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夢で逢いましょう!!!  作者: おっさん
12/28

第十二話

25

任意の聴取をやり過ごした宏は取調室から出ると、疲労困憊のあまり倒れるようにして近くにあった椅子に座りこんだ。精神的な疲労は半端ではなく気持ちを落ち着けるために大きく深呼吸した。


そして3度ほど深呼吸を繰り返した時である、しゃがれた声がどこからともなく聞こえてきた。


『やるじゃねぇか、宏……』


座っていた宏の脳裏に語りかけてくる……


精神こころのコントロールができるようになってきたな』


しゃがれた声はそう言うと神妙な声色で続けた。


『しかし、あの刑事ども、怪しいな……妙な情報ばかりにおどらされてる……』


しゃがれた声がそう言うと宏は怪訝な表情を浮かべた。


『一方的すぎるんだよ、普通ならこっちの話にも耳を傾けようとするはずだ……』


しゃがれた声がそう言うと、宏は気になっていた疑問をぶつけた。


「昨日、副島洋子の事を調べたんでしょ?」


宏がそう言うとしゃがれた声はフッと息を吐いた。


『そうだな、おまえには話しておいてもいいだろ。』


しゃがれた声は淡々とした口調で副島洋子の夢の中で見たことを話し始めた。


                                  *


『副島洋子はある人物に圧力をかけられていたみたいだ。そしてその圧力と教師としての倫理観の狭間で揺れていたようだ。最後はそのジレンマにつけこんだ夢魔により心を食われた。』


宏は驚いた。


「ある人物……副島洋子は中島美紀ちゃんの虐めをけしかけた主犯じゃないのか?」


宏の問いに対してしゃがれた声が答えた。


『ちがうな……副島洋子も『枝』であって、『根』じゃない。根っこにアテラレタ存在だ。お前の妹と同じだ。』


言われた宏は夢魔を伝播する存在が副島洋子でないことに驚きを隠さなかった


『副島洋子がこの一件の根っこじゃないなら……誰が……夢魔の元凶なんだ……』


素朴な疑問が宏の中で生まれた時である、宏の前にどこからともなく可憐な少女が現れた。


『副島洋子は心に掛金をかけていた。どうしても知られたくないことがあったんだ、その掛金のせいで我々は重要な情報を知ることができなかった。』


少女は忸怩たる思いを述べた。


『夢魔はこの一件の首謀者を通してその触手を伸ばしている。お前の妹や副島洋子のように他の人間にも根を伸ばすだろう。』


少女が淡々と言うと宏はつばを飲み込んだ。


『首謀者って……誰なんだ……』


宏がそう思うと少女が答えた。


『近くにいるはずだ……かならず。……だが現実の世界で我々は身動きとれん。』


少女がそう言った時である、宏の足元にパサリと何かが落ちた。


『これは……』


証拠として採取された牡丹の髪飾りであった。


『拾えってことか……』


宏は何食わぬ顔で髪飾りを拾うと、懐にそれを忍ばせた。


                                   *


警察署からでると雄太と由香が迎えに来ていた、


「もう大丈夫だ」


雄太はそう言うと大きく息を吐いた。


「友達の弁護士となかなか連絡が取れなくて、時間がかかったんだけど……警察に電話してもらってなんとかなった……」


雄太が明るい表情で続けた。


「警察が逮捕状を取るときは確実な証拠があるときだけだ。任意で聴取するってことは警察側がはっきりした証拠を持ってないことの裏返しだそうだ。」


雄太が弁護士の話を伝えると宏は大きく息を吐いた。


「ごめんね……お兄ちゃん、私のせいで……」


由香がそう言うと雄太が宏に声をかけた。


「何があったか話してくれ、そうしないとこの後の戦略が立てられない」


雄太が厳しい表情でそう言うと宏は頷いた。


                                   *


自宅に戻ると早速、家族会議となった。


「喰いながら話そう」


 食卓のほとんどを占める宅配ピザはその箱が開けられるや否やチーズが独特の香りを放った。一難去って落ち着きを取り戻した宏はその香りに食欲をかきたてら、イタリアンソーセージとサラミの乗ったピザを手に取りかぶりついた。


