第二十九姉 「来い、魔物ども!俺の剣の錆にしてくれりゅ!」
街までのおつかいに姉弟でいくことがデートになるなら、世の中デートしてるやつらだらけになるが、気にしない。
これがいつもどおりの俺たち。平常運転だ。
森はノエルさんの結界があるため魔物はでてこない。
つまり危険は森を抜けた後、草原を歩く30分間ということだ。
といっても、出てくるのはグミーやホーンラビット、ブルーいもむし、レッドだんごむしくらいのものだ。
ブルーいもむしとは旅行かばんくらいの大きさの青いいもむしで、レッドだんごむしはサッカーボール大の赤いだんごむしだ。
キモいことこの上ない。
強くはないが、できれば会いたくないものだ。
「ふふふふーん、ふふふふーん、ふふふふん、ふふふふん、ふふふふん、ふふふふん!ぱっぱーっぱーぱぱっぱっぱっぱ~♪」
さきねぇはご機嫌だ。
なぜか結婚式で使われるあの音を口ずさんでいる。
まぁ最近二人っきりになることなんてなかったしな。
なんだかとても久しぶりな気がする。
「なんだか、二人きりってのも久しぶりねー。」
「あ、やっぱ?俺も今そう思ってた。」
「だいたいエルエルがいるもんね。あいつ寂しがりやだからなー。」
「まぁそのおかげで今のまったりライフがあるんだし。感謝感謝だよ。」
「ま、それもそうね。」
木々の隙間から優しい光が差し込み、どこからか鳥たちのさえずりが聞こえる。
とても穏やかな時間だ。
何気ない日常こそ、最高の瞬間であると断言できる。
もちろん、俺の日常とは隣に姉のいる時間だ。
俺のために、こんなよくわからない世界まで助けに来てくれた姉さん。
一生かかってもこの恩は返しきれないだろう。
なら、俺に出来ることはひとつ。
姉さんの願いを聞き入れることだけだ。
姉さんが望むのであれば、どんなことでもしよう。
私は、貴女に、永遠の愛と忠誠を誓います。
「ん?どったの、じっと見つめて。あ、はは~ん、わかった。お姉ちゃんに見惚れてたな~?」
「・・・まぁ、そんなとこ。」
「罪なお姉ちゃんね、私ったら~♪」
そう言って笑うさきねぇ。
このまま、時が止まってしまえばいいのに。
姉にそんな感情を抱く人間なんて、俺以外に存在するんだろうか?
まぁさきねぇが姉だったら誰でもそうなるよな、きっと。絶対。
『時よ止まれ、お前は美しい』か。
俺の場合は『時よ止まれ、あなたたちはとても美しい。』ってところかな。
姉さんも、姉さんと過ごすこの瞬間も、とても美しく尊いものだから。
「・・・ぷっ!ぶぁわっはっはっは!」
「え!?なに!?なんで大爆笑!?」
「いやー、ヒロがなんか乙女チックなこと考えてる顔してたからさ。『このまま時が止まればいいのに!』みたいな!?」
「な!?べべべ、べつに思ってねーし!自意識過剰じゃないですか!?その歳で痴呆症ですか弟困ります!」
くっそ・・・顔が赤い。
顔赤は俺じゃなくてノエルさんの専売特許なはずだ・・・!
「ほ、ほら!もう森抜けるよ!魔物がでてくるんだから探査回路を全開にしなさい!」
「くっくっく・・・了解であります隊長どの!気配察知に全力を尽くすであります!」
二人で草原を歩いていく。
もちろん、手は繋いでいる。
手を繋いだまま戦えるアーツでも身に着けたほうがよさそうだな。
出てくる魔物は雑魚とはいえ、油断は禁物だ。
特に俺はさきねぇより身体能力強化が劣ってるみたいだから、なおさらだ。
む、むこうにホーンラビットを2匹発見!ワレ、ハッケンセリ!
「さきねぇ、前方にホーンラビット2匹!」
「きゃー、ヒロ、私こわーい!」
「・・・俺に任せて、さきねぇ!さきねぇは、俺が守るから!」
「ヒロ・・・!きゅん!」
きっと他人が見聞きしたら『うっぜー!爆発しろ!』とか思うんだろうな。
でもこれ、やってるほうはけっこう楽しいんだよね、実は。
ちなみにさきねぇの最後の『きゅん!』は胸が高まった効果音だ。
二次元猫の言うところのムネキュンだ。
「来い、魔物ども!俺の剣の錆にしてくれりゅ!」
「・・・ぷ、ぶはっ!あっはっはははは、噛んでる!めっちゃ噛んでるよー!助けて!誰か助けてー!うちの弟が私を笑い殺そうとしてきますー!うわっはっはっは!」
「う、うるさいな!ちょっと下がってろ!」
まさか噛むとは。
初月緋色、一生の不覚。
これもホーンラビットのせいだ!食らえ正義の鉄槌!
ゴルフのスイングのように下からすくいあげる!
パカーン!
ホーンラビットはいい音を立てて空を吹っ飛んでいった。
え、飛びすぎじゃない?
俺は空を飛んでいるホーンラビットを見送る。敬礼!
「ラスいちもーらい!」
そんな掛け声と同時に、真横からドガァァァァン!という爆発音と衝撃が発生する。
すぐ横を見ると、地面にめり込んだハンマーが・・・
戦闘中によそ見してた俺が悪いんだけど、心臓に悪いです。
さきねぇがハンマーを持ち上げると、何かがキラキラと輝いて消えた。
「あ、いっけない。魔石ごと潰しちゃった。てへぺろ!」
ここで説明しておこう。
魔物には『魔石』と呼ばれる宝石が付着している。
原理は知らないが、この魔石を破壊すると魔物は光となって消えてしまうのだ。
故に、確実に魔物を殺せる弱点部位であるといえる。
だが、これには素材がとれないという欠点がある。
例えば、ドラゴンの首を切り落として倒したとしよう。
そうすると牙だったり鱗だったり爪だったりを武具や装飾品として使えるし、売れば大もうけできる。
だが、魔石を破壊するとドラゴン自体が光になって消えてしまうので、素材が採れないのだ。
つまり、儲けはゼロとなる。
よって、冒険者は基本的に魔石を壊さないように戦わなければいけない。
のだが・・・
「ヒロ、大変。重大な事実が判明したわ!」
「うん、なんとなくわかるよ、言いたいこと。」
「私のミカエルくんだと、オーバーキルすぎてやばい!」
「うん知ってた。・・・うん?誰?」
「ハンマーじゃ寂しいから、お姉ちゃん、名前をつけました。スレッジハンマーSPの『ミカエルくん』です。コンゴトモヨロシク!」
「お、おう・・・」
撲殺する天使様か。懐かしいな。
「まぁいいや。とりあえず、俺がホームランしたホーンラビットを回収するか。」
「どうやって?」
「え。どうやってって、そりゃあ・・・あ。」
ノエルさんがいない=魔法袋が使えない!
簡易魔法袋にはもう入らないだろうし・・・
「えっと、手で持っていく?」
「・・・魔物の死体を?」
「「・・・・・・・」」
「さぁ、街へいこうか!」
「そうね!いきましょう!」
なかったことにしました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ヒロくんのスーパーポエムタイム!
ヒロくんは姉の影響で女性的な感性を、紫さんは弟の影響で男性的な感性を少なからず持ってます。
実際に姉や妹がいる人でないと、これはわからないかもしれませんね。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。




