第百六十七姉「お姉ちゃん、今日は豚さんをぶーぶー言いながら食したい気分なのです。」
皆様、お久しぶりでございます。新章で全五話です。
そして、ついにオークDEとんかつ話です!
これであらすじ詐欺にならなくてすみそうです。よかったよかった。
ある日の昼下がり。
さきねぇと街をブラブラしていた時の事だった。
「・・・豚さんが食べたい。」
「豚?珍しいね、牛派なのに。」
うちのお姉さまは至高の牛肉派であり、食べ放題の焼肉屋にいっても最初の一皿に盛られている豚カルビに手をつけない人だ。
俺はごはんに合うから豚さん好きなんだけどね。牛さんより安いし。
「お姉ちゃん、今日は豚さんをぶーぶー言いながら食したい気分なのです。」
「じゃあ・・・あそこでも入る?」
ちょうど美味しいオーク肉を提供することでそこそこ有名なオーク肉専門店が近くにあったのでよってみる。
しかし。
「・・・クローズド?」
真昼間だというのにお店は閉まっていた。
「こんなこともあるんだね~。」
「使えないわね全く。今が稼ぎ時だろうが!親が事故っても店を開けるのがプロってもんよ!」
「事故ったのが弟だったら?」
「だったら仕方ないわね。違うお店いきましょ?」
さすが我が姉。ブレぬこと刀のごとし。
違うお店にいってみる。
が。
「すいません、今日はオーク肉の入荷が・・・」
「「・・・」」
次のお店へ。
「すいません、本日はオーク肉は品切れで・・・」
「「・・・・・・」」
次のお店へ。
「すいません、オーク肉扱ってないんですよー。」
「「・・・・・・・・・」」
次のお店へ。
「すいません、昨日で店じまいをしたんで・・・」
「「あ、ごめんなさい。」」
結局、いつもの定食屋まで来てしまった。
さきねぇのイライラもMAXゾーンに突入している。
とりあえず店内に入る。
カランコロ~ン
「こんちわ~。」
「あ、どーもぉヒイロさんにムラサキさん。いつもご贔屓にしていただいてありがとうございます~♪お席へどうぞ~!」
「あー、その前にちょっと聞きたいことが。」
「? なんですかぁ?」
お盆を持ったまま首を傾げるウェイトレスさん。
「オーク肉を出しなさい!」
「というわけで、オーク肉ってあります?」
「あぁ~・・・オーク肉は今品切れでないんですよー。申し訳ありませ、あ、あばばばばばば」
頭を下げたウェイトレスさんが頭を上げる途中で、何か恐ろしいものを見たかのように腰を抜かし、ガタガタと震えだす。
こっちを見ていた他の客たちもイスから転げ落ちたり白目をむいたり、子供に至っては泣くどころか気絶している始末。
な、何が起こった?
「あ、あのーどうしました?」
「ム、ムムムムムムラサキさんのお、お顔ががががががが」
「?」
真っ青になったウェイトレスさんの言動を聞き、さきねぇの顔を覗く。
いつもより少し機嫌が悪い、ちょいオコな顔である。
「どったのヒロ?お姉ちゃんの顔になんかついてる?」
「いや、いつもどおりのかわいいかわいい俺のさきねぇの顔だよ?」
「やぁ~ん、もう!ヒロってば~!お姉ちゃん大好きっこ!」
超笑顔のさきねぇに人差し指でほっぺをぷにっと突かれる。
「お返し~!」プニッ
「じゃあそのお返し~!」プニッ
「じゃあそれのお返し~!」プニッ
そのまま数分間お互いのほっぺを突きあう。
「あ、あのー。お店の入り口でそれを続けられるのはちょっと、営業妨害っていうか、周りのお客さんも色んな意味でお腹いっぱいになって食事ができなくなっちゃうっていうか。」
「ふむ、それもそうだね。とりあえず席に座ろうか?」
「そうね。オークについても詳しく話を聞かなきゃいけないしね!」
ウェイトレスさんに案内され、いつもの席へ。
とはいえ、普通のお店にはこんな『予約してない予約席』なんて存在しない。
しないのだが、この定食屋には端っこの方にノエル一家専用エリアがあり、いつでもテーブルとイスが用意されている。
そして、どんなに混んだ時であってもノエル一家以外の人間でこの席が埋まることはない。
