第八十三姉「私を倒す為に全力を尽くすその意気やよし!ならば私も本気を出すときがきたようね!?」
感想いただきました。
同じコメディを書いている作家さんから感想をいただくとは思ってもいませんでしたので、ビックリしたと同時にすごく嬉しかったです!
みんな姉好きにな~れ☆
そんな会話をして、さぁ次はさきねぇの番というところで、周囲からザワザワとした気配が伝わってきた。
ふふふふ、勝ったな!
「そして最後にムラサキ選手ですが・・・あれは一体なんなんでしょうか?わかりますか、解説のヒイロさん。」
さきねぇはホットドッグを半分に割ってから、その割ったものを2つ同時に口の中に押し込み、最後にパンを食べるという方法をとっていた。
普通に生きてたらあんなの見る機会ないよな。
「あれは遥か東方に伝わると言う『ソロモンメソッド』という伝説の食べ方ですね。まさか実践する人間がいるとは・・・」
「そ、そんなものが存在したんですか!?あの人、何者なんですか?」
「俺の姉です。」
「・・・知ってます。」
クククククククク・・・あーはっはっはっはっは!
アレがあるからこそ、この勝負を『ホットドッグの』大食い対決に持ち込んだんだよ!この俺がな!
普段は真面目で誰にでも礼儀正しく優しい緋色君で通っているが、みんな忘れていたようだな。
この俺が姉弟党の過激派、絶対姉原理主義者だということを!
さきねぇは適当に大食い対決を提案したが、王を勝たせるために全力を尽くすのが軍師の役目。
審判とグルっていうのは一番恐ろしいトラップの一つだよね。
正々堂々?知るか!勝てばよいのだ!勝利を我が君に捧げるのだ!
「し、しかしすごい速度ですね。まだ5分くらいしか経ってないのにもう10本も・・・」
「他の選手の倍くらい早いですね・・・(なんなのあの女怖い)」
カチュアさんもマリーシアさんも呆気にとられている。
他の選手もギョっとした顔でさきねぇを見て、速度をあげている。
甘いよ、その程度で我が策は破れんYO!
あと3分くらいか。勝ったな。
そう思った時だった。
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォン!」
ヴォルフさんが吼えたかと思うと、体が一回り大きくなった。
は?え、なに?月見ちゃったの?
「に、兄さん!?こんな大勢の前で『獣化』するなんて、何を考えているんですか!?」
「・・・カツ!ソレダケダ!!」
でかくなったヴォルフさんがさらに食べる速度を早める。
ただ、まわりの観客たちはヴォルフさんの姿を見て、ザワザワと不安そうにしている。
・・・まずいな。
俺は『変身とかちょうかっけー!サインください!』としか思わないが、他の人間はそうじゃないらしい。
「はっはっはっはっはっはっは!やるわね!さすが我が敵よ!」
さきねぇの笑い声が聞こえる。
「私を倒す為に全力を尽くすその意気やよし!ならば私も本気を出すときがきたようね!?」
な、何をする気だ?
さきねぇはすぅぅぅっと息を吸い込むと。
ボワァァァァァァァァァァァァァ!
口から炎を吐き出した!
俺を含め、その場にいた全ての人間の目が点になる。
「なっはっはっは!紫流奥義!『青眼白龍炎』!人間が火を吹けんだから、獣人が大きくなろうが大したことじゃないわ!さぁ、この日輪の輝きを恐れぬならかかってこい!」
言い終わると、またホットドッグを食べる作業に戻るさきねぇ。
すると。
「ム、ムラサキさんすげぇ!さすがアルゼンの星!マジパネェっす!」「ムラサキお姉さまー!素敵ー!抱いてー!むしろ焼いてー!」「ムラサキさーん!頑張ってくださーい!」
あれはスレイたちの声だな。
『た、たしかに火を吹くことに比べたら、体がおっきくなっても問題ないよな?』
『別に俺達を食おうとしてるわけじゃないしな?』
『よく見ると、けっこうかっこよくない?』
・・・一瞬で観客達の心の風向きが変わった。さすがさきねぇ。
弟以外の人には基本無関心なさきねぇがヴォルフさんをかばうとは。
よほどあのシスコンを気に入ったらしい。
観客達も今は『がんばれー!』と選手全員を応援している。
「さて、これでどうなるかわからなくなってきたな・・・」
現在トップ独走中のさきねぇと『獣化』?して体も食べる速度もパワーアップしたヴォルフさん。
他の三人は正直問題外だ。普通に考えれば十分すごいんだけどね。
「「うっ!」」
ん?さきねぇの動きが止まったぞ?顔が真っ青になってプルプルしてる。
よく見ると、ヴォルフさんも同じ状態で止まっている。
まさか・・・!?
「わぁぁぁぁぁぁぁ!待った待った待った待った!≪水箱≫!かける2!」
二人が水で出来た小部屋の中に閉じ込められる。
そして。
二人同時に、盛大にリバースしたのだった。
「えー、優勝は、エントリーナンバー2番のネルトコ・ネーネさんー!優勝者には商工会に参加しているお店で一ヶ月無料で食べられる食事券になりまーす!」パチパチパチパチパチパチ!
