第九十一姉 番外編『昔と今の月光剣さん』
累計1000ポイントとなりました!ありがとうございます!
これもひとえにブクマしてくださった方、評価してくださった方、感想をくださった方、レビューをしてくださった方、読んでくださった方みなさまの暖かい声援のおかげでございます。
本作は「姉がメインかつオンリーヒロイン」というエロ漫画くらいでしか見ない構成です(笑)
しかし、『姉=エロ要員』、『姉=サブヒロイン』という風評被害をぶっ壊し、姉の良さを多くの方に知ってもらう為に今後も頑張っていきたいと思います!
というわけで1000ポイント記念として、本編に全く関係ない番外編シリーズです。
シリアスっぽいですがオチはあります。ギャグもいちゃいちゃもありませんけどね!
この大陸には精霊の祝福が込められた様々な魔法剣、いわゆる魔剣が存在する。
その中で最も有名なのは2組の月・火・水・木・金・土・日の名を冠する【終末の魔剣】と呼ばれる、14本の魔剣である。
大戦時に大いにその力を発揮したその魔剣の一振り、月光剣についての話をしよう。
大戦以前、魔剣の数は少なかった。
魔剣と呼べるほどの剣を製造することはできず、入手方法は専ら危険なダンジョンに潜るしかなかったからだ。
では、なぜ大戦時に魔剣の数が増えたのか。
それには、一人のエルフが関わってくる。
大戦最初期は各種族がバラバラに戦い、敗戦が続いた。
そしてついに大陸初の4種族連合戦線が成立した。
が、その中でもエルフの立ち位置は特殊だった。
ミスリルや簡単な魔法具などは提供したが、人員はほとんど送らなかった。
建前上の理由は『エルフは個体数が少ないから』だったが、実際は違った。
本当の理由は『森から出て戦うとかめんどくさい』『まだ200年ぽっちしか生きていないのに死にたくない』だった。
確かにエルフは数が少なかったし、魔法以外は非力で体力もない。
数多くのミスリルやポーションの製造方法だけでも助かることには変わりないのだ。
仕方なく、他の種族たちはそれでよしとした。
だが、それをよしとしない人物がいた。
当時の冒険者ギルドで唯一のエルフのA級冒険者、ノエル・エルメリアその人だった。
彼女はエルフ族の話を聞き、エルフの余りの身勝手さに怒り狂った。
そして、ギルドの有力なメンバーが揃う会議の際に、こう発言した。
「クソエルフどものなめた行動を許せねぇと思う有志は私の元に集え。征くぞ。」と。
このとき、ノエルは『有志』といった。これは『エルフに文句があるやつは来い』というだけの意味だった。
だが、この場で話を聞いた冒険者たちは『勇士』、つまり強大なエルフにケンカをふっかけるバカな戦士は自分について来いという意味に誤解した。
それに心を奮わせたバカなA級冒険者が4人、B級冒険者が12人集まった。
そして、ノエルを筆頭に17人でエルフの隠れ里へと向かったのだった。
本来、エルフの隠れ里は二重に守られている。
一つ目は結界。魔法で物理的に守っているもの。これは突破しようと思えば突破できるのだ
問題は二つ目の『エルフの詩』だった。
これは人の意識に働きかけるもので防ぐ方法がほぼない。
わかりやすく言うと、道が左右に分かれており、どちらに行こうかとなった場合。
エルフの詩が『右にいかないほうがいいよ』という意味を発すると、100人中100人が無意識に左を進んでしまうというものだ。
これは攻撃力はないが、草木の揺れ音や風の音と区別がつかないためほぼ確実に攻撃を喰らってしまうと同時に、攻撃を喰らったことに気づかないというエルフ専用の恐ろしい超魔法だった。
だが、こちらにはノエルがいた。
結界をすり抜け、エルフの詩をたった一人で無効化し、冒険者17人はエルフの隠れ里へ突撃した。
