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夢で逢いましょう!!!  作者: おっさん
18/28

第十八話

35

こん睡事件が終わり、三日が過ぎた。由香の学校では一応の平静が訪れたが吹奏楽部の活動に関してはいまだ何の音さたもなく、廃部になるのかさえ分からない状態になっていた。


「ちょうヤバくない……この前の集団昏睡事件……」


「よかったブラバンはいんなくて……」


「ほんとだよね、顧問は死ぬし……呪われてるよね……」


「でもさぁ、音楽の先生が死んだら私たちの内申って誰が付けんの?」


直接事件に関連しない連中は、事故の事よりも自分の成績を気にしだしていた。


「受験が近いってのに……ぶっちゃけ迷惑だよね」


 事件や事故が与える余波は当事者たちだけでなく、周りの生徒達にも影響を与えた。それは不幸にも人の心にある卑しい部分に光を当てた。だがその光は弱く、誰しもが持つ人間の闇の側面を浮かびあがらせるだけだった。


『どうなるんだろ……』


 由香がそんなことを思いながら廊下を歩いていると学校の端々で今回の事件に興味を持った連中がヒソヒソと話を始めた。由香を見て廊下の端に避ける者、奇異な目で見る者、由香の存在を無視する者、昏睡事件で由香が被害にあわなかったため彼らは事件の犯人が由香ではないかと噂していた。


『夢魔の話をしても信じてもらえないだろうし……何で……こんなことに……』


 事件の核ともいうべき夢魔の存在は夢魔に襲われた被害者だけにしか認識できないものである。ましてダブルバレルショットガンを振り回す少女の話など彼らに何の意味も持たないだろう。


 由香は自分の置かれた環境に悔しさをにじませたが、自分の潔白を示すものがあるわけでないため、灰色の眼で見られるほかなかった。


『……腹がたつ……』


不穏な空気が教室に流れる中、由香は雑音をシャットアウトして事件を思い起こそうとした。


『副島先生が夢魔の発生源だと思ったんだけどな……でも、それが違うなら……やっぱり絵里ちゃんに聞くしかない……』


由香は再び絵里の所に向かおうと思った。


『だけど……あの様子だと……話してくれるか……』


 絵里の隠していることが何なのかはわからなかったが、彼女の秘めたものはこの事件の本質にかかわると由香はおもった。

 

                                 *


 そんな時である、廊下の窓から吹奏楽部の部長、内藤さおりが血相を変えて声を上げた。


「由香ちゃん……絵里ちゃんが……」


帰り支度をしていた由香はさおりの表情から危機的なものが生じたことを悟った。


「急いで、病院に!!」


さおりにせかされた由香は強く頷くとカバンを持った。


                                   *


学校の外には車が止まっていた。


「うちの車で行きましょ!」


 さおりの家は浅間市の名家でこの界隈でその名を知らぬ者はいない。とくに不動産業に関しては駅前の一等地に貸しビルを持ち、そのテナント収入だけで潤沢な資金を毎月手にしている。小さな地方都市では皆がうらやむような生活をしている上級民であった。当然のごとくその車には運転手がのっていた。


「さあ、由香ちゃん」


 言われた由香はいざなわれるままに後ろのシートに身を横たえた。高級感漂う皮のシートからは父の乗る大衆車とはことなる何とも言えない落ち着きのある香りがした。由香はさおりとの間に明らかな格差を感じたが、今そんなことを言っている暇はない。


車が発信すると由香は開口一番さおりに尋ねた。


「さおりちゃん、大丈夫なの……」


さおりは3日前の昏睡事件で昏倒した女子生徒の1人である、由香は体調を配慮して尋ねた。


「まだ、頭がボッーとすることもあるけど、大丈夫だよ」


さおりがそう言うと由香はホッとした表情を見せた。


「ところで絵里ちゃんは……どうなの?」


由香が尋ねるとさおりが即答した。


「あんまりよくないみたい……お母さんから連絡があって……他の子はバイタル(生命活動)が安定してるけど、絵里ちゃんは……」


由香は絵里と話をしていただけに急激な変化に驚きを隠さなかった。


「さおりちゃん、倒れた時……変な夢……見なかった?」


由香はさおりに夢魔に対する質問をぶつけた。


さおりはそれに対し何とも言えない表情を浮かべた。


「変な夢をずっと見てたんだけど……何かに追われてたような……」


由香はさおりの反応に間違いなく夢魔が介在していることを感じた。


「それは夢魔って言う存在に追われてたんだよ」


「夢魔?」


さおりが両目を大きくすると由香が続けた。


「心の隙間に入ってくる化物……夢の中で現れて、徐々に宿主を侵食するの、絵里ちゃんもそれに……」


 それを聞いたさおりは身ぶるいした。その表情には中島美紀の虐めに直接ではないが加担した後ろめたさが浮かんでいた。由香や絵里と同様、いじめの加害者としての自責の念である。


