第百十三姉「あいつら穴を掘るから意外とつえーぞ!こっちが殺られる可能性が!」
「すまんすまん。説明お願いしますスレイ先生!」
「せ、先生!?わかりました!俺に任せてくださいっす!」
なぜこの世界の住人は先生扱いされるとテンションが上がるのか。
いつか研究レポートを発表したいと思います。
「サツミモ掘りはそれなりに危険なんですよ。さっきのみたいにサツミモドキが出現するんで。」
「さっきのサツミモドキっていうんだ。名前までださいわね。」
「ム、ムラサキさん、一応あれでも魔物なんですよ?さっきのは小さかったんでF級魔物くらいの力ですけど、中くらいだとE級、極稀に出る大型のやつはD級判定されることもありますからね。気をつけないと!」
「あ、やっぱF級かあれ。噛み付かれたとき思わず『イテッ』とかいっちゃったけどあんまり痛くなかったし。」
子犬に噛まれた、くらいの痛さだったな。
タンスの角に小指ぶつけたときのほうがよっぽど痛い。
「あのレベルだとそうですね。あ、でも噛まれたらひっぱるんじゃなくて口をガッ!って開けさせて抜かないと、牙がひっかかって痛いですよ。」
「うん、痛かった。その情報は一番最初に欲しかった。」
「す、すいません、てっきり知ってるものだとばかり・・・」
「うちのヒロは『情報は金より価値がある場合がある!キリッ!』とかいってるくせに、ちょっと抜けてるからね。そこもかわいいんだけど!くっはー!萌える!」
「うるさいよ!」
ちくしょう・・・まさかサツマイモに混じって魔物がいるなんて思わないじゃんよ!
俺は悪くない!
「いもとモドキの違いってなんかある?」
「土から取り出して数秒経つと動き出すんですけど、それまではプロじゃないとわからないですね。」
プロいるんかい。
「つまり、完全に運任せってことね!なら私は大丈夫ね!せふせふ!」
「さきねぇはシックスセンスあるからずるいわ。常人は持ってないんですー。」
「エロいわね。」
「どこにそんな要素が!?」
シックスセンスがセックスセンス的な感じだったのだろうか。よくわからん。
「俺からはそのくらいですね。」
「了解!では、スレイ先生の助言を受け生まれ変わった真・俺の力を見せてやる!」
「じゃあネオオネエチャンの力も見せてやるわ!HP65535よ!さらにブラックホールの力も発揮して地平の彼方まで吹き飛ばしちゃうわよ!」
「いや、芋ほりをしてくれ。」
そんな感じでさきねぇは芋を掘りに走って戻っていった。
俺も芋ほりを再開する、前に。
「スレイ、スレイ。」
「? どうしたんですか?」
「今回の芋掘り、ほぼ確実に大型サツミモドキが現れる。警戒を怠るなよ?なにかあったらすぐに俺を呼べ。」
「ど、どうしてそんなことがわかるんですか?」
「さきねぇがここにいるからだ。」
「・・・根拠は何もないのに、すごい説得力がありますね。」
「だろ?D級程度ならさきねぇと俺で十分殺れる。もし遭遇しても落ち着いて行動しろ。」
「かっこいい!さすがヒイロさん、マジリスペクトっす!」
「はっはっは!ではお互いがんばんべ!」
「はい!では、また!」
これでなんかあっても大丈夫だろ。
さて、俺も再開しないとノルマ達成できなくなっちゃう。
そんな感じで汗を流しつつ芋を掘ること10分ほど。
周りでも『噛まれたー!』だの『いってぇ!』だのが聞こえてきた。
ふっふっふっふ、みんなも俺の感じた恐怖を味わうがいい!
