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勇者様は魔王様!  作者: くるい
3章 逆賊の騎士
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49話 腹を割って話そう

「まぁつっても、お前さん見るまではそんなつもりもなかったんだけどな」


 彼は置いた剣の横にどかりと腰を降ろし、俺の前で堂々と座る。

 頭をぽりぽりと掻きながら俺の方を見やる――疲れたような視線。

 ぼさぼさの茶色の前髪が目に垂れ下がるのを嫌ってか、彼は右手で掻き上げるように後ろへ流す。


 どうやら、本当に戦う気はないらしい。

 それにそんな重たい鎧で膝を立てて座ってしまえば、咄嗟に動けもしないだろう。


 俺は立ったまま、そんな彼を見下している。

 念の為警戒は解いていない……が、この男が何らかの魔法を使う様子さえ見られていないため、意味はなさそうだ。


「魔力による水を蒸発させ、霧状に散布して視界を奪う――ねぇ……よく考えたもんだ。俺達騎士にゃできねぇ芸当だわな」

「何が言いたいんです?」

「俺達はなぁ、向いてねぇんだよな。冒険者みたいに色んな技術は要求されてない」

「……?」


 ふぅ、と深い溜息が彼から溢れる。

 ついには俺からも視線を外したかと思えば、床をこんこんと人差し指で二度叩いた。


「ちょっと話そうぜ。丁度良く霧で隠れてるし、お前はマグリッドをもう追えない。対価には抵抗なしの俺の首だ、どうだい」

「それは、あなたに何のメリットが?」

「まぁないわな……いや、そうとも言い切れんな! お前との有意義な話が俺にとってのメリットだ」

「だとしても俺にはない。あなたを戦闘不能にして加勢に行く必要があります」


 耳を澄ませなくとも聞こえる剣戟の音。

 背後で騎士と、彼女が奮戦している。

 こんなところでお喋りに付き合う理由は俺にはないのだ。


「あー……心配か。まあでもよ、俺やマグリッドならともかく、あの手練相手に騎士のやり方じゃ束になったって無理だぜ。束になった方が無理って言い換えた方がいいか」

「……あなたは自分の仲間を信頼してないと?」

「信頼? 勿論してる。俺達は魔霧で満たされてる密室で戦う連中じゃねぇ、だから咄嗟の作戦としちゃ最高だったぜ」

「あなたは俺と違って、助けには行こうともしないと?」

「俺がなんとかするから隙を見て逃げろと伝えてあるよ。そんで俺は逃げ切れると信じている――でもお前を野放しにしちゃ、そうはいかないだろ」

「随分と俺を買うんですね。まだ子供ですよ」

「子供だろうが、俺達より一回り以上小さかろうが、強いもんは強い。で、席には付いてくれるのか?」


 再度の要求。

 彼は俺から視線を離し、剣戟の音の方向を眺めながら――言う。


「……良いでしょう」

「おお。そりゃあ有り難い」


 重傷を負わせたマグリッドは逃げ、厄介な障壁を展開するシリウスも逃げた。彼らが彼女の方へ向かい、騎士に加勢していないことは分かる。


 彼女が相手にする騎士の最大人数は――四人。

 戦いの気配と音からも差違はない。


 ここで一番実力があるのは、この男だ。

 なら俺がコイツの意識を留めておくことにも意味はある。

 彼にとっても俺にとっても、ここでの会話は無駄とはならない。


 彼の前に腰を下ろし、向かい合う。


 彼と違ってこちらは軽装。

 例え後手に回ろうとも動き出しで遅れはしない。


「ここでは敢えてお前をアーサーと呼ばせて貰うが……マグリッドは変わってはいないぜ。やり方は致命的だがな」

「話、聞いてたんですか……それが分かっているなら何故こんなことを許した」

「そうすりゃマグリッドの仲間が助かる。貴族殺しでしか成せない目的なのさ、コイツは」


 ――まただ。

 俺はこいつらが何をしているのかが分からない。

 だが、どうにもきな臭くなってきた。


「……何があったんです?」

「俺の口からは――と言いたいところだが話しちまうか。その前に、()()()()()()()()()()()()()んだろ?」

「それを……俺に聞くんですか」

「お前は()()()()()じゃないんだ、ならいいだろ」

「そうですね。知りませんよ。普通は仲間を殺そうとはしないと思いますが」


 俺はその質問に一般論で応える。

 すると彼は、一人で勝手に頷いて。


「あぁ、そうだな。()()()()()()()()()

「……何だって?」

「おいおい怒るなよ……仲間を殺そうとする奴はいなかった。でも殺さなければならなかった。だからマグリッドはお前を――いや、勇者を魔界へと逃したんだ」

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