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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
3章.オルレアン村編3-ダメ男と村娘とネクロマンサーと-

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#6.ネクロマンサー捜査網


 その後、「ネクロマンサーとレイチェル失踪は何がしか関係があるのかもしれない」というポットの推測の元、対策が練られた。


 まず、『レイチェル失踪の暫定的な犯人としてポットを捕縛した』と大々的に村に広め、これによって何がしか油断したネクロマンサーが行動に移った所を狙う作戦が兵隊さんによって考案され、ポットもこれを了承。

一時的にポットは罪人扱いとなり牢に拘束されてしまうが、これによってネクロマンサーが墓の守りを手薄になったと思い込んで動いてくれれば、何がしか尻尾を掴めるかもしれないと、兵隊さんは説明した。


 それとは別に、サララが村の女性たちにレイチェル失踪について調査をする。

サララは女性陣から可愛がられているので、その辺り情報を引き出すのにはうってつけと思われた。


 その間、カオルはポットの父親であるハスターに話を通し、墓場の警戒と、村の中で怪しい動きをしている男を探す為、巡回する。

兵隊さんも時間が空き次第こちらに合流する予定だが、その上でサララが何がしか情報を得たら一度集まり、話し合う方向で決まった。




「やっぱりあいつがやったのね……」

「そんな事だろうと思ってたのよ。いつも女の子見る目が怪しかったし……」

「最低ね。レイチェル、どこに行ってしまったのかしら……ヘータイさんも甘すぎるわ。悠長に尋問なんてしてないで、拷問にでもかけてしまえばいいのに」



 聞き取りの為村の北側を訪れたサララであったが、もうすでにポット逮捕の噂は広まっているらしく、そこかしこでポットに対しての罵倒、それと巻き添えのように兵隊さんに対しての風評被害も始まっていた。

これに関してはサララも苦笑いしながら聞き流すしかないのだが、村の女性全員に話を聞くのも中々の骨なので、サララはある程度当たり(・・・)をつける必要があった。


(ううん……この辺りは違うみたい)


 慎重に耳を横にしながら、聞こえてくる噂話を聞き分けてゆく。

聴力に優れる猫獣人は、こういった人々の会話、噂話などの収集に非常に優れた能力を発揮する。

普段あまり役に立つことのないダメ猫は、こと情報収集能力に関しては、とても有能な猫娘となるのだ。


(んー……レイチェルさんの家の方行ってみようかな)


 ゆったりと歩きながら、なおも周囲から聞こえてくる声を頼りに、少しずつ感知する範囲を広めてゆく。



「――イチェル、大丈夫かな……もう殺されちゃってたり……」

「――い丈夫だよレミカ。いくら女に飢えてるあいつでも、殺すところまでは……」


 レイチェルの家に近づくにつれ、朝、詰め所の前で騒いでいた少女達の声が聞こえ始め、サララはぴん、と耳を立てた。


「私達が先に帰っちゃったりしなければ、レイチェルだってこんなことにならなかったのに……」

「きっと、占いしてもらった後、帰る途中に襲われたんだわ。一人になったところを狙うなんて、卑劣すぎる……っ」

「結局広場でもレイチェルの行方を知ってる人はいなかったし……どうしよう。レスタスお爺ちゃんになんて言ったら……」


 彼女たちなりに友人を心配していたらしく、サララがレイチェルの家に着くころには、俯いて瞳を曇らせる少女たちが見えていた。


「皆さん、その様子だと噂は聞けませんでしたか?」


 それそのものは事件の解決には関係なさそうだし、少女たちをスルーして他の場所で聞き取りをしてもよかったはずなのだが、サララはなんとなしに、「占いしてもらった後に一人で帰った」というフレーズが気になり、少女たちに話しかけた。

