54話 紛れているもの
翌朝、俺とアリヴェーラは眠い目を擦りながら冒険者ギルドへと足を運んでいた。
めちゃくちゃ寝不足である。考え事をし過ぎて休めなかったのと、いい場所が見つからなかったために町の外で野宿したのが原因だろう。
アリヴェーラはどうか知らないが、少なくとも機嫌が良い顔はしていなかった。昨日の一件が尾を引いているんだろうけれど……。
まだ他の冒険者などの姿も見えない中、受付を隔てた先で先日の職員がこう言ってきた。
「昨日の件ですが、やはり要望全てに応えるのは難しいです」
「……そうですか」
半ば分かってはいたことだが。
子供達の身元を特定して元々の場所に送り届けるのは、実際どこから集められてきた子か分からない上、届けが出されていない場合は特定が困難だ。人材を動かして解決しようとなれば膨大な金を動かす必要があるが、それをギルドが捻出できるかといえば否である。
「ならこれ以上我儘は言えませんね。分かりました、俺の金は残った人達の生活費用にでも充ててあげてください。大きな額にはなりませんが、足しにはなるでしょう」
「それは……」
「放置してしまっては後味が悪いので、ただの俺の善意です。それで、レーヴァンはどうなりましたか?」
この話は断ち切り、話題を切り替える。
昨日の今日ではあるが、彼のことは気になっていた。
捕らえたレーヴァンが目覚めているか、他に同じような事業を展開していたりしていないか、色々と懸念もある。
「まだ目を覚ましていないようでして……」
「まあ、あの状態では無理もないですか」
レーヴァンは牢に繋がれていた時点で手酷い傷を負った状態であった。
生死に影響こそないようだが、意識を取り戻していないと言われれば納得もする。俺としては子供を攫っていたルートとかを吐いて貰って、そこから動けないかとは考えたのだが。
「聞き出したいことがあるのでしょうか?」
「俺個人としてはありません。ただ彼が他に何やってたかによっては、俺も動こうかなとは思うんですがね」
「なるほど。であれば一つお尋ねしたいのですが……アーサーさん、使い魔を連れておられますよね?」
「そうですが、どうかしましたか?」
彼女に言われ、俺はそう頷く。
人見知りなアリヴェーラが今この場で鞄から外に出てくることはないが、使い魔を連れているという情報は別に隠していないのだ。
「良かった。それなら、アーサーさんの腕を見込んで頼みたいことがあります」
「……うん?」
「レーヴァン邸の地下牢で、子供達に紛れて人形の魔物が紛れていたのです。危険だったのでそのままにしていますが、私共が手を出すよりアーサーさんに適切な処理を頼むのが確実と思いまして」
「――はい?」
「申し訳ありません……難しかったでしょうか?」
「……いや、ああ。無理ってわけではなく」
魔物が居ただって?
あの時は全然気が付かなかったが……人形の魔物、か。
少なくとも俺は認識していなかったが、先に判断を仰いでくれたのは良かったと見るべきだろう。
ただし、処理というからにはギルドは保護を行って欲しいわけじゃない。
人間の世界では当たり前のことであり、この価値観を非難することはできないが。
ただ、事後報告などされていれば……いや、いい。少なくとも今回そうはならなかった。
ひとまず鞄を外側から小突いておく。
アリヴェーラからは返事もないが、まぁそれはそれでいい。
「具体的にはどうすれば?」
「判断はお任しますが。我々が掲示できる安全策としては、アーサーさんの使い魔にして欲しいというところですね」
……まぁ、そう来るのが自然か。
頷きつつも、俺は少し考える。
状況は掴めないものの、地下牢に人形と来れば他と同じように売るつもりだったのだろう。枷か何かを付けているのだろうが、万が一暴れられる状況にあるということだろうか。
ともあれ魔物を安全に無力化するなら、使い魔の扱いにも長ける魔法使いが適任であろう。
ギルドは安全に魔物を処理できる。魔法使い側も簡単に使い魔という戦力を手にできる。
互いにとって利益のある話で、断る理由はあまりない。
というか金を受け取ろうとしなかった俺を手ぶらで返さないため、ギルドが褒賞の代わりにしたいんだろう。
昨日俺が提案を投げた段階で、こういった話に持っていくことは考えていたはずだ。
――しかし俺が魔法使いであることが前提である。
まさかこんなところで嘘がマイナスに働くとは思わなかった。
さて、どうしたものか……後でアリヴェーラに相談しよう。
「ひとまず現場に向かいましょうか」
「分かりました。こちらで案内人を付けさせますので、少しお待ち頂ければ」
「お構いなく。地下へ行けば分かるでしょうし、危険なら尚のことでしょう」
本音を言えば邪魔ということである。
しかし昨日飯食っておいてよかったな……空腹だったら流石に俺でも金を受け取っていただろう。自分に余裕が一切ない時にまで他人に手を差し伸べるほど人間はできていない。
結果的に言えば、そうしなければ魔物の情報がもたらされることはなかったかもしれないのだ。
そこで知らなかったのなら俺が悩むこともなかったといえばそうなのだが――やはり、知ったからには見捨てちゃおけない。
相手が人であろうと魔物であろうと、そこに差異がないことを俺達は知っている。
そんなわけで、早朝からレーヴァン邸へと向かうことになった。
お話が進むにつれて、1話2000~3000くらいで出そうっていう当初のアレもなく4000くらいになってましたね。
このくらいの文字数だとどっちの方が読みやすいかは定かではありませんが、あんままとまった感じで出そうとするとこう、更新がどんどん遠のくというか。
特に締め切りというものもなくのんびりやっているのもあって、気がつけば月1更新になっているというか。
まぁそんな感じだったので、ちょいと歯切れ悪めですが今回はここまで。忙しいというのはありますが、あんま期間空けないように投下を心がけていこうと思います。




