第百六十一姉 番外編『魔王との最終決戦!』
えー、なんていうか、アレです。
書いてみたかっただけです。
「俺とさきねぇが、お前を倒す。」
「・・・お前が?お前のような雑魚が、この魔王たる俺を倒すだと?」
「そうだ。」
「・・・くく、くははははは!面白い冗談だ雑魚。お前の姉というあの女も人間種で最高クラスの強さを持っていた。そしてお前の師の・・・ノエル、だったか?やつもエルフで最強だったろう。だが、俺に負けた。そして残ったたった一人の雑魚がお前だ。」
ヒュ・・・パン!
魔王の放った魔力弾がヒイロに迫る。
避けようとするも、回避しきれずにヒイロの体は地面に転がる。
「この程度の魔力弾すら避けられない雑魚が吼えるな。」
ゴミを見るような目を向ける魔王を前にして、ヒイロは立ち上がる。
「・・・確かに魔王からすれば俺は雑魚だろうな。俺自身そう思う。さきねぇやノエルさんと違って、単なる凡人だ。だが、一つだけこの世界で誰にも負けない、いや、誰よりも勝るものがある。」
「ほう。なんだ?」
「愛だ。」
「・・・・・・は?」
ヒイロの言葉に固まる魔王。
「俺は姉さんとずっと一緒に生きてきた。同じ時間を過ごしてきた。俺は姉さんを愛していたし、俺は姉さんに愛されていた。」
「・・・それがどうした?狂ったか?」
「ノエルさんは言っていた。魔法は想いが力になると。なら、姉さんを想うこの気持ちだけは!俺が世界で最強だ!!」
ヒイロの体から膨大な、いや、異常ともいえる量の魔力が吹き荒れる。
魔王は、なぜこんな雑魚にこれほどの魔力が?と眉をひそめる。
そして、ヒイロの口から魔法名が告げられる。
「くたばれ、魔王・・・!≪女神降臨≫!!」
その声をその場に残し、ヒイロの姿が掻き消える。
直後、魔王は体に痛みを感じた。
目の前に迫ったヒイロからの拳によって。
「く、この速さ、この強さは・・・!」
「そう、俺は今、さきねぇの動きを寸分の狂いもなく再現している。言ったろう、俺とさきねぇがお前を倒すと!おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「人間風情がなめるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヒイロと魔王はその場で殴りあう。
まるで至近距離でマシンガンを乱射しているかのようだった。
それから少ししてお互いに距離をとると、魔王が口を開いた。
「・・・なぜデミオリハルコンの体を持つ俺に傷がつく。なぜ俺の一撃で貴様は死なん。貴様・・・何をしたぁ!」
「へへへ、言ったろうが。魔法は想いが力になると。デミオリハルコンってーならオリハルコンのほうが強いはずだろ?おかしいことなんざ何もねぇな。」
「オリハルコンだと?そんなものどこにある!?」
「俺の国ではオリハルコンのことをヒヒイロカネっていうんだよ。」
「・・・それがどうした!!」
「教えてやろうか?俺の名前はヒイロ・ウイヅキ!オリハルコンの名を持つ俺が、オリハルコンと同じ硬さで何の問題がある!」
「ふ、ふざけるなっ!嘘に決まっている!?そのような戯言でぇぇぇ!!」
「なら、嘘かどうかもう一回試してみるかクソ魔王ぉぉぉぉぉぉぉ!」
殴りあうこと数十回。
どうみてもヒイロのほうが弱っていた。
ヒイロは魔王から離れると、初めて構えを取った。
「・・・次で最期だ。俺の最高の攻撃で滅ぼしてやるよ。来な。それとも、俺みたいな雑魚に近づくのが怖いかい、魔王ちゃんよ?」
「・・・いいだろう。俺は魔王。貴様のような雑魚に引くわけにはいかん!・・・・・・死ね!!」
どう聞いても安い挑発。
だが、魔王は魔王故に逃げるわけにはいかなかった。
ヒイロの自滅を待つのではなく、自分の手で殺さねばならないと。
魔王は膨大な魔力を腕に込め、ヒイロに超高速で近づく。
その手刀がヒイロの首を刎ねるその瞬間。
「ムラサキ流奥義、桜花紫電閃。」
光り輝く純白の刃によって、魔王の体は真っ二つになっていた。
