第百八十一姉「無茶振りキター!」
しかし、精霊王様は俺にさらなる試練を課す。
「ん? クリスくんがどうかしたっすか?」
いつのまにか俺の横には次なる刺客、スレイが立っていたのだった。
「あなたもクリス様をご存知なんですか・・・?」
「ご存知もなにもマブダチっすよ。」
「え・・・? あなたと、ですか・・・?」
スレイに懐疑的な視線を送るアウロラさん。
まずい。確実にまずい。
このままだとスレイ経由で
→俺がクリスの師匠だとバレる。
→刺される。
→水虫になる。
という華麗なコンボが決まってしまう!
しかし、スレイに空気を読めというほうが無理だ。
どうする、どうするよ俺・・・!
「それでクリスくんがどうかしたっすか?」
「いやー、特にどうし「率直にお聞きします。クリス様が尊敬している棍棒使いのシスコン水魔法使いをご存知ですか?クリス様とマブダチというなら知っているはずですよね?」
なんでこんな時だけアクティブかつアグレッシブなんだよ!
さっきまでもっと大人しかったじゃん!
「クリスくんの尊敬してる棍棒使いのシスコン水魔法使い? そんなの一人しかいないじゃないっすか。」
「!? 誰ですか!?」
「誰ですかって・・・そこにいるヒ「≪水流霧≫!プラス【トンガラシの粉】!」ぎゃぁぁぁぁぁぁ!目が!目がぁぁぁ!!」
俺の指向性を持つ霧を発生させる≪水流霧≫にトンガラシの粉を混ぜた必殺魔法による目潰しで床を転がるスレイ。
すまない、スレイ。
俺が助かるにはこうするしかなかったんや・・・
「あ、あの、彼は急にど、どうされたんですか・・・?」
「すいません、スレイは突然目が痛くなる『ムスカ病』という奇病に侵されていまして。こんなふうに発作を起こすことが稀によくあるんです。」
「そうなんですか・・・大変ですね・・・」
運よく俺が魔法を使うところを見ていなかったアウロラさんに適当なことを言う俺。
人間、命がかかったら嘘も許されるよね?
「ではちょっと奥でスレイの治療をしてきますので。マリーシアさんと抱腹絶倒の歓談でもしていてください。」
「無茶振りキター!」
マリーシアさんの叫びを無視し、目痛で苦しむスレイをギルドの奥へひっぱっていく。
「よーし、回復だー!≪聖杯水≫ー!ポターン!キラキラキラ!」
「あっつぅぅぅぅぅぅ!」
≪聖杯水≫の副作用でさらに苦しむスレイ。
・・・なんとか治まったようだ。
「大丈夫かスレイ。」
「大丈夫っていうか、100%ヒイロさんのせいっすよね・・・」
「まぁ聞いてくれ。これには俺の命がかかってるんだ。実は~」
経緯を説明する。
「なるほど、そんな感じだったんすね。」
「俺の生命の危機ではあったが、スレイには悪いことをしたな。すまん。」
「何言ってんすか!いつもお世話になってますし、俺じゃ上手く立ち回れなかっただろうからヒイロさんは悪くないっす!ベストチョイスっす!」
何この後輩。ちょうかわいいんですけど。
俺的異世界かわいいランキング第四位にランクインです。
・・・あれ、よく考えると俺の異世界かわいいランキング、ベスト4のうち半分が男なんですけど。
まぁさきねぇとノエルさん以外の女性がランキングに載ったら大変なことになっちゃうからね。仕方ないね。
「とりあえず今日は帰ってもらっていいか? 今度なんか埋め合わせするから。」
「了解っす!頑張ってくださいっす!」
スレイを裏口から返して席に戻る。
「あの、ヒイロ様・・・さきほどの方は・・・?」
「あー、教会にいって治療してくるそうです。」
「そうですか・・・残念です・・・」
ゴソゴソと魔剣をしまうアウロラさん。
セーフ!
「何ビクビクしてんだヒイロ。」
「!? ヴォ、ヴォルフかよ驚かせんなよ。」
「別に驚かせるつもりはなかったんだが・・・」
次なる刺客はシスコン獣人であり我が親友、ヴォルフか。
「あれ、カチュアさんは?」
「なんかアルゼン女性冒険者の会?とかいうのがあるらしくてな。そっちにいってる。つーかお前の姉ちゃんが迎えに来てたぞ。」
「あーそんな感じ・・・あ、アウロラさん。こっちはヴォルフっていって俺の親友です。D級冒険者なんですよ。強そうでしょ?」
「確かに、すごく強そうですね・・・」
「ヒイロ、誰だこいつ? つーかムラサキがいない時に女と会ってて大丈夫か?」
「いや、全然大丈夫じゃないんだけど、成り行きで。」
「またなんかに首突っ込んでんのかよ。お前も好きだねぇ。」
俺が好き好んで事件に首突っ込んでるみたいに言わないでくれ。
基本的に姉の付き添いだから。
「実は今棍棒使いのシスコン水魔法使いを探しているんですが、何か知りませんか?」
「え・・・?」
ヴォルフがこっちをガン見してくる。
だからなんでそんなにアグレッシブなんだよ!
