16話　澪と凪咲さん、接触！

午後のHRも終了し、俺、悠斗、澪の三人は校舎を出て正門に向かう。

すると、道路に黒いアルファードが停車しており、その前にスーツ姿の沙耶さんが立っていた。

それを見た悠斗は、嬉しそうに「沙耶さん！」と手を振って駆けていく。

そに行動に、俺の隣で澪は眉を寄せた。

「あれが沙耶さんね。美人だけど……年上過ぎない？」

「大人の女性が好きなんだろ。沙耶さんは、凛々しいというか、カッコいいからな」

「ふーん、空もあんな年上が好きなんだ」

「違うよ。頼むから、沙耶さんに年齢バトルを仕掛けるなよ」

「わかってるわよ」

澪は素直に頷くが、不安でしかない。

沙耶さんはまだ二十六歳、十分に若くて魅力的な女性と思うけど、それを言うと澪の機嫌が悪くなりそうだから言わないでおいた。

俺達二人が歩いていくと、沙耶さんはニッコリと微笑む。

「皆さん、車に乗ってください」

「「「失礼しまーす」」」

沙耶さんは運転席に乗り、俺達三人は後部座席へ。

シートベルトをセットし終えると、車は静かに走り出した。

細い路地を通り抜けて大通りに出る。

隣に座っている澪が、運転している沙耶さんに声をかけた。

「沙耶さんって、高校生男子のことをどう思いますか？」

「そうですね……大人の男性よりも素直で可愛いと感じますね」

「それって、まだ子供に思うってことですか？」

「そうではありません……まだ社会経験は未熟ではあっても、若さは未知の可能性でもあり、十分に魅力的に感じますね」

「高校生と恋愛関係になってもいいということですか？」

澪がとんでもない質問を投げていく。

窓際に座す悠斗は、目を大きく見開き、ゴクリと唾を飲んだ。

沙耶さんは少し間を開け、冷静に答える。

「私はお嬢様の侍女ですので、恋愛について深く考えたことはありませんが、年齢、身長、学歴、収入と男性を測る物差しはありますが、それが正しいとは限りません。私がその男性と一緒にいて幸せを感じる。それが大事だと思いますね」

「……大人な答え……手強いわね……」

沙耶さんの答えに、澪は小さく呟く。

いったい、何の勝負を仕掛けてるんだよ。

頼むから、大人しくしていてほしい。

悠斗は俯いて、小さく拳を握りしめている。

「沙耶さんは年齢を気にしないんだ……僕にも可能性が……」

沙耶さん、大人の差し障りの解答を選んだんでしょうが、ここに妄想を爆走しそうな男子がいますよ。

期待させるようなこと言うのは……でも沙耶さんは少し変わったところがあるから、本音で言ってるのかな？

車は順調に走行し、繁華街の方へ向かっていく。

凪咲さんのマンションへ行くのかと思っていたけど違うようだ。

澪も悠斗もいるから、場所を変えたのかな？

高級ホテルの地下駐車場へと入り、アルファードは停車した。

車から降りると、焦った様子で悠斗が寄ってくる。

「このホテルって一泊するだけでも凄く高いと聞いたことがあるぞ。空はいつも凪咲さんと、こんな場所で会ってるのか？」

「違う、違う。ここに来たのは今日が初めてだから」

動揺する俺達二人を見て、澪は胸を張った。

「制服を来てるだから、どんな高級な場所でも大丈夫よ」

やっぱり女子の方がメンタル強いよな。

高価だというだけで、男子はビビるのに。

沙耶さんの案内で、地下からエレベータに乗り込む。

最上階に到着し、沙耶さんはスタスタと歩いていく。

窓から街を一望できる。

沙耶さんはカードで解錠して扉を開ける。

「どうぞ、お入りください。既にお嬢様はお待ちになっています」

「お邪魔します」

俺達三人はそれぞれに会釈をして部屋の中に入った。

白く綺麗な大きい室内。大きな楕円形のテーブルの前に、凪咲さんが薄ピンク色のドレス姿で座っていた。

俺達三人の姿を見て、椅子から立ち上がり、両手を広げて挨拶する。

「皆さん、こんにちわ。私が葉山凪咲です。さあ、お座りになってください」

「失礼します」

「初めまして、池上悠斗です」

「小川澪です」

凪咲さんの隣に座ろうとすると、澪が強引に俺を押しのけ椅子に座る。

俺と悠斗が席に着くと、凪咲さんがニコリを笑む。

「沙耶さん、食事を運んでもらって」

「わかりました」

沙耶さんは、胸に手を当てて会釈すると、別室へと消えていった。

夕飯にはまだ早い時間帯だが、ホテルの頼んでくれていたのか。

でも……ホテルの料理なんて食べたことないぞ……

チラリと横目で悠斗を見ると、彼も緊張しているようだ。

澪は澄まし顔で、凪咲さんにお辞儀をした。

「私の幼馴染の空がお世話になっています。家族を代表して、ありがとうございます」

「痴漢騒ぎで空君を冤罪者扱いしてしまったことの心からの謝罪です。私の一生を捧げ、彼に償っていくつもりです」

「もう学校でも騒ぎは治まっていますので、そのお気持ちだけで十分ですよ」

「私の誓いは、私が決めたことですので、お気になさらないで」

澪と凪咲さんが互いに顔を近づけ、微笑んでいる。

しかし、表情とは裏腹に、視線から凄まじい火花を発しているみたいな雰囲気だ。

二人の迫力に、悠斗は引きつった表情をして、額から冷や汗を流す。

美少女二人が、男子のことで揉める構図なんて、イケメン主人公の物語だろ。

女子達は忘れているようだが……俺は超肥満体形なんですけど……

とにかく怖いから、沙耶さん、早く戻ってきて！