第百六十三姉「ヒイロさんと仰るんですか。素敵なお名前ですね。」
いつのまにか俺の手がグーの形になっていた。
俺もクンフーが足りないな。
「・・・OK。落ち着いた。じゃあその噂の美人さんを見に行きましょうかね。」
俺にちょっとびびってるっぽいスレイを置いて美人さんを見に行く。
男どもに囲まれてチヤホヤされている女性を見る。
「・・・へぇ。」
確かに美人といわれるだけはある。
実年齢はわからないが、見た目は20代半ば~後半くらいだろうか。
金髪ロングのストレート、背が高く胸も大きい。
顔も美人系だがニコニコ笑っている姿を見るとかわいい印象も受ける。
ぱっと見ると清楚っぽいのに、胸元がはだけているなかなかに露出度の高い服を着ているのもアンバランスで惹きつけられるのだろう。
ハリウッド女優クラスの美貌はあるだろうな。
しかし。
「どうです?絶世の美女っていうかもう天使じゃないですか?」
「・・・ハッ。」
スレイの言葉に俺は鼻で笑うと女性に背を向ける。
「確かに美人だとは思うけどね。でもあの人が天使ならさきねぇは精霊女王だね。」
「せ、精霊女王・・・でも話してみればもっと好きになりますよ!」
「興味なっしんぐ~。マリーシアさんたちとしゃべってるほうがまだ面白いわ~。」
「「「キャー!ヒイロさん素敵ー!」」」
マリーシアさんを筆頭に、女性冒険者さんたちから黄色い声援を受ける俺。
我が名は初月緋色、人呼んで『シスコン千葉県代表』だ!俺しか呼んでないけどな!
「あの、もしよかったらお話しませんか?」
そんなやり取りの中、いつのまにか金髪さんが近寄って話しかけてきた。
「ヒイロさんはーあなたと話すことなんてーないそうですー。一昨日いらしてくださいますー?」
「あなたには聞いておりませんが?」
『あ~ん?』って感じでヤンキーのようにからむマリーシアさんに対し、笑顔で応対する金髪さん。
「ヒイロさんと仰るんですか。素敵なお名前ですね。」
「・・・はぁ。どうも。」
俺の弟センサーが反応している。しかも『パターン・赤』だ。
『パターン・赤』は危険信号。これは相手がビッチの可能性が高い場合の反応だ。
しかもセンサーは真っ赤を示している。完全にアウトだと弟の本能が告げている。
早めに逃げよう。
つーかクセぇ!この嫌な匂いはこいつの匂いか!
やだやだ、香水なんかに頼らないといけない女とさきねぇを比べてほしくないわー。
「なんでもこの街でも有数の魔法使いとか。すごいですね。」ニコッ
「・・・ありがとうございます。」
きたよきたきた。褒め殺し作戦ですよ。
その手には乗らねーよこのビッチが!
警戒心バリバリで対応する。
「・・・え、もしかしてこの子、効いてない?」
「何がですか?」
「あ、い、いいえ!なんでもないですよ?」ニコッ
俺の反応に眉をひそめブツブツ言ってる金髪さん。
するとトコトコと俺の目の前まで歩いてくる金髪さん。
周りの男性冒険者からどよめきの声が聞こえ、同時に殺気も飛んでくる。
こんなビッチのどこがいいのか意味不明だわ。
「あ、背がすごい高いんですね。スマートだしかっこいいです。」ニコッ
「・・・あなたもけっこう背ぇ高いですよね。」
「はい。本当はもっと小さいほうがよかったんですけど・・・背の高い女性は嫌いですか?」
ハイでましたー!上目遣いー!
これで何人の男をひっかけたんでしょうかねぇ?
しかし、その程度で姉スキーを落とせるとか思ってるのか?
「友人としてなら背の高い低いなんて気にしないですけど、女性的に見るとあんまり好きじゃないですね。」
「!? そ、そうですか・・・」
俺の言葉に目を見開き驚く金髪。
今まで男どもにチヤホヤされて生きてきたんだろうから、俺の発言は衝撃的だったんだろう。
俺は基本的に『女性に優しく』がモットーだが、ビッチは別です。
冒険者どもの殺気がものすごいことになってるが、全く気にしない!
「・・・わー、すごいおおきな手ですねー。手のひら合わせしてもいいですか?」
まだくるのか。メンタルつえーなこのビッチ。
ならば!