隠れ里がパニックになる中、ノエルたちは宝物庫に入り、なんと総計50本もの魔剣を強奪していった。
そしてエルフの長老たちの前に顔を出し一言。
「同盟国の援助に感謝する!」
それだけを言い残し、風のように去っていった。
もちろん、この後ノエルはエルフの里を出禁になったのは言うまでもない。
だが、これはエルフにとって悪い結果にはならなかった。
奪った50本もの魔剣のうち18本(ノエルが2本)はノエルたちで分け、残りの32本をエルフの里からの提供という形で各国に配布された。
それにより各国は『これだけの数の魔剣を提供するとは、エルフも援助を惜しんでいない』と同時に『エルフ恐るべし、敵に回すべきではない』という印象を与えた。
話は変わるが、14魔剣の『月光剣』と『鮮血の月』は魔剣の中でも特殊だった。
『月光剣』は一見すると、ただの剣の柄にしか見えない。
だが、所有者の魔法力によって光り輝く刃が具現化され切れ味や形状が変わり、魔法量によってその威力と形状を維持するという変わったものだった。
『鮮血の月』はじっと見つめると発狂しそうなほど真っ赤な色をした短剣だ。
この短剣で切られると血の代わりに魔力が流れだし、所有者の体内に吸収されるという物騒なものだった。
二本とも、普通に使えば微妙な魔剣だった。
『月光剣』は下手に扱うとすぐに魔法量が切れて使い物にならなくなる。
『鮮血の月』はその特性上魔法使いには最高の相性を誇るが、短剣ゆえ敵に触れられる位置までいかなければいけない上、切っても相手を殺すことはできないため、熟練した接近戦の腕を持たなければ使い物にならなかった。
だが、その微妙な魔剣を使いこなした化け物がいた。
ノエルはこの『月光剣』と『鮮血の月』の二本を携え、戦場を駆け抜けた。
魔法で群がる雑魚どもを薙ぎ払い、『月光剣』で強大な魔物を一刀の元に切り捨て、『鮮血の月』で魔力を吸収し、また敵陣へ突撃する。
それはまるで、白と赤の精霊が織り成す、美しくも暴力的なダンスのようだったと言われている。
ノエルはそもそも接近戦は苦手だった。しかし、アルゼン荒野の闘いで未熟を恥し、初めて出来た友人たちに頭を下げて死に物狂いで剣を習った。
その結果、ノエルは大陸有数の火魔法の使い手であると同時に、一流の剣士としても名を馳せることになった。
そして、ノエルだけでなく、魔剣所有者たちは戦場を駆け巡り、大戦を勝利に導いた。
だが、この大戦で魔剣の大半は破壊・行方不明となった。
そして、『月光剣』は・・・
トントントントン・・・
「エルエル~、今日のご飯な~に~?」
「ん~?今日はお前たちがこの前作っていたミソシルというのを作ってみたぞ。」
「OHーYeah-!みそすーぷ!ネギィとトゥーフ入ってる!?」
「もちろん。ワカネも入ってるぞ。」
「エルエル素敵!抱いて!っていうか、なにその包丁。めっちゃ光ってるけど。」
「これか?ふふふふ~これはな、切れ味抜群だし、研ぐ必要もないし、小魚からドラゴンまで捌ける私自慢の・・・」
そこには、今日も元気にリズム良くねぎを切る、光り輝く包丁の姿があったとさ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
私は「魔王を倒した勇者はお姫様と結婚し、王様になりました」みたいな英雄譚より「魔王を倒した勇者は田舎に帰り幼馴染と結婚し、小さなパン屋を開いて慎ましくも幸せに暮らしましたとさ」みたいなほうが好きです。
月光剣さんは百万の魔物を斬り殺す昔の生活より、野菜を切りながら平和な笑い声を聞いている今の生活の方がお気に入りな、素敵な英雄魔剣さんです。
擬人化したらきっと長身のクールビューティーなことでしょう。しませんけどね(笑)




