第百六十六姉 番外編『その時のレイリア・エクスペリアさん』
「・・・ノエル!ちゃんとその子たちの面倒見てあげるのよ!じゃあね!」
私は定食屋を後にする。
よかった、あの様子ならノエルはもう大丈夫だろう。
まさかノエルが弟子を、しかも人間の魔法使いを二人もとるなんて思ってもみなかったけど、良い方向に作用しているようだ。
まぁ実際は弟子というより子供みたいな感じだったけど。
私も安心して仕事にかかれるというものだ。
私の名前はレイリア・エクスペリア。絶世の美女である。
大陸内の勢力の意見のすり合わせを行う調停者にして、ノエルらと共に大戦を生き抜いた冒険者の数少ない生き残りだ。
ほんとは調停者なんてめんどくさい仕事は放り投げてチヤホヤされながら逆ハーレム生活したいんだけど、精霊王様からの指示だからどうしようもできないのよね。
・・・え、なんで精霊王様から指示を受けてるのかって?
だって私、天使だもん。
いやいや、天使みたいにかわいいとかの比喩じゃなくリアルに。
200年生きている有翼獣人族の突然変異、と思われている(というより、そう思われるように振る舞っている)私だが、実際はこの大陸に三人しかいない霊獣の最高位[天使]の一人であり、実際の年齢は軽く500歳を越える。
なので伝承の天使のように美しいとか言われても『だってそれ私本人だし』って感じでちょっとウケる。
なぜ精霊王様を補佐する天使である私が冒険者なんてやっていたかというと、その理由は約100年前に遡る。
本来、大陸は精霊王様の御力によって魔物の発生が抑えられていた。
だが、精霊王様が目を閉じながら大陸の行く末について想いを馳せていると、うっかり寝落ちしてしまったのだ。
その結果、魔物の大量発生に繋がった。
後の生魔大戦である。
声をかけても揺すっても起きない精霊王様は置いておいて、私たち三人の天使は話し合った。
私は人々を助けるべきだと提案した。
しかし、もう一人は精霊王様からそんな指示は受けていないから何もするべきではないと主張した。
最後の一人は生き残る時は生き残るし、全滅する時は全滅するのだから放置すればよいと言った。
確かに天使は精霊王様の補助を許されるのみで、自発的に大陸に関わることは許されていない。
だからといって大陸が滅びるのを黙ってみていることはできなかった。
私は天使の力の大部分を封印し、一人の冒険者として大陸に降り立った。
まぁその程度の力じゃ焼け石に水だったんだけどね。
このままじゃジリ貧でやばいなーと思っていた時に精霊王様が起きてなんとか魔物の発生は止まって事なきを得た、という顛末。
これで大陸での冒険者生活も終わりかーなんて思っていたんだけど、精霊王様から『お前やるじゃん!ちょっとそのまま現地に残って色々見てくんない?内管ってやつ?』と言われた。
お願いの形式をとってるけど、ぶっちゃけ命令よね。
まぁ本来のお給料に加えて現地での生活費支給と危険手当も出ることになったからいいんだけどさ。
あ、ちなみに四神様たちが守護者としてこの大陸に来たのもこのタイミング。
精霊王様もさすがに『また寝オチしたらやべ-な』って思ったらしいわ。
そして私は冒険者をやめて『どこの勢力にも属さない調停者』となったわけよ。
んで今日はトポリス王国に用があってきたんだけど、私の唯一の親友であるノエルがこのあたりで隠居してるらしいので探しにきた。
様子がおかしい、というかすごい病んでる感じだったけど、大丈夫かしら?
アルゼンという街に入ろうとすると、門番に止められる。
「あ、あのー。」
「はい、なんですか?」ニコッ
「い、いえ!なんでもありません!どうぞお通りください!」
「ありがとうございます。では。」
「は、はい!」
どうぞお通りくださいじゃねーよ。お前門番だろうが。
とはいえ、それを責めるのも酷というもの。
天使の力の大部分を封印したとはいえ、私は天使である。
保有スキル『魅了の香り』が常時発動できる(オンオフ可)上に生まれ持った絶世のプリティーフェイスがあるから仕方ないわね。美しすぎる私がいけない。
そのまま門を通り過ぎ、アルゼンとかいうそれなりに栄えてるのに田舎っぽさがぬけない微妙な街を歩く。
男どもが私の美しさに目を惹かれ釘付けになっているが特に気にしない。
いい男いないわね~。
さっさとギルドいってノエルの家の場所聞いてオサラバね。
ギルドに入ると一瞬静まり返り、次にひそひそ話す声が周囲から聞こえる。
ナンパが少ないのは田舎のいい所だけど、情報が集まりにくいのは悪いところね。
仕方ない。
私は数人のチームのところまで歩いていく。
「あの、少しお聞きしたいんですけど、よろしいですか?」
「!? も、もちろんっす!なんでも聞いてくださいっす!」
ちょろい。
十代後半の男とか余裕過ぎて鼻水出そう。
「ノエル・エルメリア様のご自宅を知ってる方っていらっしゃいますか?」
「ノエル様っすか?なら「ノエル様に何か御用なんですか?」
いきなり女の子から話しかけられる。しかも敵意を持って。
ああ、この女の子、このちょろい男の子のことが好きなのね。わかりやすっ。
「ええ、ちょっとお話したいことがありまして。」
「ふ~ん・・・」
モテない女の敵意を持った視線、最高です!
だって、私がかわいくてモテている証だから!ウフフッ!
「私、何かあなたを怒らせるようなことをしたでしょうか?」
「おいリムル!失礼だろ!謝れよ!」
「なんで私が謝んなきゃいけないのよ!」
あらあら、ケンカが始まってしまったわ。罪深い私!