「俺の手より大きなやつなんてあそこにいっぱいいますよ?おーいみんなー!」
冒険者の群れを呼び寄せると『俺と手のひら合わせしましょう!』『いや、僕と!』『俺だ!』と怒涛の勢いでこっちに混ざってくるヤローども。
「あ、えっと、結構です・・・」
金髪の拒絶の言葉にシュンとする冒険者たち。
飼い犬かお前らは。
さすがにここまで拒否感を示せばもうからんでこないだろー。
そんな風に思っていた時期がありました。
「あの!もしよかったらこの街を案内してくださいませんか!?」
「触んな。」
「「「「「「!?」」」」」」
いきなり俺の手を握ってくるという暴挙に出た金髪に、つい本気の本音でしゃべってしまった。
金髪さん含めて全員ビックリしている。
でも俺、さきねぇ以外の人間に触られるのすごい嫌いなんだよね。
スレイやヴォルフとでさえ肩が触れ合うほど近くを歩かれると『ちょっと近すぎて肩当たってっから離れて』って言っちゃうくらいだからな。
「あーすいません。俺、他人に触られるの苦手なんですよ。ごめんなさい。あと、街の案内はそこらの男たちのほうが詳しく親切に案内してくれますよ。これからちょっと用事があるのでこれで失礼します。」
俯いている金髪に頭を下げて頭を下げて足早にギルドを出る。
ビッチは怖いすなぁ。
「ふふふ、まさかこの私の魅了が効かないなんて、すごいじゃないあの坊や。だからこそやりがいがあるってものだわ。ふふふふふ、おーほっほっほっほっほっほ!」
さて、逃げ出したはいいがさきねぇたちと合流するまでどこで時間潰そうかな。
「待ってくださーい!」
「げ。」
金髪女が追ってきやがった。なんなの。
「・・・なんでしょうか。」
「そんな嫌そうな顔しないでください。もうちょっとお話したいなと思っただけですから。」
「・・・・・・はぁ。」
さらに嫌そうな顔をする俺。
こいつの狙いはなんなんだ。遺産? 保険金?
なんにしろロクな目的じゃないはず。
俺の隣を変な女が歩く。
色々質問されたり自分語りをしているが、『へぇ』『そうっすか』『大変っすね』の三単語で答える。
ここまで邪険に扱われてるのになぜ楽しそうなんだこの女。アホなのか。
「ヒイロさんっておいくつなんですか?」
「・・・そういうあなたは何歳なんですか?」
「ふふ、何歳だと思います?」
口の前に人差し指をナイショポーズをとる金髪女。
かわいい仕草のはずなんだが、どう見ても『男なんてこれやっときゃイチコロだろ馬鹿だから』といった本心がうっすら透けて見えるのは俺の心が病んでいるんだろうか。
ここはあえて失礼なことを言って怒らせて退散させよう。
「・・・そうっすね。実はけっこう年上じゃないですか?34歳とか。」
「前半は当たりで後半ははずれ~。今年で200歳です♪」
「・・・は?」
え、冗談? しかしノエルさんみたいな人もいるし・・・
俺が判断に迷っていると、クスクスと笑い出す金髪。
「じょ・う・だ・ん!もーヒイロクンたらー!」
ぷにっと頬を指で突かれる。
プチーン。
「誰に許可とって頬を指でプニプニしてんだババァ!それをしていいのはさきねぇだけなんだよボケぇ!気持ちわりぃから近寄るな、ブス!触んな、タコ!消えろ、ビッチ!!」
「!?」
俺の口汚い罵りの言葉にショックを受けているっぽい金髪。
プルプル震えてる。
やっとシスコンを敵に回した恐ろしさを実感できたようだな。
「俺はてめぇなんかに興味ねーんだよクソが。さっさと失せろ。」
「・・・・・・この気持ちは何?年下の男の子に罵倒されてるのに、この心に芽生えた感情は・・・快感?」
「・・・は?」
今なんていったんだこいつ。
金髪の目がキラリと光る。
「ねぇ、お願いがあるんだけど。もう一回罵倒してもらえないかしら?」
「・・・うわぁ。」
精霊王様、なんで俺の周りにはこんなのしかいないんですか?おかしいですよね?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
はい、章題通り(変態金髪ドM美女に)狙われたヒロくんです。
この作品には正統派清楚系美少女は存在しませんので。