 由香は宏の元気そうな姿を見ると食欲がわいたらしく、同じく勢いよくピザを口に運んだ。雄太は二人の姿を見てホッとした表情を浮かべると、2人に向けて声をかけた。


「俺がいない間に……何があったんだ?」


雄太はつまみのサバの缶詰(水煮)を開けるとお湯割りの焼酎を口に運びながら尋ねた。


宏はコーラでピザを押し流すと今までの経緯を説明した。


                                   *


話を聞いた雄太は苦虫を潰したような顔を見せた。


「由香……お前……」


宏は言うや否や立ち上がると由香の頬を張り飛ばした。


「やっていいことと悪いことがあるだろ!!」


通常、手をあげることのない父であったが由香の虐めの話を聞いた剣幕はすさまじいものがあった。


「寄ってたかって、嫌がらせをすれば精神的に追い詰められることぐらいはわかるだろ!!」


雄太は自分の娘の行動に相当の怒りを感じたらしく大声を上げた。


「誤って済む問題じゃないぞ!!」


 宏はその剣幕にあわてたが、その後、雄太がなんとか自制したことでとりあえず家庭内の修羅場は一段落した。


「虐めの話はあとで考えよう、近いうちにに中島美紀ちゃんのお母さんに謝らないといけないだろうが……」


雄太がそう言うと宏がそれに答えた。


「この問題は明らかににしたほうがいいとおもうんだ……」


雄太は宏に顔を向けた。


「美紀ちゃんが事故で亡くなり、顧問の先生が死んだ……だけどこれで終わりじゃないと思う。」


 宏は夢の中で現れた少女が言った通り、夢魔の伝播がいまだ続いてると考えていた。だがその一方で『夢魔』の存在は一般には理解しがたいものがある。雄太は夢魔の話には関心を示さなかった。


「お前たちの言う夢魔という存在は正直いうと理解できない……ましてそれが他人に伝播して影響を与えるとは。精神的に追い詰められて、夢に影響がでるというのはわかるがな……」


雄太はエンジニアらしい意見を述べた。


「いずれにせよ、先生が自殺したとなると……普通では済まないだろう……」


 雄太は夢魔の話よりも宏が犯人として嫌疑をかけられたことの方が重要だと思っているらしく警察の動きを気にしていた。


「宏、とにかく今は静かにしていろ。警察の動きが読めん以上、下手な動きは禁物だ。」


雄太はそう言うと疲労困憊の表情で焼酎を一気に煽った。


宏は父の発言がもっともだと思ったが、夢魔という存在に気付いた者にはその言葉に意味はなかった。



26

翌日、宏が学校に行くとその玄関で副島洋子の話がされていた。


「うちの弟の中学校で教師が死んだんだって」


「マジで!!」


女子生徒の1人が興味津々の目を見せた。


「なんかさぁ、前に交通事故で死んだ生徒がいて……その生徒の入ってた部活の顧問らしいよ」


 小さな地方都市で人が死ぬという事態はそうそうあるものではない。副島洋子の死は宏の学校の生徒に一晩で伝わっていた。


「立て続けに人が死ぬなんて、呪いだよね!」


 話をしている女子生徒は実に愉しそうにしていた。当事者でないため自分の身に不幸が降りかかる危険はない。そのため、その口調はすこぶる明るい……


「うちの弟の音楽の先生らしいんだけど……マンションから飛び降りたらしいよ」


「ひょっとして、それ副島って言う人じゃない」


「そうそう、それそれ!!」


「でも、何で飛び降りたんだろうね?」


女子生徒の1人が勘ぐるような口調でいうと相手が答えた。


「やっぱり、禁断の愛的なやつじゃやないの、生徒に手を出しちゃったみたいな」


「そうかもね~」


2人の女子生徒が靴をはきかえながら無責任な噂話をしているとその後ろから声がかけられた。


「君たち、人の死をネタにするもんじゃない」


声の主は演劇部のマドンナ、響子であった。


「不遜な行為は自分の身にも不幸を呼び込むぞ」


 学園のマドンナはきつめの目で二人に睨みを利かすと颯爽とその場を去った。二人の女子生徒は一瞬不服そうな態度を取ったものの、響子の持つオーラに屈服すると、すごすごとその場を離れた。宏はその一部始終を目にしたが、響子の凛とした態度に震えるものを感じた。


『響子先輩、超かっこいい……』


宏はあまり『綺麗系』に興味がなく、どちらかというと『かわいい系』なのだが響子の見せた振る舞いにその意識が揺らいだ。


『やっぱり綺麗系もいいなぁ……』


そんなことを思った時である、後ろから肩を叩かれた。


「どないや、宏?」


声をかけてきたのは浩二であった。


「見たか、あのキレのある言動……響子先輩、最高やろ!!」


そう言った浩二の眼は『心ここに非ず』という言葉を体現していた。


「肌も白うて、きめがこまかい。顔もべっぴんやし……それに膝の形が最高やな!」


浩二がそう言うと宏は怪訝な表情を浮かべた。


「お前……ひょっとして」


「なんや?」


「膝フェチか?」


「えっ……」


まさかの宏のツッコミに浩二は目を点にしていた。


「しゃくれさん、膝フェチなのか?」


宏がそう言うと間髪入れずに浩二がつっこんだ。


「だれが、しゃくれじゃ!!」


 いつもの口調でそうは言ったものの浩二は膝フェチに関してはふれなかった。宏は浩二の思わぬ性癖を認識すると浩二に向けてニヤリと嗤った。


  


しゃがれた声により自殺した副島洋子も夢魔の『枝』にされていたことがわかります。ですが副島洋子が夢魔を伝播する『根』でないのなら、誰が夢魔の『根』となっているのでしょうか?

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