私のために争わないで(笑)
「えっと、このうるさい女はほっておいてアッチで話しましょうか。」
「すいません、お願いします。」
まだギャーギャー騒いでる女の子を置いて違うテーブルに移ると、他の冒険者たちも近寄ってくる。
はぁ・・・逆ハーレムは好きだけど、イケメンはいない、と。
さっさとノエルのとこいきたいわ。
全員に聞いたが、森の中にあるらしい程度しか知らなかった。
まぁこんなブサメンどもじゃ仕方ないか。
どうしようかと考えていると、黒髪の男の子がやってきた。
へぇ、顔は普通だけど背が高いし珍しい髪の色ね。
女性たちと話しているが、どうせすぐ私と話したくてこっちにくるだろう。
と思っていたらなかなか来ない。つーか帰ろうとしやがった。
なんなの。仕方ないのでちょろい男の子に呼びにいかせる。
なんだかんだいってこっちに来た。そりゃそうよね。普通はかわいい私とお話したいものね。
「どうです?絶世の美女っていうかもう天使じゃないですか?」
ちょろい男の子の発言。だからそれ私だってば。天使=私。OK?
しかし、続く黒髪の男の子の言葉に愕然とする。
「・・・ハッ。確かに美人だとは思うけどね。でもあの人が天使ならさきねぇは精霊女王だね。」
「せ、精霊女王・・・でも話してみればもっと好きになりますよ!」
「興味なっしんぐ~。マリーシアさんたちとしゃべってるほうがまだ面白いわ~。」
ほぉ・・・精霊女王とは大きくでたわね。つーか誰よそのサキネェって。
たまにいるのよね、私の魅了が効きずらいやつが。
ここはこの私が直々に話しかけるという栄誉を授けてあげましょう。
「あの、もしよかったらお話しませんか?」
「ヒイロさんはーあなたと話すことなんてーないそうですー。一昨日いらしてくださいますー?」
変な女がからんできた。ウザい。でも顔からしてモテなさそうでかわいそうだから許す。
私、超優しい!
「あなたには聞いておりませんが?・・・ヒイロさんと仰るんですか。素敵なお名前ですね。」
魅了が効きずらいといっても、それは無意識に垂れ流している『魅了・微小』の場合。
話しかければ効果は二倍! 喰らえ、『魅了・小』!
「・・・はぁ。どうも。」
なん、だと?
なんでそんな『クッソ興味ねぇ~』みたいな顔してるの?
おかしい。風邪引いたのかしら私。
仕方ない・・・笑いかければ効果はさらに倍!『魅了・中』!
「なんでもこの街でも有数の魔法使いとか。すごいですね。」ニコッ
「・・・ありがとうございます。」
「・・・え、もしかしてこの子、効いてない?」
「何がですか?」
「あ、い、いいえ!なんでもないですよ?」ニコッ
やっば、つい口に出しちゃった。
つーかなんなのこの子。この私の魅了が効きずらいとかじゃなくて、全く効かないとかすごくね?
雰囲気的にも佇まい的にも魔力的にもそこまでの人物には思えないんだけど・・・
ここは一つ、魅了と並行して褒めて煽てるか。
「あ、背がすごい高いんですね。スマートだしかっこいいです。」ニコッ
「・・・あなたもけっこう背ぇ高いですよね。」
「はい。本当はもっと小さいほうがよかったんですけど・・・背の高い女性は嫌いですか?」
「友人としてなら背の高い低いなんて気にしないですけど、女性的に見るとあんまり好きじゃないですね。」
「!? そ、そうですか・・・」
嘘でしょ・・・私を褒めないどころか、遠回りに『タイプじゃない』って言われたわよ。
ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない。
ここまで来ると逆に興味が沸いてくるわね。
ならば、ここは攻めの一手!
「・・・わー、すごいおおきな手ですねー。手のひら合わせしてもいいですか?」
「俺の手より大きなやつなんてあそこにいっぱいいますよ?おーいみんなー!」
「あ、えっと、結構です・・・」
ガード硬っ!
このくらいの年の男の子って、女の子に少し優しくされたら『この女の子、俺に惚れてるんじゃ!?』って勘違いするくらいのアホしかいないはずじゃなかったの?
ここまで虚仮にされて黙ってるようじゃ天使の沽券に関わるわ。
やりたくはないが、最後の手段。
効果はなんと『魅了・中』の四倍!必殺の官能直接攻撃!『魅了・大』!!
「あの!もしよかったらこの街を案内してくださいませんか!?」
「触んな。」
「「「「「「!?」」」」」」
手に触れた瞬間に振り払われたでござる。
嘘よ、絶世の美女天使であるこの私が『魅了・大』なんて使ったら、相手は即アヘ顔ダブルピースになってもおかしくない!ううん、絶対なる!
「あーすいません。俺、他人に触られるの苦手なんですよ。ごめんなさい。あと、街の案内はそこらの男たちのほうが詳しく親切に案内してくれますよ。これからちょっと用事があるのでこれで失礼します。」
私が絶賛混乱中の時にそれだけ言って足早にギルドから出て行く黒髪の男の子。
それから少しして、やっとフリーズしていた頭が動き出した。
「ふふふ、まさかこの私の魅了が効かないなんて、すごいじゃないあの坊や。だからこそやりがいがあるってものだわ。ふふふふふ、おーほっほっほっほっほっほ!」
ノエルを探しに来てすごいものを見つけたわ!
すぐに追いかけて私にメロメロにしてあげるんだから!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
これにてレイリア伯母さん現る編の終了です。
レイリアさんの意外な正体が明らかに。本編には全く関係ありませんが!
次回更新は9月中旬を予定しております。よろしくおねがいします。