ここまで書くと特権階級のすごい偉そうで嫌な印象を受けるが、この特別待遇にはそれなりの訳がある。
一つ、ノエル一家は常連であり、なおかつお金を落とす上客だということ。
ここはお得なランチもやっているが、俺たち姉弟 (っていうかさきねぇ)はそんなものは関係なく、それなりの金額の料理をたくさん頼むのだ。
わかりやすく言うと、平日ランチ500円のメニューがあろうと、ミックスグリルにラージライスにマルゲリータピザ、さらにから揚げに山盛りポテトにコーンポタージュスープにシーザーサラダにドリンクバー、食後にアイスクリームをつけて注文しちゃう感じ。それも週三くらいのペースで。プチ豪勢である。
一つ、ノエル一家が飲み食いしていると客が集まってくるということ。
俺たちがここでご飯を食べると、必ずといっていいほどノエルさんやさきねぇ見たさに多くの客がお店に押し寄せる。
また、たまにさきねぇが調子に乗って『今ここにいる人たちにワインを振舞いなさい!金は私が出す!』とかやっちゃうこともあり、店内がガラガラでも俺たちが入店するとすぐに満席になる。
一つ、ノエル一家のおかげで治安が異常に良いこと。
俺たちが店内にいる時にケンカでもあったらケンカしてるやつ全員さきねぇパンチで教会送り、食い逃げしたら教会送り、ナンパしたら教会送りと、何かしでかすと基本的に教会送りにされるので客たちは全員行儀が良い。そのため、店内は驚くほど安全なのだ。
暴漢に襲われたら守備兵のいる詰め所かこの定食屋に逃げ込め、といわれてるくらい。
おかげで子供連れの家族や女性たちの食事会などに大人気なのだ。
ちなみに、この定食屋とアルゴスノブキヤと串焼き屋のおっちゃんの屋台には『鈍器姉弟フェイバリット』という看板(文字・俺、絵・さきねぇ)が立てられている。
警官立寄り所、もしくは熊出没注意みたいな意味で使われているため、この街の住民や冒険者でこの看板の近くで暴れるような命知らずはいない。
また、この看板は俺の許可制になっており勝手に使うことは許されないし、使われることもない。
理由は簡単、勝手に使った店がさきねぇの手によって半壊したからだ。
それに様々な場所でMFCの人間が目を光らせているため、逃げることもできない。
着々とアルゼンを支配下に治めていくノエル一家だった。
すげー長い上にどうでもよすぎる話はそろそろやめよう。
「んで?なんでオーク肉がないの?」
「オークって色んな場所に生息しててけっこうな数がいるんですけど、なんか最近数が減ってるらしくて。そうするとやっぱり王都みたいな都会に優先的に回されちゃうんですよ。」
「そしてクソ貴族どもとクソ商人どもが買い漁るわけね。汚ねぇ花火どもめ。」
すごい決め付けだな。多分そうだろうけど。
「アルゼンでオーク肉を入手するのは難しいみたいだね。どうしよっか。」
「決まってるでしょ!自分たちの手で美味しそうなオークを捕獲してくるしかないわ!」
「でもこの辺にオークっているの?見た事なくね?」
「まぁとりあえずギルドにいってカツラ支部長とか誰かにオークの居場所を吐かせましょう。」
さすがにギルド関係者だったら知ってるか。
「それが早そうだね。情報ありがとうございました。」
「いえいえ!お二人のおかげでお店の売り上げがドンドン上がってますから!このくらいは喜んでお手伝いさせてもらいますよ!」
ムンッ!とガッツポーズをとるウェイトレスさん。ちょっとかわいい。
「お姉ちゃんパンチっっっっっ!」
「グハァ!」
俺から不穏な思考を感じ取ったさきねぇのコークスクリューでハラパンされ気絶する俺。
「ありがとうございました~!またのお越しをお待ちしてま~す!」
最期に聞こえたのは、ウェイトレスさんの楽しそうな声だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
お姉ちゃんといえばパンチなのです。
姉業界では常識です。