朝の会話のつながりから、あくまで「レイチェルさんの行方は解りましたか」と質問する方向で。


「あ……サララちゃん。ううん、レイチェルを見たっていう話は誰に聞いても……私達と遊んでたのは見てたとか、そういう話は聞いたんだけど」

「村中どこを探してもいないし……ポットを問い詰めるにも牢屋に入れられちゃって話すこともできないし、もうお手上げ……」

「私達、レスタスお爺ちゃんに『絶対レイチェルを見つけるから』って言ってきちゃったのに……どうしたらいいのか」


 涙ぐむ少女達に少々胸を痛めながら、サララは手前にいた少女の手を取る。


「私もレイチェルさんの事が気になりまして。カオル様と一緒になって何か手掛かりはないか探してる最中なんです。レイチェルさんがいなくなる前に、最後に会ったのはレミカさん達なんですよね?」

「うん……そうよ。一緒に広場の占い師さんに見てもらってたの。その、結婚相手の事とか、将来の事についてとか」

「すっごく混んでて……私たちが見てもらった時にはもう暗くなってたから、最期の……レイチェルの番になった時に、『無理せずに明日また来よう』って言ったんだけど」

「レイチェル、『それだとまた並ぶ事になるから』って、無理に見てもらって……私達、家の人が心配するからって先に帰っちゃったの」


 なんとなく、レイチェルが失踪した経緯、というものが掘り下げられてきたように感じて、サララは胸の内で話を注意深くまとめてゆく。

見た目上、少女たちの話を親身に聞くようにふるまいながら。


「その、占い師さんに診てもらう時とかに、何か変わった事とかは? 体格のいい男の人に絡まれたとか……」

「そういう事はなかったけど……」

「ねえレミカ、あの話はしたっけ?」

「あの話? ああ、あの冗談ね……」


 レミカと呼ばれた大きなリボンの少女が、他の少女に話を振られ、思い出すように口元に指を当てる。

サララも気になり、じ、とレミカを見つめた。


「あの話、というのは?」

「並んでた時に、冗談で話してたのよ。『こういう広場に集まる商人の中には詐欺師とか、偽商人とかが混じってるから』って。その偽者を見抜く方法みたいなのを、レイチェルが教えてくれてね。『商人ギルドの許可証は持ってますよね?』って聞くだけなんだけど」

「『誰か試しに占い師さんにやってみない?』って、冗談で言い合ってたの。ただの、並んでる間の退屈しのぎよ」

「なるほど……それで、どなたか試されたんです?」

「ううん、私達は試してないよ。レイチェルは解んないけど……」


 どうせただの冗談だったし、と、レミカは深くため息をつく。

そんな楽しいひと時が、一夜にして一変してしまっていたのだ。

レイチェルを一人にしてしまったという後悔もあったのだろう。

ポットに対する罵倒やなんかは行き過ぎている部分もあったが、サララも「それだけ大切なお友達だったんですね」と、焦る彼女たちの心境と状況を理解する事が出来た。





 占い師に関しての話が上がったから、という事で、サララは少女達と別れた後、(くだん)の占い師に話を聞いてみようと広場へと足を向けた。

昼下がりであったが、行商の数はいくらか減り、広場を訪れる客の数も大分空いてきていた。

必要な物を最初の数日で買ってしまえば、後はもう同じ店には用がなくなるのも無理はなく、この辺りは不自然でもなんでもないのだが。


(あれ……? 今日は出てないんですね)


 いつも占い師が店を出していた広場の隅っこは、占いに使われていた台が置かれてはいたものの、肝心の店主が不在らしく、連日の行列も今日は見られなくなっていた。

なんとなく気になり、隣に店を出していた若いアクセサリー商人に話しかける。


「すみません、隣の占い屋さん、今日は出てないんです?」

「ああ、その人な。なんか『今日は忙しいから』って、テントに引っ込んじまってたな。夕べも戻るの遅かったから、飲み過ぎたか何かしたんじゃねぇかい?」


 無精ひげのやんちゃな感じの青年であったが、ぶっきらぼうに置かれた台を指さしながら、細かく教えてくれていた。

商人は、美少女には優しいのだ。


「ありがとうお兄さん。この髪飾り可愛いですね。今度いい人連れて見に来ますね」

「おう。そん時ゃ頼むぜ」


 気の良いお兄さん、といった印象を抱き、サララはにっこりと微笑みながら店を後にした。



(……酒場か何かで飲んでたのかしら? という事は宿屋……?)


