第百七十八姉「地味だけどすげー嫌な呪いだな!?」
事前告知。
来月の12月6日(姉の日)をもちまして、あねおれ・完結!となります。
あともう少しだけお付き合いくださると嬉しく思います。
新章で全五話です。よろしくお願いします。
「さて、何をしましょうかねーっと。」
俺は珍しく一人でアルゼンをぶらついていた。
というのも、今日は『アルゼン女性冒険者の会』というものがあるらしく、さきねぇはそれに出席しているのだ。
なんでも女性冒険者の女性冒険者による女性冒険者のための会なので男性は出席できないらしい。
さきねぇは今やアルゼンを代表する女性冒険者だからそういう集まりにお呼ばれされても仕方ないね。
しかし、どうしよう。
たまには他の冒険者チームに入って日帰りクエストでもやろうかな。
でも報酬の配分とかめんどくさいんだよなー。
俺個人としては普通にチーム人数の頭割りでいいんだけど、周りが『魔法使いだから』とか『活躍したから』とか『回復してもらったから』とかで俺の取り分を異常に盛ろうとするから申し訳ないんだよね。
なんかないかなーっと。
そうしてフラフラしながら歩いていると、ある女の子の姿が目に入った。
手元の紙を覗き込む→顔を上げキョロキョロする→通行人に話しかけようとしてやめる、を繰り返している。
あの感じだとアルゼンに来るのが初めての旅人さんかな?
しかしフード付きの真っ黒いローブにメガネで杖持ちって、くろまどうしみたいな格好だな。
まぁいいか、今やアルゼン通といっても過言ではない俺が手助けしてあげよう。
情けは人のためならずってね。
「こんにちわー。」
「ひぃぃぃ!ななななななんですか!?もしや、ナナナナナナンパですか!?」
なが多いな。
「いや、ナンパじゃないです。俺好きな人いるんで。」
「そ、そうですよね・・・私みたいなゴミムシをナンパする方なんて存在しないですよね・・・」
「誰もそこまで言ってないですけど!?」
すげーダウナー系だなこの人。声をかけるべきじゃなかったか・・・
「困ってるようなので声をかけたんですけども。どうされました?」
「あ・・・実は、道に迷ってまして。バカですよね私。・・・死のう。」
「死なないで!?道に迷うことだってあるさ!人間だもの!」
めんどくせぇぇぇ!
「見ず知らずのゴミクズみたいな私に優しい言葉をかけてくださるなんて、優しいんですね・・・」
「い、いやーそれほどでも。」
目の前で死なれたら俺のせいにされるかもしれませんし。
「そ、それでどうされたんですか?」
「実は、冒険者ギルドへいきたいのですけど・・・」
「・・・ギルド?依頼ですか?」
「えっと、依頼といえば、依頼・・・?」
「はぁ・・・」
よくわからんが、詳しくは聞くまい。
めんどくさそうだし、巻き込まれても困るしな。
「聞いていただけます・・・?」
向こうから話振ってきたぁ!
人見知りっぽいのになぜ話を振る!
「え、えぇ。俺でよければ。」
「ありがとうございます。私、実は子供の頃から婚約者がいるんです・・・」
「ほぅ。やりますね。それで?」
「私みたいな暗い女をあてがわれてかわいそうだとは思うんですけど、それでも愛される為に努力してきたつもりです・・・」
これは暗い話になりそうだぞ~。
「その彼が、急に結婚できないって言いだして・・・」
「そ、その彼にもなにか理由があるんじゃないですか?」
「はい。実は家を継がずに冒険者になるんだと言い出して・・・結婚している暇なんてないと・・・」
予想通りの暗い話だーすげー困るー。
「冒険者になるより実家を継いだほうが安全だし、お金の面でもいいと思うんだけどねぇ?」
「私もそういったんですけど、自分の理想の人が冒険者をやっているから自分もその人みたいになりたいって・・・」
「ありゃ、若者にありがちな感じですね。そういう状態だと理屈で語っても通じないし。そりゃ困った。」
「はい、私も困ってしまって・・・」
「「・・・・・・」」
困ったな。軽い気持ちで『冒険者になっちゃえばいいじゃん。飽きたら実家継げばいいし。』とか言いたいが、冒険者はそれなりに危険だからなぁ。
「あー、えっと・・・そういえば、なんでアルゼンに?彼がここにいるんですか?」
「いえ、今は実家のほうに戻っています。私がここに来たのはその『理想の人』に会う為に来たんです・・・」
「なるほど。その人から説得してもらうわけですね。」
「いえ、違います・・・」
「え、じゃあどうするんですか?」
「刺します・・・」
「刺すの!?」
怖い、この子、怖い!
