第百五十一姉「私はおはようからおやすみまでヒロを見つめ続けてるから話を進めていいわよ?」
評価と感想いただきました。ありがとうございます。
永久機関姉弟愛、良い薬です。
ラムサスさんの発言を受けて冒険者がゾロゾロとギルドから出て行く。
・・・みんな知らないんだよなーさきねぇの異常なまでのじゃんけんの強さを。
まぁどのみち俺たちが海で遊ぶのは確定してるんですけどね!うふふ。
「よし、お前ら、集合。作戦会議をするぞ。」
ここはヴォルフやクリスが泊まっている宿の談話室。
現在俺、さきねぇ、クリス、ヴォルフ、カチュアさん、スレイの六人がいるのみである。
「作戦会議って・・・じゃんけんだろ?どうしようもねぇじゃねぇか。」
「私もそう思いますけど・・・」
「お師匠様が作戦会議をするというのであれば、何かあるということだ。」
「クリスの言うとおりっす!」
様々な意見が出るが、まぁそれも仕方ないな。
さきねぇをチラッと見る。
「私はおはようからおやすみまでヒロを見つめ続けてるから話を進めていいわよ?」
「さいですか。」
俺はみんなに向き直る。
「ヴォルフ。さきねぇとじゃんけんして負けたことあったよね。」
「ん?ああ、けっこう前の話だが、あったな。」
「あの勝負、運じゃなくてテクニック、じゃんけんの技術で負けたって知ってる?」
「・・・はぁ?」
「あの時、グー出したよね。なんで?」
「なんでって・・・なんとなく?」
「・・・ヴォルフじゃんけんぽん!」
「ぽ、ぽん!」
俺のパーに対し、ヴォルフはグー。
「俺の勝ち。で、なんで今グー出した?」
「いや、お前が急にじゃんけんしだすから咄嗟に!」
「・・・あ。」
お、カチュアさんは気付いたかな。
「はい、カチュアさん。」
「人は、咄嗟の判断だと、グーを出す・・・?」
「はい、正解。正確には『グーを出しやすい』だけどね。グーって『グーを出そう!』って思わなくても簡単に出せるんだよ。逆にチョキって『チョキを出そう!』と思わないとけっこう難しい。手の形が複雑だからね。」
「ほんとかよ~?」「びっくりです。」「す、すごい!さすがお師匠様!」「さすがヒイロさんっす!マジリスペクトっす!」
胡散臭そうな顔のヴォルフ、素直に驚いているカチュアさん、感激している後輩二人。
「なので一対一のじゃんけんになったら、一瞬で勝負をかける。相手に何も考えさせないくらいね。逆に最初のラムサスさんのじゃんけんはチョキを出す。」
「・・・相手に考える時間があるということは、その分簡単に出せるグーはあまり出さない、ということでしょうか?」
「ほぅ。クリス賢い。ワンポインツ!」
「あ、ありがとうございます!」
「まぁこんな感じで教えていきたいと思います。とはいえ、あくまで『勝つ確率を上げる』というだけで『絶対に勝てる』わけじゃないから、負けたら負けたでドンマイだけどね。」
「ヒロ、かっこいい!」「まぁ何もやらないよりはマシか。」「ヒイロさん、わざわざありがとうございました。」「お師匠様の深慮智謀に感服いたしました!」「ヒイロさんって色んなこと知ってるし考えてるんすねー。」
そんな感じでその後も四人に色々なじゃんけんテクニックを伝授した。
「さて、では解散かね。明日の昼に訓練場で会おう!お疲れ!」
「おう、お疲れ!」「お疲れ様でした。」「お師匠様、お疲れ様でした!」「ヒイロさんお疲れ様っす!」
さきねぇと二人で宿を後にする。
「あっついわねーしかし・・・さっさと帰って水に浸かりましょ。」
「せやな。」
暑くても、繋いだ手は決して離さない俺たち姉弟なのだった。
次の日。
ギルドの訓練場には大勢の冒険者が集まっていた。
ただでさえ暑いのに、人が多すぎて死ねる。
「えーこれより特別クエスト参加を賭けたじゃんけん大会を始めます!とりあえず、勝った人とあいこだった人は残ってください。負けた人は即!退場です!」
ラムサスさんの話を聞いて、緊張感の漂う会場。
勝ったところで海にいけるクエストに参加できるだけなんだけどね。
「ではいきますよー!じゃーんけーん・・・!」
