第百二十二姉「・・・むかつく馬だったけど、確かに霊獣っていわれるだけはあったみたいね。」
さすがにノエルさんのためにユニコーンの角を探しに来たことは忘れていなかったようだ。
『わたし、ちょうふまんです!』って顔をしながらも引き下がった。
ブラッシングをした後も軽い世間話をする俺とニュニコーンさん。
さて、そろそろお暇するか。
「ニュニコーンさん、ありがとうございました。せっかくお会いできましたけど、そろそろ帰ります。」
「あら、もう?でもお祖母ちゃんが待ってるんだものね。早くいってあげなさい♪」
「ありがとうございます。それでは!」
「またいつでもいらっしゃ~い!」
ニュニコーンさんに手を振って泉を後にする。
「いい人、じゃなくていい馬だったね。俺には、だけど。」
「「二度と来るか!」」
早歩きでスタスタ歩いていくさきねぇとマリーシアさん。
大人気ないなーもう。
「まだ見てるか、な・・・」
「・・・ん?ヒロ何立ち止まっ・・・」
「あれ、お二人ともどうし・・・」
ふと後ろを振り返った俺達が目撃したものは。
ニュニコーンさんを中心とする何十頭ものユニコーンの群れだった。
そして、ヒヒーン!と高らかに鳴くと、まるで蜃気楼のように掻き消えた。
まるで、初めから、そこには何もなかったかのように。
「・・・むかつく馬だったけど、確かに霊獣っていわれるだけはあったみたいね。」
「・・・だね。」「・・・そうですね。」
あまりの不思議現象にボーっと突っ立ていたが、よく考えればここはファンタジー異世界。
人間が知らない幻影魔法とか空間移動魔法があったっておかしくはない。
「・・・帰ろっか。」
「・・・そうね。」「・・・そうですね。」
山を降りると、ちょうど三時のおやつに適したくらいの時間帯。
さすがにどっかで野宿やな。
この世界の道はもちろん電灯とかない。
月が二つあるから夜でもけっこう明るいけど、さすがに歩くのは危険である。
早めに就寝、早めに起床が基本だ。
何時間か歩いて日も暮れ始めた時、ノエルさん謹製の結界陣をひき床につく。
その時マリーシアさんが俺のとなりを熱望したが、当然のように却下され、≪俺・さきねぇ・マリーシアさん≫の順に寝たことだけ明記しておく。
朝早くに出発し、お昼ごろにはアルゼンに着くことができた。
「一応ギルドに顔をだしておきましょう。私も経過を報告しなきゃいけませんし。」
「え、ノエルさん待ってるし一刻も早く帰りたいんだけど・・・」
「まぁいいんじゃない?エルフ風邪って微熱が続くだけでしょ?」
「・・・まぁそれもそうか。」
三人揃ってギルドに入ると、まわりの冒険者たちがビックリしていた。
「え、ヒイロさん!?出発したの昨日ですよね!?」
「おう。ユニ角ゲットしてきたぜ。」
「もう!?爆速っすね!さすがヒイロさんたちパネェっす!」
「ふふふふ、まぁね!この私ににかかれば余裕のよっちゃん、さざんかさっちゃんよ!」
「さすがっす!・・・で、結局ムラサキさんとマリーシアさん、どっちがユニコーンを捕獲したんですか?」
スレイのその言葉に、さきねぇとマリーシアさんが凍りつく。
周囲も『さすがにムラサキさんよね。』『いや、ユニコーンがゲテモノ好きだったらマリーシアも可能性ありじゃないか?』『僕、ムラサキさんに1000パル賭けてます。』『俺は大穴狙いでマリーシアに100パルだ!』と興味しんしんだ。
・・・言えない。言えるはずがない。
あんなに意気揚々と出発したのに、ブス扱いされた挙句男に負けたなんて。
さきねぇとマリーシアさんは陸の上の金魚みたいに口をパクパクさせている。
ふぅ~、仕方ない。
「さきねぇとマリーシアさんが協力してユニコーンを説得したんだよ。それで一かけらだけ譲ってもらったんだ。」
「「「「「「おぉぉぉぉ!」」」」」」 パチパチパチパチ!
