春α12 あんまりジロジロ見ないでもらえませんか?
ゲストキャラ中心の3話完結でお送りします。
季節と気候は完全に梅雨入りし、巷の学生達の制服も衣替えの時期を迎えていた。
学校によってはお洒落な制服もあるが、気温の高い日が続くようになれば、お洒落な冬服でも流石に暑苦しくもなる。
そんな衣替えの季節。世の青少年達の大半がまずこうなる……。
「おぉぉ……?見える?見えるか?透けてるか、あれ?」
「あれってブラ?な、あれ、ブラ?」
「いや、ありゃたぶんキャミソールだろ」
「キャミソ……?なんだそれ。下着じゃねぇのか?」
「どっちでもいいけど、今ちょっとだけ雨降ってくんねぇかなぁ」
そんな下世話な思春期男子の一団を横目に、同じ高校の制服を着た生徒が二人通り過ぎて行く。
「俺も中学ん時はあんなアホだったか。若かったぜ。フッ……」
「何が『若かったぜ。フッ……』だよ!この前の衣替え初日に、僕のブラウスの透け具合ガン見してたのはどこの誰だ!」
今日はちゃんとキャミソールと薄いタンクトップで防衛戦を張ってきたのだ。秋人と言えども男は狼なんだから。って母さんに言われてそうしてみたけど。
「大事な親友が女の子としてしっかり育っているか気を配るのは当然だろ?あと俺はお前の彼氏だし。なんつーか……その、いろいろ、気になる、し……?」
最初の方は自信満々に言ってたくせに、段々真面目に顔を赤くして言葉に詰まりだす秋人に、なんだか僕まで恥ずかしくなってきた。
「あんましジロジロ見ないでもらえませんか?」
「じ、ジロジロとは見てないぞ!」
「……チラチラもなんか、ダメ」
「どうしろってんだ」
「あの真っ青な夏空でも見とけ!」
「……めっちゃ曇天なんですけど」
「……あぁ、今日一応午前中傘マークだったから、そろそろ降り出すかもね」
一学期後半。梅雨の鬱陶しさを衣替えで心機一転。気持ちを引き締める者もいれば、早々と夏気分でちょっぴり浮かれる者も出てしまうこの時期。そんな半端に浮かれた輩達に激しく牙を向く、今話題の風紀委員会が朝の登校時間の昇降口で登校してくる生徒達を待ち構えていた。
「オラァ、そこの男子!ネクタイはキッチリ!Yシャツはビシッとインだ!」
「おっ、おざいやす」
「"おはようございます"だろうが!ハッキリ喋れオラァ!」
「ひえぇ!」
昇降口左側にたって激しく怒号を飛ばす鬼のような……小さい人。プラスチックの瓶ケースを台にして立っているが、横を通って玄関に入っていく男子の生徒の身長と変わらない高さだった。いろいろ男っぽいけど制服は女子。
「じゅんちゃん、朝からあんまり叫ぶとまた貧血起こすよ。生理には気を付けないと」
「男子共の前で生理の話をすんなボケェ!」
反対に、昇降口右側から小さい人を宥めようとしている人はスラッとした長身で中性的な見た目。一見爽やかイケメンだけど、こちらも制服は女子。
だらしない格好で怒られる男子のほとんどは左側の小さい人に怯えながら中に入っていくが、女子のほとんどは何故か、左側からのムチに喜び、右側からの飴にとろけながら校舎の中へと消えていった。
芽吹と秋人は服装に特に問題は無く。ただ、芽吹は身長が低く、よって台に上がっている恐い小さい人からは上から睨まれる形となり、なにも悪い事はしていないが無実の恐怖に怯えながら下駄箱を通過していったのだった。
「あの人恐い。何にもしてないし別に怒られてないけど恐い……」
「ありゃ確かにこえぇな。新しい風紀委員会のメンバー、なんかビジュアルが男っぽいな」
「風紀委員会?」
お昼休み。芽吹達はいつものメンバーで学食に来ていた。そして芽吹はいつも通り……、
「すぴゅぅ~……ふきゅぅ~……」
お昼寝中である。そして周囲の反応もいつも通り……、
「Dead or キュンですな」
「え、何故に二択?普通キュン死にじゃなくて?」
「まともに考えるなバカ。なんとなく鬼気迫る感じすんだろが」
「いやぁ~……?」
いつも通り?
