第三十一姉 「はっはっは!褒めるな褒めるな!もっと褒めろ!」
物語紹介のあらすじを少し変更しました。
漫画好きの友人に見せたら「あらすじ見てもどんな内容か全くわかんないんだけど。そもそもいちゃラブって何?」と言われてしまったもので・・・。
そもそもいちゃラブっていうのは(ry
「お前ら全員手を上げろ!手の角度は45度だ!今度はわかりやすいだろう!」
「そういう問題じゃねぇよ!?」「意味がわからん!?」
たった十数秒で、しかも三人しかいない店内をこれほどのカオス状態に持ち込むとは・・・やはり、天才か。
「いやー、40度がわかんなかったのかと思ってさ。なら45度だったらわかりやすいかなって!」
「あの静寂は40度がわからなかったんじゃなくて、さきねぇの全てがわかんなかっただけだよ・・・」
「・・・お前の姉は、いつもこうなのか?」
気の毒に、といった顔で同情される。
「いや、その、いつもこうですけど、でも、いいところもいっぱいあるんですよ?尊敬できる自慢の姉ですよ?」
「武器屋としては、無一文で買う気もないくせに店の売り物を勝手にいじる、やっかいな客だけどな・・・」
アルゴスさんがチラッと横を見たので、釣られて俺も視線をやる。
そこには勝手に店の品物の剣を持ち出し、鏡の前でアーサー王立ちをしているお姉さまの姿があった。
まるで魔王城を前に、魔王との決戦に思いを馳せる勇者のようだ。
ちなみに『アーサー王立ち』とは仁王立ちをしつつ剣を地面に刺し、柄の先端に手のひらを置き、遠くを見つめるポーズのことだ。
わからなければ、かっこいいポーズをとっていると思っていただきたい。
「何気に店内に置いてある一番良い剣を持ち出してるあたり、目利きはいいんだろうが・・・あれでも、『尊敬できる自慢の姉』なのか?」
「もちろんです!さすが俺のさきねぇですよ!芸術ですよゲージュツ!」
姉を褒め称える弟の声が聞こえたのか、こちらを振り返り、『キリッ!』と自分で口に出している。
ハンマーもいいけど、剣を持ったさきねぇもかっこかわいいな!
何を持とうとも、さきねぇはかっこかわいいんだがね!
「はぁ・・・この姉だからこの弟になるのか、この弟だからこの姉になるのかわからんが、お前ら姉弟の仲がいいのだけは理解できた。それ以外はさっぱり理解できないが。」
さきねぇの良さを理解できないとは・・・ダメなドワーフだぜ。
いつか姉の素晴らしさを力説しようと心の中で強く誓う俺だった。
「で、今日はどうした。ノエル様はいらっしゃらないのか?」
その一言で、俺たちが何をしにきたか思い出す。
あまりのカオスっぷりに忘れるところだったぜ。
「あーえっと、今日は二人できたんですよ。ノエルさんからこれをアルゴスさんに渡して欲しいとお願いされまして。」
「なるほど、それでそんないいもん装備してるわけか。」
「え、やっぱわかります?」
コートを着てでかいハンマーをかついでいる女と、同じくコートを着てバットをぶら下げている男。
日本なら職質確定だろうな。
アルゴスさんは俺たちに近づき、装備をじっくり見ている。
『このローブはやはりアレか・・・』だの『これはもしや大森林の賢樹を使った・・・』だのつぶやいている。
「あのー、とりあえずこれ渡したいんですけど・・・」
「あ、ああ、すまんな。まさかこの街でこれほどのものを見ることができるとはな。さすがノエル様だ。」
やっぱこのコート、いいやつなんだな。ノエルさんに感謝感激雨あられってやつだ。
アルゴスさんが木箱を受け取り、中を確認する。
どうやら手紙が入っているようだ。
ふんふんいいながら目を通すアルゴスさん。
なんか、困惑の表情だけど、何が書いてあったんだ?
さきねぇも大概だが、ノエルさんもノエルさんでけっこう無茶する人だからな。
「・・・お前たちにこう伝えてほしいと書いてあったので、伝えるぞ?」
「・・・はぁ。」
どゆこと?
とりあえずまだアーサー王立ちして自分の世界に浸っているさきねぇを呼ぶ。
「んん。言うぞ。『二人が望むなら、今日、魔法適正検査を受けるか?』だと。」
「「・・・マジかーーー!?」」
「ああ、マジだぞ。」
急に後ろから声がかかる。
そこには異世界が誇る美少幼女、ノエルさんの姿が!
「ノエルさん!?いつからそこに!?」
「ずっとだよ。」
「ずっとっていつからずっとよ?」
「だから、ずっとだ。家を出てからここまでずっと、二人の数十メートル後ろから付いてきていたのさ。」
・・・あ!もしかして、草原でさきねぇが感じた気配って!
姉と視線が交わる。
「もしかして、あれってエルエルだったの?一瞬だけしか感じなかったわ!すげーなエルエルすげー!」
「これでも現役のS級冒険者でね。ひよっこどもに見つかるようなへまはしないさ。」
「さすがノエルさん!ボキャブラリーが少なくて申し訳ないですけど、すごいとしか言えないっすよ!」
「はっはっは!褒めるな褒めるな!もっと褒めろ!」
「「どっちやねん。」」
「はははは!(むしろすごいのはお前たちだよ・・・S級冒険者であるこの私が、とっておきの『絶影のローブ』までまとっていたんだぞ?ヒイロが攻撃を受けて動揺したとはいえ、相手がA級冒険者でも気づかれない自信があったんだがな・・・恐ろしいほどの才能だ・・・)」
しかしサプライズだったな。
お茶目な人だ。
・・・もしかして、今日のおつかいは試験だったんじゃないだろうか?
魔物への対処とか街での振舞い、対応まで含めた。さすがに考えすぎか。
俺、ダンゴムシから体当たり食らって転んでるしな・・・あれも見られてたのか。
恥ずかしい!
「ただ、言っておくが、適正がなければ魔法は使えない。こればっかりは私でもどうしようもないからな?それだけは覚悟しておくように!」
「「はーい!」」
二人一緒に手を上げる。
ついに長く険しい魔法使い坂を登り始めるのか。
頑張るでよ!
これでもし『魔法の才能ないです』って言われたら泣くけど。
一生この街でグミー退治して過ごしてやる。
「よし、では、いくか!」
「「おおぉぉぉ!」」
「邪魔したな、アルゴスよ。ではな!」
「はっ。いつでもお越しください!」
俺たちはぎゃーぎゃー騒ぎながら、三人仲良く店を出る。
「・・・嵐のような連中だな。しかし、ああして見ると、どこにでもいる仲の良い家族のようだ。ここ十数年、ノエル様のお話をとんと聞かなくなったが、ノエル様が幸せそうでよかった・・・」
そんなつぶやきがぽつりと漏れた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ついに小説家になろうっぽいチート的な会話がでました。
ファンタジーっぽくなってきましたね!(?)
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。