「「ま、まぁねまぁね!」」
がっちり肩を組むさきねぇとマリーシアさん。
ここにユニコーン秘密同盟が結成された瞬間だった。
「いやー、ムラサキさんは当然としても、マリーシアさんもすごいっすね!」
スレイの賞賛に、冒険者たちが『確かに。』『ちょっと見直したわ。』『ユニコーンに認められるなんて、マリーシアもやるわね』と次々に同意する。
何もしていないのに手柄だけ与えられ、さすがのマリーシアさんも気まずそうに
「これが私のジツリキですよジツリキ!冒険者ギルドアルゼン支部のマリーシア・ホルンとは私のことですよー!おーっほっほっほっほ!」
全くしていなかった。
さきねぇが今にも蹴り倒そうとしていたが、蹴り倒すと連鎖的にさきねぇの無様さも露呈してしまうため、ギリギリのところで耐えていた。
「それじゃあ俺達は戻りますね。」
「あ、はい。お疲れ様でした。久しぶりにりょこ、げふん、クエストにいけて楽しかったです!また誘ってくださいね!」
そう言ってマリーシアさんは手を振りながらギルドの奥に入っていった。
ラムサスさんに報告するんだろう。
「・・・誘ってくださいねって、マリすけが勝手についてきただけな気がするんだけど。」
「まぁいいじゃん。またなんかあったら誘ってあげよう。突属性が超苦手な鉱物型とかアンデッド型魔物満載のダンジョンとかね!」
「いいわね!」
俺たちゃ鈍器姉弟~♪悪逆非道が信条さ~♪
そんな歌(作詞作曲・初月緋色)を歌いながら我らが実家を目指す。
でもかなり疲れたので馬車屋さんにノエルの森(仮)入り口まで馬車を出してもらいます。
もちろん別料金がかかるが、必要経費ですね。
「そういや、マリーシアさんを連れて行った理由ってなんだったの?」
「ん~?保険、かな?」
「保険?」
「ほら、もしユニコーンが年増好きとか死なない程度になぶるのが好きなドSみたいな変態だったら代わってもらおうと思って。」
「うわぁ・・・」
完全にイケニエじゃないですか。
そんなのダメだよ!イケニエは、いけにぇ!ドヤァ!
口には出してないはずなのに、なぜかさきねぇの目は死んでいた。
無事に戻った俺達はアメリアさんに事情を話し、ニュニコーンさんの角を削った粉末を作ってもらった。
それをノエルさんに毎食後に一回ずつ、一日三回飲ませたところ一日で全快した。さすがユニコーン印の漢方薬ですね。
しかし、どうやってユニコーンの角を入手したかをノエルさんに話すと『そんな危ないことをするなバカモノ!』と怒られた。
実はユニコーンって戦闘力的にはC級魔物以上なんだって。もし本格的な戦闘になってたらやばかった。
でも、そのすぐ後、ノエルさんがアメリアさんを連れて部屋にいき、『ヒイロとムラサキが私の為に~!』と号泣していたことを俺は見逃さなかった。
そして、最後に不思議な話。
後で聞いた話なのだが、アルゼン周辺にもっとも詳しいガルダじぃが言うには、シースー山のふもとの泉は十年以上前に枯れており、今はもう存在しないらしい。
俺達はそんなことはない、看板の指示通りに進んだら泉にたどり着いたと主張した。
しかし、俺達の話を聞いて泉に向かった(暇な)ラウルさんのチームは、そもそも泉への道筋が書いてある看板なんてなく、泉のあった場所にすらたどり着けなかったと言っていた。
そこで、一番最初にシースー山のふもとの泉でユニコーンを見たという話を持ってきた冒険者に話を聞こうと行方を捜したのだが、なぜか見つからなかった。
さらにガルダじぃが言うには、ユニコーンはずっと昔に角目当てに乱獲され、ユニコーンらしき生物を見た者はいるが、実際に本物のユニコーンに会ったことがある者はほとんどいないらしい。
ユニコーンを目撃したという冒険者は一体誰だったのか。
俺達が見たシースー山の泉はどこにいったのか。
俺達が話をした、あのニュニコーンさんはなんだったのか。
今となっては、あれが現実だったのか幻だったのかさえ、誰にもわからない。
しかし、俺の手元には確かにニュニコーンさんからもらった角がある。
ニュニコーンさんから友好の証としてもらい、ノエルさんを救ってくれた大切な角が。
これだけは何物にも変えられない真実だ。
ニュニコーンさんはまた来いと言ってくれた。
いつか必ず、もう一度あの泉へいこうと思う。
今度は、ニュニコーンさんの仲間達でも食べきれないほどの、たくさんのコリーンニンギンを持って。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
これにてニュニコーンさん編の終了です。
ボケ倒すかと思いきや、最後に不思議な話で〆ました。
短編『本当にあった不思議な話』のように、今までの人生でけっこう不思議体験をしてるので、こういうオチも好きな私です。
次回は珍しくヒロくん単品の番外編から新章に移ります。
よろしくお願いします。