芽吹の超絶的天使な寝顔と寝息に癒やされながらゆったりと昼休みを過ごす秋人、夕夏、八乙女さん、出島、有馬。
各々が他愛のない話でガヤガヤしている中で誰から出たのか、みんなが一斉にある話題に食い付いていた。風紀委員会の2人の先輩のことである。
この話題に熱っぽく反応したのは八乙女さんだった。
「あのお二方はきっと、かの有名なオスカルとアンドレの生まれ変わりだ!」
「誰よそれ?」
夕夏が鼻で笑いながらツッコミを入れた。その態度にみんなが「え、まさか!?」「おいマジかお前!?」的な視線を向けたので夕夏は、
「……え、あれ、何この疎外感?」
「夕夏、キサマまさか本当に知らないのか。『ベル○○○○ばら』を?」
「え……、知らない」
「女子だからって女子みんなが少女漫画読んでる訳じゃねぇんだな」
出島が真面目な顔で頷きながら納得していた。
目が覚めて、なんとなく周りを見ると、何故かほとんどの人が僕の方を見ていた。
「ん……?」
半分寝ぼけた表情で首を傾げる芽吹。
「お目覚めか?」
隣に座っていた秋人が芽吹を顔を覗き込むように問う。
ふと秋人の手元にあった缶ジュースにが視界に入って、僕は喉が渇いていることに気付いた。だから……。
芽吹は秋人の手元をジィ~っと睨んでいた。寝ぼけてそうでも何故か目は鋭く。ほんの僅かな時間、秋人の手元、缶のミルクティーを見つめていた芽吹がのそりと動いた。
「喉渇いた」
そんなちいさな囁きと共に、芽吹はぬるりと秋人の手からミルクティーを奪い、可愛く両手で缶を持ち、
「頂きまぁ~……んくっ……んくっ……っぱぁぁぁ!」
まるでほ乳瓶にかぶりつく赤ん坊のような飲みっぷりを披露した。
「俺、まだ二口しか飲んでないんだけど……。ハルお前、全部飲みやがった」」
「ふぅぅ。ゴッチになりました。おかげで生き返りましたぜ、秋人先輩!」
「なぁにが先輩だ。よし。じゃあ先輩の命令だ。今すぐジュースを買ってこい。今お前が飲み干したミルクティーだ!」
わざと不機嫌な顔で言い放つ秋人に対して芽吹は、
「イェッサー!」
チュピィィンと可愛い敬礼をして近くの自販機へと駆けていった。
秋人と芽吹の間接キスミルクティー缶はこの日、一部の男子女子の間で爆発的好感度とプレミアを生み出すのだが、秋人と芽吹当人らは決してその事実を知ることはないのである。
僕は秋人のミルクティーを飲んでしまったお詫びに、同じミルクティーを買いに自販機の前まで来た。学食の出入り口近く。食券販売機とは少し離れた向かい側にある。
硬貨を入れてミルクティーのボタンへと人差し指を近付けて、とあることを思い付いた。
ここはふざけて秋人が普段飲まないものを買っていってみようか。たとえばこの『リアルゴールド』。これを買ってって秋人に、
「これ飲んだらかめはめ波か波動拳が撃てるようになるかもよ!」
……なんて。
自販機の前でくだらない想像を膨らませていたところへ……。
「ちょっと君、買うならさっさと買ってくんないかな。次が詰まってるんだ」
「ほえ?」
「ぬあっ、君か!?」
急かされて振り向いた途端、何故か驚かれてしまった。
「うわっ、僕ですが何か!?……って、うわっ、怖いちっちゃい先輩!?」
相手が誰なのか気付いた瞬間、僕はそう口にしていた。すると後ろにいたもう一人の背の高い人が「あららら」という感じに額に手を当てた。
「俺をちっちゃい言うなああああ!うがぁあああ!」
学食に小さな野獣の咆哮が響き渡る。
続く…
風紀委員会の二人でどうドタバタにしていこうか……。




