第百十五姉「ノエルさんはアイドルだからおならとかしませんー。」
ラウルさんの救援信号が、心なしか弱ってる気がする。
ジタバダしてた下半身も動きが見られなくなってきた。
早くしないと、異世界に来てから初の死者が出てしまう!
その時、一人の女神が天から舞い降りた!
「ばっかね~なにやってんのよ。」
「さ、さきねぇ!見てたんなら早く手伝ってよ!」
「こんなのはこうやってね・・・」
さきねぇはそう言うとミカエルくんを取り出し、一本足打法の構えを取る。
そして!
「ムラサキ流奥義!代打逆転満塁サヨナラホームラン昭和のテレビ復活打法!」
「イモグハァ!!」
さきねぇのミカエルくんフルスイングにより、ヤツの上半身がバラバラに吹き飛ぶ。
・・・恐ろしい。
もしあれが肉とかついてる普通の魔物だったら、肉片とかがビチャッ!ってことだよな。
F級冒険者とかが見たらトラウマで戦えなくなるんじゃないか?
俺が恐怖に震えている間にスレイたちがラウルさんをヤツの残骸から救出する。
ヤツは舌があったのか、ラウルさんはヌルヌルネバネバした液体でドロドロだ。エイリアンを思い出す。
噛まれた痕に≪聖杯水≫をぶっかけると、ジュウジュウと音を立てて傷口がふさがっていく。
「あつい・・・あついよぉぉぉ・・・」
「生きてる証拠ですよ。我慢我慢!」
「すごい、あの傷がもう消えてる・・・!」「なんて回復力だ!」「しかも全然普通に使ってるぜ?タダモンじゃねぇな・・・」
お、俺への賞賛の声が聞こえるぞ。もっとだ、もっと褒めろ!
「『歩く回復薬』の異名は伊達じゃないってことだな。」「ああ、さすが『歩く回復薬』なだけあるぜ。」
「おい、今俺のこと歩くポーション扱いしたやつ表へ出ろ。上等だそのケンカ買ってやんよ。」
地味すぎるだろその異名。ぶっ飛ばすぞ!
もっと、こう『黒の癒し手』とか『水の申し子』とか『深き者たちの王』みたいなイケてる感じの異名はないのか。せめて『人間エリクサー』くらいなら許してやらんでもないが・・・
俺はプリプリしながらも、ラウルさんを抱えて休憩室(という名の掘っ立て小屋)に連れて行く。
中には大小様々な噛み跡を持った冒険者達がだらだら過ごしていた。
「はいどいてー怪我人だよーすぐに場所あけないと死んじゃうよー。あと色々うつるよー。」
俺のその言葉を聞いて一斉に距離をとる冒険者たち。薄情やな。
まぁ俺があいつらの立場ならむしろすぐに小屋から脱出するな。そう考えると根性がある、のか?
「よっと。」
「ぐふっ!」
ぽいっと床に放り出すとラウルさんがカエルをつぶした様な声を漏らす。
恨みがましく見られているが、なにか問題でも?
なんでさきねぇ以外の人間を優しく介抱しなきゃいけねーんだよ。回復してもらえるだけ感謝しろ!
「さて、と。≪聖杯水≫祭りじゃー!熱かったら言ってくださいねー。」
「・・・ぎゃー!熱い熱い熱い熱い!もっとぬるめで!」
「無理っす。痛いのは治ってる証拠っす。」
大量の≪聖杯水≫をぶっかけると悲鳴をあげるラウルさん。なんか歯医者になった気分。
なんであいつら『痛かったら手を上げてくださいねー』とか言うくせに、手を上げてもやめてくれないんだろうね。
「つーかラウルさん、D級ですよね?なんであんなぱっくり食われてたんですか?油断しすぎでしょう。」
「いや、あれには深いワケがあって・・・」
「ワケ?昨日馬車にひかれそうになった子犬でも助けようとして怪我でもしたんですか?」
「・・・実はそう「嘘だったらぶっ殺すぞ。」だったらいいなーっていうだけで、んなわけないじゃないか。」
ぶわっと嫌な汗をかくラウル。もういいや呼び捨てで。
「で、なんでですか?」
「実はその、お酒をしょうしょう・・・」
「さぁ~けぇ~?」
つまり、酔っ払ってたから食われた、と。芋掘りながら酒を飲むとかふざけやがって!