結果。
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
ヴォルフ、参加権ゲット。
カチュアさん、参加権ゲット。
クリス、参加権ゲット。
スレイ、参加権ゲット。
さきねぇ、参加権ゲット。
俺、参加権ゲット・・・ならず。
この結末に誰もが言葉を発しない。
そうだよね、あんなに自信満々に『勝つ確率をあげるための作戦を伝える!キリッ!』とか言ってたくせに俺一人だけ負けるとか・・・
「ふ、ふふ・・・わかってた。わかってたんだ。この可能性があるってことを。」
「あーその、なんだ。あー・・・残念、だったな。」
「そ、その・・・残念、でしたね。」
グラール兄妹が気まずそうに俺に声をかける。
「お、お師匠様!ボクの代わりに参加してください!」
「いや、それだったら俺の代わりにいってくださいっす!」
「ありがとう二人とも。でも、それをやったらじゃんけん大会をやった意味がないだろう?」
「ですが・・・」「でも・・・」
しょんぼりしている後輩二人。かわゆいのぅ。
「ヒロって普段はじゃんけんそれなりに勝てるのに、ここぞという時って負けるわよね昔から。」
「不思議だよね~。」
そう、俺は遊びの時は勝つくせに、何かを賭けたりだとかクラス委員を決めたりする時は必ずといっていいほど負けるのだ。解せぬ。
「お、おまっ!それがわかってんならじゃんけん大会なんて開催してんじゃねーよバカ!」
「そ、そうですよ!まだくじ引きのほうが良かったんじゃないですか!?」
「見損なったぞ姉殿!」
「ムラサキさんひどいっす!」
口々にさきねぇ批判が飛び出す。
「ねぇヒロ。お姉ちゃん、いきなり怒られて完全にポルナ○フ状態なんですけど。」
「確かに。みんな、なんで怒ってるの?」
「おいおいおいおい!何いってんだよヒイロ!ヒイロがじゃんけん弱いのを知っててムラサキはじゃんけん大会なんて提案したんだろ!?」
「そうですよヒイロさん!私たちは海にいけるのに、ヒイロさんだけ海にいけないなんて・・・そんなのかわいそうです!」
「・・・え?なんで俺海にいけないの?」
「「「「・・・は?」」」」
俺の発言に固まる四人。
すると、一斉に哀れんだ目を俺に向ける。
「・・・ヒイロ。ショックがでかすぎて、そんなこともわからなく・・・」
「ヒ、ヒイロさん・・・ごめんなさい・・・」
「お師匠様!しっかりしてください!」
「ヒイロさん、正気を保ってくださいっす!」
俯くヴォルフに泣きそうなカチュアさん、心配そうな後輩二人。
呆れた感じのさきねぇが声をかける。
「あんたら、バカじゃないの?つまり・・・」
「こういうことよ。」
「お前らマジでふざけんなよぶっ飛ばすぞ!」
「に、にいさん!落ち着いて!気持ちはわかるけど落ち着いて!」
あれから二日経ち、俺たちは今、海に向かっている。
ノエルさんの馬車に乗って。
そう、じゃんけん大会はあくまで『特別クエストとして』海に向かう権利を獲得するためのもの。
じゃあ別に『単なる旅行として』海に向かってもいいじゃない。
もちろんクエストではないので何かあっても自己責任だし、馬車代や食費、海の立ち入り料金等の経費は全て自腹である。
なので、アルゼンにいるレベルの冒険者では能力的にも資金的にもなかなか厳しいものがある。
しかし、俺とさきねぇは実際の能力的にはC級冒険者クラスだし、同伴する保護者はS級冒険者、生ける伝説『破軍炎剣』ノエルさんだ。
どこに問題があろうか?
ちなみに、これは反語なので後ろには(いや、何も問題はない。)という言葉が隠されている。
こういったところが世界から『日本語は無駄に複雑だ』と言われると同時に『日本語ほど風情のある言語はない』と言われる所以である。
超どうでもいい話だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
今回のヴォルフのセリフ「そんなこともわからなく・・・」は某お姉ちゃんリスペクトなんだぞっっっっっっっ!