初めて会うタイプのスタンドのような凄みを感じる!
「な、なんで刺すの?他にも方法はあるんじゃない?」
「だって私みたいなウスノロに刺されたら、彼だってその理想の人に幻滅して冒険者をやめるかもしれないじゃないですか・・・」
つまり、彼氏がアイドルのファンなのが許せなくてアイドルをピーーしようとしてる感じなのか?
こいつ、やべーどころの話じゃねーぞ!
「落ち着こう、お願いだから落ち着こう。暴力は何も解決しないよ?」
「そうでしょうか?少なくとも事態に進展はあると思うんですけど・・・」
うん、事態は進展するね!取り返しはつかないけどね!
「でも、絶対におかしいんです。今まで彼は『冒険者なんて一般庶民がやるものであって貴族が関わるものではない』って言ってたのに、急に人が変わったように冒険者になるんだって・・・」
「まぁ何かに影響されやすい年頃っていうのもありますしねぇ。」
「いえ、絶対彼は騙されてるんです。だから私が、婚約者である私が彼の目を覚ましてあげないといけないんです・・・」
今のうちにアメリアさんかアルゼン警備隊に引き渡したほうがいいかもしれん。
抱える闇が深すぎる。
「なので、実家から取って置きの魔剣を持ってきたんです・・・」
「魔剣!?」
「はい、これです・・・」
懐から刺々しいデザインのナイフを取り出す女性。
つーか殺る気満々すぎだろ!?なんなんだよこの女!?
「これが我が家に伝わる魔剣【アクアビートル】です。これで切りつけられた相手は・・・」
「あ、相手は・・・?」ゴクリ
「水虫になります・・・」
「地味だけどすげー嫌な呪いだな!?」
貴族ってまともな人間が存在しないのか?
わ、話題を転換しなければ巻き込まれる!
「え、えっと・・・こ、ここまでお一人で来られたんですか?」
「はい・・・とは言っても馬車で来てますから、さほど難しくは・・・」
「でも女性の一人歩きは危ないですよ?アルゼンはかなり治安が良いほうらしいですけど。」
「ししししし心配してくださるんですか!?あああああありがとうございます!・・・でも、これでも私、魔法使いなので・・・」
くろまどうしじゃなくて、本物の魔法使いだったか。
どちらかというと呪術士のほうが似合ってる気がするが・・・
まぁいいか。
「へー、奇遇ですね。私も魔法使いなんですよ。水ですけど。あなたは?」
「(・・・水?でもそんなわけないよね。優しい人だし・・・)私は・・・その・・・風、なんです・・・」
「風ですか。」
「はい・・・(またバカにされる・・・)。」
「≪風速強化≫とかいいですよね!私の≪水命強化≫とか使いにくくて仕方ないですよー。困ったもんです!」
アレ、痛み消えないから再生力強まっても意味ないんだよな・・・
ふと女の子の顔を見るとビックリしている。
「え、どうしたんですか?」
「バ、バカにしないんですか・・・?」
は?なんで?
「え、なんでです?」
「だって、風ですよ・・・?なりたくない職業ランキングで毎回トップ3内に入ってる風魔法使いですよ・・・?無能で無用で無駄飯喰らい、3Mと呼ばれる風魔法使いですよ・・・?」
どんだけ嫌われてるんだよ風属性。
風の精霊さん涙目だろうな。
・・・よし。
「それが?重要なのは何ができるかじゃなくて何をしたか、じゃないですか?ただでかい顔してるだけで何もしようとしない火魔法使いより、頑張ってる風魔法使いのほうがすごいと思うし、好きですよ。」
「!?(好き?風魔法使いが好き?つまり、私のことが好きってこと!?)」
「どうしました?」
「ななななななんでもないです・・・!(私には婚約者が!あぁ、でも!ドキドキドキドキ!)」
いいこと言った気がするんだが、なぜ寒気がするんだろう?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
変人と変態に好かれることに定評のあるヒロくん。
ある意味一級フラグ建築士!