結局、優勝候補が同時にリバースしたため、残った三人が頑張ったようだ。
なんとか無事に大会を閉会できてよかった。
俺達四人は隅っこのほうで閉会式を眺めていた。
さきねぇとヴォルフさんの二人は俺の≪聖杯水≫を飲んで体調を整えている。
「この、≪聖杯水≫?だっけか。すげーな。もう気持ち悪いのがなくなってきたぞ。」
「ふん、当然よ。ヒロのハイパー魔法だからね!・・・ごめん、もう一杯ちょうだい。」
「あいよー。」
俺の≪水箱≫のおかげで、さきねぇとヴォルフさんのリバースシーンがモザイク状態だったことは幸いだった。
あれだけの人数だ、あの場でリバースしたら二次災害がやばかっただろう。
ちなみに≪水箱≫はさきねぇの野外でのトイレ用に新規開発した俺の固有魔法だ。
一畳ほどの大きさの小部屋で、濁らせているため外からはあまり見えず、音や匂いも外に漏れないように創造している。
使い終わったらクシャっと圧縮したあと、そこらへんの草むらとか川の中で解放するだけ。実に簡単。
部屋の中も水で洋式便器の形を再現しているため、使い勝手は抜群だ。
水なので便座がちょっと冷たいのが珠に瑕だけどね。便座カバーは必須。
似たような魔法はけっこうあるだろうが、ここまで徹底しているトイレ魔法の使い手はこの広い世界でも俺のみだと自負している。
どうでもいいなこの話。
「それで、勝負はどうするんですか?」
「う~ん、もうじゃんけんでよくね?」
カチュアさんの言葉にとんでもない返事をするさきねぇ。
もう飽きたのか・・・。
「ほれ、ぼるきち。じゃんけんすっぞ。」
「・・・は?え、なに、いまの俺のこと!?」
突然『ぼるきち』呼ばわりされたヴォルフさんはびっくりしている。
まぁ生まれて始めての呼び名だろうからな~。
「はい、最初はグー!じゃんけん!」
「ぽん!」「ぽ、ぽん!」
さきねぇ→パー
ヴォルフさん→グー
「はいあたしの勝ちー!」
「バッおま、ずりーだろそれ!三本勝負だ!」
「はい無理ー。勝負は一回きりって決まってんのよ。あんた、真剣勝負で殺されてから『今のは卑怯だ!もう一回戦え!』とか首なしで言うの?デュラなの?」
「おまえ・・・!」
めんどくさいなーもう。
俺はカチュアさんに耳打ちする。
ふんふんと話を聞き、頷いてくれる。
そして。
「「これ以上ケンカするなら一日口聞かない。」」
「「ちょう仲良し!」」
肩を組むさきねぇとヴォルフさん。
シスコンとブラコンって奥が深いけど、単純だよね。
「さて、せっかくだし、屋台でも回って珍しい食べ物でもゲッツしましょうか!」
「・・・そうだね。」「・・・そうだな。」「・・・そうですね。」
三人でハモり、顔を見合わせる。
「「「・・・あははははははははは!」」」
「ちょっと、ずるいわよ!私も仲間にいれなさいよ!イジメ、かっこ悪い!」
そんな感じで四人で屋台を回るのだった。
ところ変わって、アルゼンの町外れ。
「あのムラサキとかいう女・・・実はE級だと?このC級冒険者のロドリゲス様をバカにしやがって!強引にでも俺の女にしてやる!」
「・・・・・・誰が、誰をどうするって?」
「あ?うるせぇなガキ!失せろ!」
「お前が失せろ。あの二人の前から、永遠にな・・・!」
この日、街中に突然巨大な火柱があがったという報告があり警備兵が駆けつけたが、焼け跡以外に何も見つかることはなかった。
次の日、体中の毛という毛を焼かれた全裸のツルピカハゲマルくんが木に吊るされていた。
よほど怖い目に遭ったのか、男は全ての記憶を失っていた。
その後、男は孤児院に引き取られ、老人の話し相手や子供たちの遊び相手としてアルゼンに溶け込み、ささやかながらも幸せな人生を送ったそうだ。
その男の腹には『ツギハコロス』と読めるような火傷の痕があり、この話はアルゼンの怪談『もやしちゃうお化け』として後世に名を残すことになったとさ。
めでたくもあり、めでたくもなし。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
これにて第八章の終了です。
ノエルさんが表にでなかった理由は最後のアレです。義妹と義弟を溺愛してる彼女が、危険人物を放置するはずがないですからね。
『獣化』は全能力が一定時間強化される変身で、一部の獣人しか使えない奥の手です。使用中は完全に『二足歩行する獣』の姿になり、思考が単純化し暴走する恐れがあります。また、使用後は全能力が弱体化してしまう諸刃の剣でもあります。
さきねぇの炎は火魔法でスーパーヨガフレイムを再現しただけで、獄炎袋があるわけではありません(笑)
次回は番外編『さきねぇと散歩』です。
ただ散歩するだけの話です!




