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夢で逢いましょう!!!  作者: おっさん
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第十三話

                                 *


 授業が終わり宏が部活に顔を出そうとした時だった、由香から連絡がはいった。宏は会話を聞かれない場所に足早に向かうと携帯を手に取った。


「どうした、由香?」


宏が尋ねると由香が平静を装い早口で話し始めた。


「お兄ちゃん、先生が死んでから……いろいろ変なんだ……部活の子たち……おかしくなってる」


 宏は内容もさることながら由香の声色に不穏なものを感じた。その声が夢魔に犯されていたころと酷似していたからである。宏は瞬間的に『マズイ』と判断した。


「何があったかゆっくり話せ!」


「練習中に……みんな……」


「みんな、どうしたんだ?」


宏がそう言ったときである由香が急に沈黙した。


「どうした、由香、何があったんだ!」


宏が大声を上げた時である、制服のブレザーの内ポケットのしまってある牡丹の髪飾りが震え出した。


『夢魔の伝播がひろがってるな……副島洋子の死が何らかの影響を与えたとみて間違いない』


しゃがれた声が宏の脳裏に響いた。


『夢魔の根っこが、お前の妹の部活の連中を絡め取り出したんだろう』


宏はその声に対して反応した。


「どうしたらいいんだ!!」


『まずは状況確認だ。下手に動くなよ、アテラレタら最後だ』


「アテラレル?」


『ああ、今回俺たちが対峙してる化物はその触手を伸ばして侵食するタイプだ。カモれる人間に『枝』を飛ばして、夢の中に寄生していく。そして寄生された人間を媒介として新たなカモを探すんだ。』


しゃがれた声は続けた、


『お前が妹に影響されてアテラレタように、妹の学校の連中も副島洋子にアテラレタたんだろ。そして彼女の死が生徒たちの中に眠る夢魔の芽を発芽させたんだろうな』


宏は息をのんだ。


「じゃあ、これから夢魔はその根をどんどん伸ばしていくんじゃ?」


『ああ、精神的に未熟な人間は夢魔のカモにされるだろう』


しゃがれた声は確信に満ちた口調でいった。


『お前たちのような多感で、成長途中の人間は夢魔にとって獲りつきやすい格好のターゲットなんだ。』


しゃがれた声の持ち主は大きく息を吐いた。


『俺たちリーパーには刈り取るチャンスが増えてありがたいけどな』


宏はその声を聞いて可憐な少女の事を思い出した。


『彼女なら……なんとか……できるのか』


 希望とも願望ともつかない思いを胸に秘めて宏は自転車に飛び乗った。行先は言うまでもなく、由香のいる浅間中学である。


                                 *


宏は再び由香に電話をした。宏のコールに由香は出なかったものが、すぐさまメールが送られてきた。


≪河川敷、グラウンド≫


由香のメールにはそう記されていた。


 宏は中学時代、陸上部に所属していたのだが、その時、学校から歩いて10分ほどの河川敷で練習したことを思い出した。


『そういえば、ブラスバント部のやつらもランニングするって言ってたな……』


 由香の属しているブラスバンド部は体力も重要視しているらしく、練習前にランニングと腹筋を日課にしていた。


『でも顧問の先生が死んだ後に、練習するなんてありえるのか……』


宏はそんなことをおもいながら河川敷に自転車を向けた。


その途中であった、宏がペダルをこいでいるとしゃがれた声が宏の脳内に響いてきた。


『近いぞ、気をつけろ。不用意に飛び込むとお前も絡め取られるぞ!』


しゃがれた声に余裕はなく、そこに明らかに夢魔に対する警戒の念が込められていた。


『気を強くもて、夢魔は現実の世界では大した影響はない。』


しゃがれた声がそう言うや否やであった、宏の目に複数のジャージに着替えた少女たちの姿が映った。


『あれは、由香だ!』


髪型から由香を判別するのは難儀なかったが集団から一人だけ距離を置いていることに宏は気づかされた。



27

由香は他の女子生徒の醸し出す雰囲気が、かつての自分に似通っていることに恐怖を感じた。


『あの時と同じだ……』


由香がナルコレプシーに陥った時の初期状況と同じことがほかの女子生徒たちに現れていた。


『目がうつろになって……体が……動かなくなる……そして思考がぼやけて……現実と夢との境が消えていく……』


由香はかつての経験から自分の部活の生徒たちに同じ現象が生じていることを看破した。


『ヤバイ……どうすればいいの……』


 集団催眠にかかったかのように女子生徒たちは怪しげな動きを見せ始めた。体を小刻みに揺らすと首を妙な角度でかしげた。


 由香は1人1人の女子生徒に声をかけてその体を揺らした。だが誰一人として由香の呼びかけに答える者はいなかった


『イっちゃってる、あっちに……』


由香はその精神を夢魔により乗っ取られた経験から、他の生徒たちが危機に瀕していると感じた。


『どうしよう……』


 由香がそう思った時である、女子生徒達のなかの1人が発狂した。そしてその声は他の生徒達に伝播した。そして……他の生徒達は目をつぶったままの状態でフラフラと歩き始めた。


                                   *


『枝を延ばしやがった……一気に侵食する気か……』


しゃがれた声は女子生徒達を見て面倒くさそうな声を上げた


『宏、ここでいろ!!』


 しゃがれた声はそう言うと今までの会話が嘘のようにどこかに消えた。宏は一瞬何が起こったかわからなかったが目を瞬いた時、その眼に河の水面上を走る少女の姿が飛び込んできた。