 なんとなくが重なり、今度は占い師の動向が気になってきたサララ。

村で唯一の宿屋へと向かうのだが、その途中でピン、と耳が立った。


「――どこに行きやがったんだあの馬鹿野郎! 今日で三日目だぞ!!」

「落ち着けって兄貴、ガウロの奴、きっとどっかで女でもひっかけて――」

物見遊山(ものみゆさん)や女を買いに来たんじゃないんだぞ! 俺達ゃ商人だ、商人が昼間に商売をせずにどうするってんだ!!」

「だから落ち着けよ兄貴……こんな往来で騒いだって仕方ねーだろうが」


 聞こえてきたのは、真昼間にもかかわらず大声で話す男と、それをなんとか(なだ)めようとする男の二人の声であった。

サララが声を頼りに歩いてゆくと、丁度占い師の店の逆側、これもやはり広場の端の方に店を構える、乾物(かんぶつ)商人の店が見えた。


「全くよぉ、売るだけ売りさばいたら、今度はこの村で街に持っていく商品を買い込まなきゃいけないんだぞ? 人手がたくさんいるってのに、あの馬鹿……」

「こればっかはしょうがねぇよ。あいつ、前の街でも若い女ひっかけて二日くらい戻らなかっただろ? 『あんまり女のほう(・・)が良かったからつい』とか言ってよ」

「ったく……あんなのでも、荷物運びと目利きだけ(・・)はできるから性質(・・)が悪いぜ。それができなきゃすぐにでもクビにしてやるのに!!」


 どうやら二人して、どこぞへと姿を消した仲間の事について話しているらしいが、サララは目をそっと細め、注意深く周囲を窺ってから、そっと二人の元へ寄っていく。


「あの」

「あ、へい、らっしゃい」

「いい乾物揃ってるよ。港町レイベのニルニルイワシの干し物、砂漠の街クランスターの名産オオカミウシの干し肉! それに王都近くの森で獲れたカライワ草のドライもありますぜ! どれも最高品質の品です! お勧めですぜ!」

「おお、カライワ草の干したのは珍しいですね……っと、それはいいとして、さっき、どなたか、人が来ないとか聞こえましたが」

「ああ! 気にしないでくださいよお客さん。うちの馬鹿が一人、ちょっと行方知れずになってやしてね」

「なんたって女好きな奴だから、そこらへんで女でも引っ掛けてよろしくやってるんだろうってだけで……あ、カライワ草、二つも買っていただけるんで、毎度!」

「ありがとうございます。その人って、すごく体格がいい人? いえ、私もそれっぽい人をどこかで見かけた気がしましてね。友達と一緒に歩いてたんですけど。目利きができるって事は、このカライワ草もその人が?」

「ああ、そういう……確かに、あいつはかなりがたいが良い方だから……」

「ちくしょう、やっぱそういう事だったかあの馬鹿野郎。馬車の中で占い師の子に色々ひどい事してやがったから強く言って聞かせたんですがね……いや、申し訳ねぇ。確かに、商品の仕入れはガウロの奴が担当してたから、このカライワ草も奴が仕入れたものですよ。品質は保証しやす」

「なるほどなるほど……色々教えてくださってありがとうございました。それじゃ」


 愛想よく袋に入れられたカライワ草を受け取り、店を後にするサララ。

お小遣いの大半を使い果たしたが、それに足る情報が手に入ったので、満足げであった。


(お金はなくなっちゃったけど……後で経費として請求すればいいとしましょう。早くカオル様のところに行かないと)


 大切な人に褒めてもらえるのが楽しみで仕方ないとばかりに、サララは機嫌よくぴょんぴょんスキップしながらカオルの待つ墓地へと向かっていった。


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