・・・アリだな!
せっかく大人になったんだから、酒を飲みつつ芋を掘っても良いのではないだろうか?
まぁ巨大サツミモドキに食われたら一生さきねぇに爆笑ネタにされるから、結果的にはやらなくてよかったんだけども。
治療が終わり持ち場に戻るが、その後も度々現れる巨大サツミモドキ相手に死闘を繰り広げる俺達姉弟。
やっと接敵報告がなくなる頃には、もう夕日も暮れてカラスがカァーカァー鳴いているような時間だった。
「・・・さきねぇ、お疲れ。」
「・・・ヒロもお疲れ。レーッツ!疲労!コンパイン!って感じね。」
「そうだね・・・あーそういうネタか。超電磁でスピンな感じね。らじゃ。」
ダメだ、さすがに芋掘って笑ってバトルして回復してを繰り返したために、疲れすぎてツッコむ元気もない。
「いやー皆さんお疲れ様でした!次回もぜひよろしくお願いします!」
依頼主からの解散が発表される。ふぅ~やっと終了か。
さきねぇと俺、相当戦ったけど追加報酬はあるんだろうか。
「ヒイロさん、ムラサキさん!お疲れ様でした!」「お疲れ様です!」
「おー、二人もお疲れちゃーん。」
スレイとリムルちゃんが近寄ってくる。
「大活躍でしたね!」
「いや、大活躍はいいけど、私、芋掘りにきたのにあんまり掘れなかったんだけど。」
「それは、その・・・さすがムラサキさんパネェっす!」
「あんた毎回それじゃない。ボキャブラリー増やせ!」
「す、すいません・・・」
予想以上に芋が掘れなかったからお姉さまが荒れとる。
「スレイに当たったって仕方ないやん。現物持って帰ろうぜ。焼き芋やろう焼き芋。」
「仕方ないわね。エルエルにたらふく食わせてブーブーいわせるか。」
「ノエルさんはアイドルだからおならとかしませんー。」
「私だってアイドルだからおならとかしないわよ?トイレだってゲロ吐く目的以外じゃ使わないし。」
「ゲロは吐くの!?」
「ばっかねー、アイドルだって人間なんだから、飲みすぎたらゲロくらい吐くでしょ。」
「いやーおならはNGでゲロはOKっていうその辺のさじ加減がちょっとわかんないっすわ。」
相変わらずアホな姉弟だった。
「エルエルただいまー!」「ただいま帰りましたー。」
「おお、お疲れ様。サツミモはいっぱいとれたか?」
フリフリのエプロンをつけて夕飯の準備をしていたノエルさんが笑顔で迎えてくれる。
はぁ~癒しすな~。
「なんかサツミモドキ?とかいうのがいっぱいでてきてさー。周りが雑魚すぎて私が芋無双よ。全然掘れなかったー。」
「まぁ順調だったらそれはそれで途中で飽きてたんじゃない?」
「はははは、まぁ仕方がないだろう。最初にいっただろ?こんな依頼受けるのか、と。」
「まぁサツミモドキが意外にかわいかったからいいわ。焼き芋食べよう焼き芋。」
「よし、じゃあちょっと準備をしようか。どうせだから外で芋を焼きながらご飯でも食べようか!」
「「さんせーい!」」
外にイスとテーブルを並べ食卓を囲む。
力持ちが二人もいるので家具の移動も楽チンや!もちろん俺は応援係です。
「しっかし、こんないっぱいさつまいもあっても飽きちゃうわよね?どうする?」
「保存食としては優秀だから魔法袋に入れておけばいいじゃないか。」
「ん~・・・どうせだったらダメモトで焼酎造ってみる?」
「!? SYO・CYUー!いいわね、作りましょう!」
「? ショウチュウ?」
「俺たちの世界のお酒です。作り方適当なんでできるかどうかは精霊王様まかせですが。」
「ふむ、新しいことにチャレンジすることはいいことだ。やってみるといい。」
その後、うろ覚えな知識で芋をすりつぶした後、適当に放置して発酵させた【芋焼酎もどき】が完成したが、芋の臭いがすごい上にあんまりおいしくなかったのでいきつけの定食屋に寄贈した。
最初は誰も飲まなかったが、すごい臭いと味のために罰ゲーム用のお酒として親しまれるようになり、数年後には王都で一大ブームが巻き起こるのだが、それはまた、別の話。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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