こいつの外見けっこう怖いだろうが!
「そんなんヒイ「フンッ!」ブチブチブチィ!
ヴォルフが余計なことを言う前に思い切りすね毛を引き抜く。
床に蹲り、声も無く悶絶しているヴォルフ。
痛いんだよね思いっきりすね毛抜かれるの。知ってた。知っててやった。
ごめんね?
「ど、どうされたんですか・・・?」
「いやー、こいつも持病を持ってまして。『ジンオウガララアジャラオシャンロン病』っていうんですけど。知りません?」
「えっと、ジンオ・・・? すいません、よくわかりません・・・」
「気にしないで。ちょっとこいつの治療にいってきます。」
ヴォルフを奥へ連れて行く。
「ヒイロ、お前もやっぱムラサキの弟だったんだな・・・」
「これには深い訳が・・・」
スレイにした説明を同じ説明をする。
「なるほどな。口で言えよそういうのは。」
「口で言えるタイミングじゃなかっただろ。」
「まぁそういうことなら許してやるか。今度奢れよ?」
「了解っす。」
握手をして仲直りをする俺たち。
そこに。
「ラウルさん!お願いだからちょっと黙って!」
突然マリーシアさんの叫び声が響く。
何事!?
「だぁ~かぁ~らぁ~、棍棒使いでヒック!シスコンの水魔法使いなんてこの街にはヒイロしかいないっつぅ~の!ヒック!まぁこの街にはっつーかこの国にはって話だけどな!あっはっは!」
「・・・・・・」
爆笑してるラウルさんと俯いて沈黙しているアウロラさん。
あの酔っ払い・・・!
「ヒイロさん・・・本当ですか・・・?」
「ヒィッ!? えっと、その・・・それは・・・」
俯いたまましゃべるアウロラさん。
怖い、怖いよ!
「・・・騙したな。」
「え?」
「騙したなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫するアウロラさん。
怖すぎる!
「お、落ち着いてください!これには深い訳が!」
「よくも騙したな・・・笑顔の裏でこっそり私をバカにしてたんだな・・・そうなんだろ・・・そうだって言え・・・」
「違うんです!そういった意図は全くなくてですね!?」
「殺してやる。」
「「え?」」
「殺してやるぞぉぉぉぉぉシスコンんんんん!マリーシアぁぁぁぁぁ!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁ!」」
魔剣アクアビートルを抜き始めたところで出口へ向かってダッシュする俺とマリーシアさん。
「マリーシアさんどうしよう!?」
「わかりませんよ!? っていうかなんで私まで抹殺対象になってるんですか!?」
「それこそ知りませんよ!」
「まぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇ!」
「「追ってきたぁ!!」」
後ろからヨモツシコメみたいな恐ろしい声が聞こえたぞ!
怖くて振り向けないです!
「ででででも大丈夫ですよ!私は元とはいえD級冒険者、ヒイロさんは現役D級冒険者!あんな貴族で魔法使いのお嬢様が追いつけるわけが」
ビュン!
チッ!
なんだ今の音。
しかも頬がちょっと痒くなったぞ。
「ヒ、ヒイロさん・・・その頬・・・」
「え?」
頬を触ると、なんかぬるっとした感触が。
触った手を見てみると赤い液体がついていた。
「っていうか血じゃん!?」
「お、思い出しました!風のグリグリ一族は風魔法を利用した高速投擲が得意だそうです!」
「早く言え!」
「有象無象の区別なくぅぅぅぅ!私の石つぶてはぁぁぁぁ!許しはしないわぁぁぁぁ!!」
後ろからヒュンヒュン石つぶてによる狙撃が開始され、流れ弾で全く関係ないお店の壁に穴が空く。
それなりに厚い木の板貫通する石つぶてとか!殺傷力高すぎだろ!
「マリーシアさん!ジグザグに走らないと撃ち殺されますよ!」
「やってます!」
「あははははは!逃げろ逃げろ!体に穴を空けられたくなかったらな!あはははははははは!」
ヤンデレ怖すぎぃぃぃ!
ヤンデレがかわいいのはゲームの中だけでした!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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