐いた。


「……手の平返されたらどうするの?」

「信じてくれる人だっているさ」


 確かに全員は無理だろうけれど、別に全員に認めてもらわなくていい。


「ま、ニーエに頑張ってもらうのが前提だけどね」

「頑張って愛されます。今は死にかけの獲物、ですね」


 その意気込みはちょっと違う気がするけれど。

 でもまあ、頑張ってくれるに越したことはない。


 両方の拳を胸の前で握り締めた彼女に笑いかけ、俺は街への歩みを再開する。


「それよりも、目下の問題をどうにかしないといけないんだけどな」


 街の奥の方をぼんやりと眺めつつ、俺はそう零す。

 当然街へと帰れば――リーズリースと決着は、付けねばならない。


 それがどのようなものになるかは分からないが、まさか返答もせずに逃げるわけにもいかないのだし。


()()()()()?」

 

 対して肩上のアリヴェーラは、何でもないことのように返してきた。

 彼女は基本的に口を出さないようにしているのか、こういう時の助言は期待できない。


 もっとも、要らないと思っているのかもしれないが。

 何故なら俺の中で答えは出ている。


 あとは……リーズリースが俺の答えにどう反応するかだ。


「仲間にするよ」

「そう。それで?」

「――真実を伝える。それで決裂するなら、その時だ」

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