 軽快な足取り、たなびく髪、踊り舞う紺色の袴、彼女が水面上を走ると着地と同時に波紋が広がった。その波紋はさざ波となり太陽光をうけてキラキラと反射した。


形容しがたい不自然な美しさに宏は思わず息をのんだ。


『お嬢、左の奥だ!!』


 しゃがれた声がそう言うと少女は何も言わず跳躍した、腰に巻いたガンベルトのホルスターから水平二連式のショットガンを取り出し――そして微笑んだ。



『さあ、宴の始まりだ!!』



少女は悪鬼のごとき表情を浮かべるとバレルの中に流れるようにして弾丸を詰め込んだ。


28

少女はこの現象を引き起こした核と思える存在を見つけるや否や、その胸にめがけて引き金を引いた。弾丸は発狂した一人の生徒の胸の中に吸い込まれるようにして消えた。


『よし、空いたぞ、ダイブする!!』


生徒の胸にはぽっかりと穴が開くとその穴から瘴気と思しき禍々しいものが吹き出した。


『気をつけろ、お嬢!!』


しゃがれた声に耳を貸さず、少女はその穴の中に飛び込んだ。


                                    *


 穴の中は金属でできた配管が幾重にも重なっていた。異様にうねった曲線は人体の腸管のようなにおもえたがその大部分がさび付き、時に腫瘍のような変塊が点在していた。


『侵食が酷い……自我もイドもスーパーエゴもほとんどが……喰われてる……』


ダイブした少女の夢はすでに崩壊をはじめていた。


『罪悪感と恐怖で一杯だ。下手に動くとまきこまれる……』


しゃがれた声が言うや否やであった、銀色の金属が頭上から降り始めた。


『もうすぐそこが抜ける……抜けたら、終わりだな』


少女はその声を背中に受けると落ちてくる金属片に目をやった。


『これを使って昇る』


少女は落下してくる金属片に中空でとらえると、それを足場として、次の金属片へと飛び移った。


『これは何だ……』


 金属片を飛び移りながら少女はその形状に妙なものを感じた。所どころに金管楽器の一部と思われる部位が覗いている。だがそのほとんどはさび付きその形状は歪んでいた。


『この娘の夢は楽器と関連があるのか……』


少女がそうおもった時であるしゃがれた声が叫んだ。


『お嬢、右上だ!!』


ボロボロになった管を侵食していた腫瘍は少女に向かって毒液を放った。


少女はそれを寸前で交わすと左手のショットガンで腫瘍を打ち抜いた。金属腫瘍が水銀のような体液を辺りにまき散らすと、その部分が瞬時にして砂塵と化した。


『これが原因か……』


少女がそう言うとしゃがれた声が答えた。


『この娘は……もう手遅れだぞ……』


『わかってる……』


少女は渋い声を上げた。


『欠片があるはずだ……それを見つける』


少女はそう言うと金属腫瘍の毒液を避けながら、落下してくる楽器の金属片に飛び移った。

 

                                 *


 襲い来る金属腫瘍の攻撃をいなしながら少女は平然とした表情で落下してくる金属片に飛び移って行く。時に応戦し、腫瘍を潰しながら身の安全を確保する。その動きに微塵の狂いもなかった。


 少女はショットシェル(赤弾)をバレルに装填すると、壁面に向けて引き金を引いた。発射された弾丸は壁面にあたる寸前に炸裂し、その散弾が金属腫瘍を貫いた。耳を覆いたくなるような悲鳴が上がる。


『これで邪魔なやつはいない』


 夢魔の分身を倒した少女は金属片を足場にして侵食された夢世界を舞うようにして上昇する。中空を艶やかに舞う姿は物理的にはありえなかったがその様は優美としか言いようがなかった。


『アレだ、お嬢!』


しゃがれた声がそう言うと視界が急に開け、少女の前にさび付いた臓物の塊と思われるものが現れた。


『無理だな……』


しゃがれた声が絶望感丸出しでそう言うと少女はガンベルトから青いショットシェルとを取り出した。


『お嬢……そいつマズイんじゃないのか……』


『止むを得ん、荒療治だ。』


少女はそう言うとさび付いた臓物に向かって照準を合わせた。


                                   *


 発狂した女子生徒の声は周りの生徒の精神に影響を与えた。夢遊病者のような表情を浮かべた少女たちは首をかしげながらだらしなく口を開けた。そして耳をふさぎたくなるような音、否、超音波と思えるモノを発した。近くにいた由香はその場にへたり込むと頭を抱え込んだ。


『いたい……頭が割れる……』


由香は直接脳内に響いてくるその音波にもだえ苦しんだ。


『たすけて……いたい……おにいちゃん……』


 由香がそう思った時である……痛みが嘘のように引くとその顔に夕日があたった。水面に沈んでいく夕日の光は実に心地よく、夢うつつの状態に陥った。


そんな時である、由香の背に声が投げかけられた。



『もう終わった』



その声は間違いなくあの少女のものであった。




由香のブラスバンド部の部員たちが集団睡眠に襲われるという事態が発生します。そこに例の少女が現れて集団睡眠を引き起こした生徒を看破します。


はたして夢魔を伝播する核となった少女は誰だったのでしょうか?

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