第十三姉 「そう、寂しくなるわね・・・向こういっても,私のこと、忘れ、ない、で、ね・・・!」
話も終わったので、さきねぇを起こす。
『はわわ、寝ちゃいました~』とかいっていた。
ぶっ飛ばすぞ。
話が長引いたので手の込んだ料理は断念したようだ。
何かの肉を焼いてパンにはさんだサンドイッチのようなものとスープ。
よくわからない野菜で作られたサラダに、さきほどのチーズとワインをいただいた。
うむ、あまり期待してなかった分、とてもおいしく感じた。
いや、実際おいしいんだろうけども。
しかし、この味がこの世界でどれほどの基準なのかが知りたいな。
一般的な食材なのか、高級食材なのか・・・。
値段的にセブンプ○ミアムクラスだとまだ許せるんだが。
ちなみに夜でもリビングはそれなりに明るい。
それというのも『光石』というもののおかげらしい。
原理はよくわからんが発光する石で、小・中・大・特大と明るさによって種類があるんだと。
ここで使われているのは中光石で、それが電球のように天井からぶら下がっている。
異世界マジで便利だな。生活するのにも苦労しなさそうだ。
ただ、明るいのは光石のせいだけではないようだ。
窓の外に見える森も輪郭を目視できる程度には明るさを感じる。
日本も、空気が綺麗で高い建物がなかった時代はこんな感じだったんだろうな。
つい感傷的な気分にな「ギャーーー!」っていたにも関わらず、うちのお姉さまの悲鳴が響く。
叫ぶなら叫ぶでいいけど、せめて『きゃー!』くらいにしといてくれ。
『ギャーーー!』て。
つーかどこにいるんだ?
お花摘みにいってから姿が見えないが…ノエルさんもいないし。
聞こえた感じ、外にいるのか?あぶねぇな、何がいるかわかんねぇのに。
あ、だからノエルさんがいないのか。
マジで面倒見いいなあの人。
さてと、今度はなんざんしょ。
俺は外に出る。
ノエルさんが立っていて、ある方角を見つめている。
俺もそちらに目を向ける。
妖精がいた。
そこには二つの月の光に照らされた森の舞台で、妖精が舞っていた。
楽しそうに笑いながら踊るその姿は、この世のものとは思えないほど幻想的だった。
俺は声を失った。
音を発したら消えてなくなってしまうかもしれない、そう思えた。
妖精が舞うのをやめて、こちらを見つめる。
俺は、まるで時が止まったかのように動けない。
妖精が、楽しくて仕方ないというような声をあげた。
「ヒロー!見てー!めっちゃきれー!」
妖精の正体は姉だった。
ありのままに起こったことを話すぜ。
『月の妖精かと思ったら姉だった』!
何を言ってるかわからねーと思うが、俺にはわかった。
頭がどうにかなりそうだった。
身内びいきとか弟フィルターを通しているとかそんなチャチなもんじゃねぇ。
もっと恐ろしいかわいさの片鱗を味わったぜ・・・
そして時は動き出す。
「どしたん?」
「・・・・・・いや、なんでもナッシング。」
まさか姉を月の妖精かと思うとか、さすがに重病だな。
病名はシスコン。
不治の病だ。
なぜなら、患者に治す気がないからだ。
「いやー(空に二つも月があるなんて)めっちゃビックリしたわね!」
「ああ、(姉が月の妖精に見えるなんて)めっちゃビックリしたな。」
かみ合っているようでかみ合ってない会話を繰り広げる姉弟だった。
やばい、久しぶりに動揺している。
とりあえず戦略的撤退をし、態勢を整えて落ち着こう。
姉に動揺を悟られたら最後、少なくとも数日は
『ヒロってばおねえちゃんに欲情しちゃって~♪もぅ困っちゃうわ~でも、かわいい弟の頼みなら・・・きゃ☆』
を誰彼構わず(見知らぬ通行人Aにすら)吹聴して回る可能性がある。
そして俺に「姉に欲情する発情した変態弟」のレッテルが貼られてしまう!
なんとしても、そんな冤罪は避けなければ!
「お、俺ちょっとお花摘みいってくるー!」
「そう、寂しくなるわね・・・向こういっても、私のこと、忘れ、ない、で、ね・・・!」
「俺はどこまで用を足しにいくんだよ!」
大声で突っ込んだら、一瞬にして落ち着いたわ。
さすが姉のボケ体質、頼りになるぜ!
「つーか月が二つある!?すげぇ!なんで!?」
「え、今言うの?遅くね?さっき驚いてたじゃない。」
「ふっふっふ、やはりあれに驚いたようだな!」
ドヤ顔のノエルさんがやってくる。
「「し、知っているのかラ○デン!?」」
「・・・ラ○デン???」
「「いや、こっちの話」」
「その、気になっていたんだが、どうやったらそうやって同時に話せるんだ?事前に打ち合わせをしているわけではないんだろう?」
「「シンクロ率が高いので。」」
「はぁ・・・」
こればっかりは姉弟の絆としかいえないな。
他人に真似できるとは思えん。
「しっかし、夜空に二つの月なんてロマンチックね~。・・・キレイ。」
「・・・さきねぇのほうがキレイだよ。」
さきねぇがちょっと驚いた感じで俺を見る。
いつもとは違う意味の『本気』で言ったことがわかってしまったらしい。
これだから姉弟の絆というものはやっかいだ。
「・・・ありがとう。」
だから、姉も笑顔で素直に答える。
いつものように茶化したりはしない。
そして、顔を赤くしつつゆっくり俺たちから離れるノエルさん。
ノエルさんの存在を完全に忘れていた!
くそ、だんだん恥ずかしくなってきた!
「あー、もう夜も遅いし、寝ますかね!」
「あ、そ、そうだな!もう遅いし寝るか!」
「ふふふ、そうね。寝ますかね。」
俺とノエルさんは顔を赤くしながら、さきねぇは笑いながら家に入る。
「えっと、部屋割りはどうする?一応空き部屋は三つあるが・・・」
「同室で!」「同室で構いませんよ。」
本当は今日に限っては別室がいいけど、どうせ布団にもぐりこんでくるだろしな。
それに、ノエルさんは信用しているが、ここは異世界。
何があるかわからないし、夜なんか特に危険だろう。
何が起こっても大丈夫なように、姉のそばにいなければ!
「・・・・・・・・そうか。では、そこの部屋を使ってくれ。一番ベッドが大きいから。」
「ありがとうございます。それでは、また明日。」
部屋に入る。それなりの広さがあり、小光石のおかげで微かな明かりがある。
「・・・寝るか。」
「そうね~。ふぁ~なんか疲れたー。」
大きなあくびをしながらベッドに入るさきねぇ。続いて俺もベッドに入る。
向かい合って横になる。
俺にしてはかなり珍しく、ちょっと緊張する。
普段から一緒に寝てたりするし、気にならなかったんだけどな。
すると、さきねぇがもぞもぞと動く。
そして。
「ヒロ、お疲れ様。おねえちゃんがずっとそばにいてあげるから、ゆっくり休みなさい。」
頭を撫でられる。
ああ、ちくしょう、やっぱり俺は、・・・・・・・・だな
そんなことを思うと、すぐに眠りに落ちていった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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ヒロくん、痛恨の動揺。
普段の『弟好き好きモード』には慣れているためスルー力高めですが、何気ないしぐさなどにはついドキッとしてしまいます。
今話でとりあえず『第一章 池に落ちたら異世界に編 完』って感じです。
一度サイドストーリーを挟んでから『第二章 異世界の町にいってみよう編』に移ります。




