2-4 想いを力に
『いいか? よく聞けよ。『蝕』を彼女の体から追い出すには、強い霊力をぶつける必要がある』
「霊力? 」
『お前には後で説明するからちょっと待て』
『蝕』の動きが止まったのをこれ幸いと『彼』がまくし立てる。
『でだ、霊力をぶつけようにも澪は扱い方が分からんだろ? そこで小僧、お前の出番だ』
困った顔を見せる司。『蝕』は動きを止めたままこちらを見つめていた。
「……どうすれば? 」
『霊力を直接相手にぶつける。心当たりはあるだろう? 』
「でも、まだ不出来ですよ? 相手に止まってもらわないと…… 」
「それは私がやる」
きっぱりと言い切る澪、少し不安げな司の顔を見つめて静かに微笑む。
「大丈夫、タイミングは合わせるから」
「……わかった。じゃあ始めるよ」
司が右手を握ると、ぼんやりと白い光が拳を覆い始めた。『蝕』がそれに気づき触手を伸ばしたが、それらをことごとく澪が切り落としていく。
「アァァァァ、アアァァァァァ!! 」
「させないよ、百合はそんな簡単に人を傷つけない」
いよいよ形勢不利とみて攻撃を強める『蝕』。澪はそれらを剣で防ぎ、切り飛ばしながら歩を進める。
「ガアァッ!! 」
「っ!! 」
防ぎきれなかった触手の一本が澪の鎧を叩く。装甲の継ぎ目にヒットしたのか、澪が膝をついた。
「危ないっ! 一旦退いて…… 」
「続けて! ここで退いたらダメなんだ…… 」
司の制止を振り切って立ち上がる澪。何を思ったか剣を納めて敵の懐に飛び込んだ。
「グッ、」
「させないよ。これは百合の望んでることじゃない」
慌てて触手を振り上げようとするも、それらは全て澪に掴まれ動きを止められた。司の横に控えている『彼』もこれには驚いたのか、感嘆の声を漏らした。
『さ、やっちまえ』
「杉山、避けろ!! 」
寸手で体を捻り、司の拳を避ける澪。光をまとった拳は見事『蝕』に命中し、体にめり込んだ。
「ギャアアァァァァァァァァ!! 」
この世の物とは思えないような悲鳴を上げて、黒い塊が百合の体から離れていく。その場に取り残された百合は膝から崩れ落ちた。
「おっとと、なんとか無事のようですね…… 」
百合を抱えあげる司。澪はそのまま駆け出した。
「逃がさないよ…… そこっ! 」
さっきまで『蝕』であった黒い塊を捕まえる澪。必死に抵抗する塊を必死に押さえつけていた。
「このっ!…… 」
澪の両腕から『蝕』が逃げようとしたその時、急に塊の動きが止まり痙攣しはじめた。
「……よくやった。これは大手柄だな」
「黒川さん…… 」
よく見ると、『蝕』から伸びる影に小刀が突き刺さっている。どうやら黒川たちが間に合ったようだと二人は安堵した。
「隊長、被害は…… 」
「しいていうならこの玄関だけだな。ご苦労だった」
大きく息を吐き座り込む司、澪も肩を撫で下ろしたが、その瞬間に変身が解け、倒れ込んだ。
『2回目でここまで使いこなすか。流石は俺が見込んだだけはある』
今にも消え入りそうな『彼』が澪を誉める。対して黒川は真剣な目付きで『彼』を見つめた。
「あなたも英雄だというなら、名前だけでも教えてもらえないか? 」
『まだその時じゃない。いつかちゃんと語ってやるよ』
意味ありな笑みを浮かべながら消えゆく彼。黒川は虚空を静かににらんでいた。
「……黒川さん、動けません」
「霊力切れか。仕方ない、彼女のついでに回収班を呼んでおく」




