夫婦みたい――2
「べ、別にどうもしないぞ!?」
「わわわわたしたち、全然おかしくないよね!?」
「誤魔化すの下手すぎか」
アタフタする俺と萌花にツッコミを入れて、猫宮さんが好奇心に目を輝かせる。
「ねーねー? 西条くんと萌花ちんって、なんでそんなに息ピッタリなのー? もしかしてさー? 本当に、いつも一緒のキッチンで……」
「子供のころの話よ」
おもちゃを見つけた悪ガキみたいな笑みを浮かべつつ迫ってくる猫宮さんを止めたのは、美風だった。
「蓮弥は結構器用だから、萌花とふたりで萌花のお父さんから手ほどきを受けてたわけ。あたしたちが幼なじみってこと、菜々は知ってるでしょ?」
「ってことは、いまは違うの?」
「そりゃあ、そうでしょ。あくまでも昔のことよ」
「たしかに、いつも一緒に料理を作ってるなんてあり得ないかー。ラブコメ漫画じゃあるまいしねー」
ケラケラ笑う猫宮さんに合わせて、俺と萌花はなんとか笑顔を取り繕う。
実際は、ラブコメ漫画そのものな毎日を送ってるんだけどな。
内心で冷や汗を流しながら、機転を利かせてくれた美風に、こっそりとサムズアップ。それを見た美風も、返事として親指を立ててくれた。
「けど、猫宮さんが勘違いしちゃうのも無理はないよね」
俺たちが胸を撫で下ろしていると、柳が苦笑しながら口にする。
「蓮弥くんと永春さん、まるで新婚夫婦みたいだったから」
「新婚……」
「夫婦……」
柳の発言で、カアッと体温が急上昇した。
萌花のほうに目を向けると、あちらもこちらに目を向けている。
目が合った途端、萌花の顔が湯気が上るほどに赤くなった。きっと、俺も同じくらい赤い顔をしているだろう。
俺と萌花はパッと顔を背け合う。一呼吸置いてチラリとうかがうと、またしても目が合って、再び顔を背け合った。
「……ほほ~う?」
そんな俺たちの様子にニヤリと口端を上げて、猫宮さんが美風を肘で小突く。
「へいへい、美風っちー? 萌花ちんが一歩リードしてるみたいだぜー?」
「リ、リードってなんのことよ?」
「わかってるくせにー」
わかりやすくツンデレる美風に、ウザ絡みする猫宮さん。
リードもなにも、もう婚約してるんだけどな、萌花も美風も、加えて詩織も。まあ、教えるわけにはいかないんだが。
心のなかで独りごちて、俺はパンパンと手を叩く。
「悪ふざけもこの辺にして調理に戻ろう。間に合わなかったら大変だ」
「話題の切り替え、下手すぎじゃねー?」
「猫宮さん、黙れー」
雑にあしらうと、猫宮さんはケタケタと笑って仕事に戻っていった。
俺たちのやり取りに笑みをこぼし、柳も粉のふるいかけに戻る。
なんとか乗り切ったか……。
猫宮さんと柳にバレないよう、小さく安堵の息をつく。
その折り、俺の右手の甲がツンツンとつつかれた。
何事かと思い隣を見やると、美風が唇を尖らせている。
どこか拗ねた様子の美風を目にして、俺は察した。
俺と萌花が新婚夫婦みたいって言われて、羨ましかったんだろうな。
なんとも微笑ましく、いじらしい嫉妬心。
クスッと笑みを漏らした俺は、なおもツンツンとつついてくる美風の指に、こちらの指を絡める。
「!」
美風が目を丸くするなか、俺は絡めた指にキュッと力を込めた。
もちろん、美風も俺のお嫁さんだからな。
そんなメッセージを伝えるように。
「…………」
美風がふいっと顔を背ける。
けれど、その頬が緩んでいるだろうことは明白だった。
絡めた指に、キュッと力が込め返されたから。