さおりの様子を見た由香は絵里以外に夢魔の存在を相談できる相手が現れたと思った。


「中島美紀ちゃんのことで……みんな彼女の事を虐めてたから……きっとその罪悪感につけこまれたんだと思う……」


由香がそう言うとさおりは由香を見た。


「続けてくれる」


さおりの真剣な眼差しに対し由香は深く頷くと、可憐な少女と夢魔について一連の出来事を話した。


「ショットガンを持ったかわいい女子が夢の中に出てくるんだけど、その人が夢魔をたおしてくれたんだ……わたしも、その人に助けてもらったの……」


「その女子はどんな子なの?」


さおりが興味津々に尋ねると由香はこたえた。


「名前とかはわからないんだけど……リーパー、苅者って言ってた。」


リーパーという名を聞くとさおりは首をかしげた。


「そうだよね、すぐには信じられないよね」


由香がそう言った時である、運転手が声を上げた。


「お嬢様、着きました!」


妙に甲高い声で運転手が言うとさおりは感謝の言葉を述べて由香ともども車を出た。


                                   *


二人がドアを閉めて離れるのを確認すると運転手はポツリと言った。


「リーパー……か……」


普通の者なら中学生のたわごと聞き流すだろうが、運転手の眼はそうではなかった……


                                    *


 病室の外には中島絵里の母親と内藤さおりの母親、そして担当医師が厳しい表情で何やら話していた。小声で話す様子からは絵里の容態が悪いことが推し量られた。由香とさおりは病室に入るのを一瞬の躊躇をみせたが顔を見合わせると思い切って部屋に入った。


 2人の眼に入った絵里の様子は実に深刻であった。人工呼吸器をつけた状態でその表情は赤黒く、死人と思える表情であった。


由香は絵里に近寄るとその手を握った。


『絵里ちゃん……』


 絵里の神経障害は以前よりも深刻で自力での呼吸も厳しい状態に陥っていた。だが由香を見た絵里はそれに構わず必死になって何かを伝えようとした。


『絵里ちゃん……何……?』


絵里は震える手で指をさそうとした。


由香はその指先を見つめた。


振るえる指は病室のドアの方を刺した。


その時である、さおりの母が絵里の母親を連れ立って病室に入ってきた。


「気が付いたのね!!」


さおりの母はそう言うと由香に声をかけた。


「先生を呼ぶから出て行ってくれる!!」


由香はそう言われるとさおりともども部屋から出された。


                                 *


 絵里はその後、再び意識を失って話を聞く所ではなくなった。命こそ失わなかったがこの先どうなるかは不透明で予断を許さぬ状態に陥った。


一方、由香は必死になって絵里が指差ししようとしたものが何か考えをあぐねた。


『病室の中で、あれだけ必死になって……私に伝えようとしてた……きっと何かあったんだわ……だけど……』


由香は絵里の指の差した延長線に何があったか思い起こそうとした。


『携帯……違う、あれは耳元にあった……。ほかにはドア……ドアの向こう……』


由香は漠然とした記憶しかなく、いまひとつはっきりとしたことが思い起こせなかった。


『これじゃあ……意味がない』


由香が落ち込んだ時である、さおりが声をかけた。


「私たちが沈んでても、何もよくならないよ。厳しい状態かもしれないけど絵里ちゃんはまだ生きてるんだし……。私たちがなんとかこの状況をよくしていかないと」


さおりが力強い言葉を投げかけると由香は深く頷いた。


「そうだよね、へこんでても夢魔がいなくなるわけじゃないし……」


由香はさおりの存在を心強く感じた。


「これからもわかった情報を交換して夢魔に対する方針を立ててこう」


さおりに言われた由香は宏以外に信頼できる仲間ができたとうれしくなった。


                                   *


由香は鈴木絵里の話したこと、そして夢に現れた可憐な少女のことについてさおりに詳しく話した。


 夢魔という存在はにわかに信じがたいが、一連の事件に人外の力が介在してもおかしくないと感じたさおりは疑心暗鬼でありながらもうなずかざるを得なかった。


「じゃあ、夢魔はその袴をつけた女子がやっつけたってこと?」


「そう、あのひとが……ショットガンでバンバン撃っちゃうの、それでボッコボコ!」


由香は夢の中で暗躍していた夢魔を虐殺する少女の話に夢中になった。


「でも、夢魔はまた現れる……同じようなことが起こるって」


由香が少女の言ったことを言うとゆかりが怪訝な表情を浮かべた。


「あなたの話だと……うちの部活に夢を見させる犯人がいるってことかな……」


「そうだと思う」


由香が即答するとさおりは唇を噛んだ。


「でも誰なの?」


さおりの疑問に対し由香が答えた。


「きっとこの前の昏睡事件で被害を受けてない人間だと思う……だからさおりちゃんや他の倒れた女子とは違うと思う」


由香は確信した表情で言うとさおりが反応した。


「あの時、いなかったのは副部長ね……もしくわ、部活の関係者……あとは兄妹とか親とか……」


さおりがそう言うと由香は頷いた。


「とにかく近くにいるはず!!」


由香の自信のある表情を見たさおりは大きく頷いた。




昏睡事件の被害者、内藤ゆかり(吹奏楽部の部長)も夢魔に苦しめられていたことを認識した由香は自分と同じ状況を経験した仲間ができたと確信します。由香はゆかりに対してリーパーのことを話して情報を共有しようと試みます。


さて、この後、物語はどうなるのでしょうか?

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