魔王は気付かなった。さきほどまで素手で格闘していたヒイロの拳の中に、剣の柄が握られていたことを。
魔王は知らなかった。それが、ヒイロの師であるノエルが残した、世界最強の剣であることを。
魔王はわからなかった。ヒイロが再現したのはムラサキの力ではなく、ムラサキの持つ全てだということを。
これがノエルかムラサキであれば、魔王はもっと注意を払っていただろう。
だから、これはヒイロしかできなかったこと。
雑魚で凡人だからこそ成し遂げられた偉業であった。
「キサマ、マサカ・・・デンセツ、ノ、ユウシャ・・・」
「勇者?おいおい勘弁してくれよ。んなわきゃねーだろ。勇者なんて称号はさきねぇにこそふさわしい。俺は単なる勇者の弟だ。」
「バ、カ・・・ナァ・・・」
魔王の体が塵になって消えるのを確認すると、ヒイロは地面に大の字に倒れた。
「・・・・・・ふぅ。あー疲れたー・・・もう一歩も動けねーや・・・」
ヒイロの言葉は、正しく真実だった。
もし、この場に人間が居たら絶句していただろう。
ヒイロの目や鼻や耳からは血が流れ出ていたのだから。
ムラサキの動きを完全に再現したとして、ヒイロの体がそれに耐えられるはずがないのだ。
彼は、凡人なのだから。
「ねみぃ・・・」
もう、何も見えないし何も聞こえない。
傷の痛みや、横たわっている地面の感覚すらなかった。
だからヒイロは静かに目を閉じた。
だが、声が聞こえた。
彼が大好きな声が。
―――お疲れ様
「うん、すげー疲れた・・・」
―――よく頑張ったわね、さすが私の弟ね
「そりゃよかった・・・」
―――エルエルもみんなもお祝いする準備をして待ってるわよ
「そっか。じゃあ早くいかないとね。でも、ちょっとだけ休んでいいかな?」
―――ええ、今はゆっくり休みなさい
「・・・そばにいてくれる?」
―――うん、ずっと一緒にいてあげるから、安心して眠りなさい
「・・・・・・おやすみ、さきねぇ」
―――おやすみさない、ヒロ
廃墟と化したアルゼンに、珍しく雪が降った。
それはまるで、何もかも全てを、優しく包み込むかのようだった。
「っていうお話を考えたんだけど、どう!?大陸全国号泣でミリオンセラーっていうか、むしろビリオンセラー確実じゃね!?」
「「うーん・・・」」
さきねぇがまたなんかやりだしたよ・・・
この世界では紙ってけっこう高いんだから無駄遣いはやめてほしいんだが。
「あー、ムラサキ。もしかして、私、死んでないか?」
「うん。エルエルは私とヒロを逃がす為に単身魔王に一騎打ちを申し込んで、惜しくも敗れるっていう熱い展開よ!」
「勝手にノエルさんを殺すな!」
「ま、まぁいいんじゃないか?」
「え?」
なぜかニヤニヤしているノエルさん。
何が琴線に触れたのだろうか。俺とさきねぇを逃がす為にってところだろうか?
「アルゼンが廃墟って、もしや全滅してるの?」
「そうよ?ちなみに一番最初にマリすけが魔王四天王の一人にやられます。」
何がどうなったらマリーシアさんと魔王四天王が戦うことになるんだよ・・・
「ムラサキ、これより前の話はないのか?」
「ないわよ?」
「最終回だけ書くな!子供か!」
「えー、最初から全部書くのめんどくさーい。」
「世界中の作家さんに謝れ。」
こうしてさきねぇの『目指せ!作家でウハウハ生活!』は幕を閉じたのだった。
しかし、数年後、ひょんなことからこの本(?)を手に入れたアルゼン演劇団によりこのお話は劇となり、アルゼン史上最高の観客動員数を記録することとなる。
当事者としてその劇に招待され、自分が主役の演劇(しかも妄想話)を自分で見るという恥ずかしさからノエルさんのように顔を真っ赤にしてプルプル震える俺の姿が確認されるのだが、それはまた別の話。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
まぁ当然こういうオチですね。
個人的に≪女神降臨≫の名称と効果はかなりお気に入りです。