変な優越感に浸っていると、背後からさきねぇの声が。
「ヒロー、これ、なーんだ?」
「んー?なに、ってギャァァァァァァァァ!」
「あーはっはっはっはっは!予想通りの反応!素晴らしい!お姉ちゃん感じちゃう!」
俺の目の前にあったさきねぇの手には、指二本分くらいの太さを持つ巨大ミミズがうにょうにょしていた。
「何それ!?何それ!?!?でか!キモ!こわ!めっちゃ動いてる!近づけないで近づけないで!」
「いやー、さすがの私もこいつが目の前にコンニチワした時は声なき悲鳴をあげちゃったわよ。」
「なら俺の目の前に持ってくんな!」
「だっておねえちゃんだけ驚いてもなんか悔しいじゃない?ヒロにもおすそ分け、はぁと!」
「完全にいらん!」
さすが俺の姉、やはり俺と似たような感情を持つらしい。
すぐに巨大ミミズを自然に帰させる。
「ったく、ミミズとかやめてくれよ。どうせだったらもっとかわいい系の動物見つけてくれればいいのに。」
「プレーリードッグみたいな?」
「そうそう。」
「モグラみたいな?」
「うーん、まぁOK、かな?」
「ダグト○オみたいな?」
「あいつら穴を掘るから意外とつえーぞ!こっちが殺られる可能性が!」
周りの『あいつら何言ってんだ?』という視線を受け止めつつ、休憩に入る。
「全く・・・さきねぇもちょっと座って休めば?≪聖杯水≫飲む?」
「あ、もらおうかしら。よっこらせっくす!」
「今日シモネタ多いねマジで。久しぶりに弟的イエローカード。」
キョロキョロあたりを見渡すも、みんな目を逸らして聞かなかったフリをしている。
なんという優しさ。これが冒険者魂というやつか・・・
なんというか、暖かさを感じるな。素晴らしい!
とりあえず姉弟仲良く並んで座って≪聖杯水≫を飲む。
「「ふぅ~。」」
同時に息をつく。
さきねぇを見ると、ちょうどさきねぇもこっちを見るところだった。
「「・・・・・・」」
見つめ合い、微笑み合う俺たち。なんかくすぐったいな。
「はい、タオル。ちゃんと拭かないと風邪ひいちゃうからね。」
「あら、それもいいかも。ヒロに看病してもらえるし。」
「だーめ。弟を悲しませたくなかったら健康でいてください。」
「りょーかい。あ、でも、ヒロはたまには風邪くらいならひいていいわよ?お姉ちゃんが看病してあげる!」
「さきねぇの卵粥ちょううまいからな。じゃあたまには仮病でもひこうかな?」
「全くもぅ。ふふふ!」
周囲からの『なんなんだ、あの圧倒的恋人オーラは・・・』『すげー羨ましい・・・俺も頑張って恋人作ろう。』『あそこだけなんか空気が違うんですけど。』『彼氏いない組にはすごいつらい環境ね。』という声も聞こえないふりでいちゃつくのだった。
小休憩という名のいちゃつきタイムもそこそこに、芋掘りを再開する。
すると、スレイともう一人女の子がこちらにやってきた。
「ヒイロさん、ちょっといいですか?」
「お?どうしたスレイ。女の子連れてきて。あ、さては彼女紹介か!?」
「単なる幼馴染です。」「や、やだも~ヒロさんてば~!」
「・・・」
「オラァ!」「グハッ!」
瞬間的に恋人否定された女の子からいい感じの腹パンをもらい苦しむスレイ。
怖いわー女怖いわー。やっぱ姉か二次元だわー。
「えっと、君は・・・そういや話はしたことあるけど、名前知らないや。ごめんね?」
「い、いいえ!あたし、リムルっていいます!こいつと幼馴染で、しょうがないからチームを組んでやってます!」
「組んでやってるって・・・お前が勝手についてき「うるさい!」ガハッ!」
ぽこぽこぽこぽこ叩く子やな。カルシウム足りてないんじゃないの。
これはアレか、ラブコメでよくある『鈍感難聴主人公とツンデレ暴力幼馴染ヒロイン』というやつか。
この娘、転校生が現れてスレイとられて失恋しちゃうタイプだな。
「俺はヒイロ・ウイヅキです。よろしくね。」
「よろしくお願いします!いつもスレイがお世話になってます!」
「いや、こっちこそスレイにはお世話になってるよ。さっきだってそうだし。対等な友人だから気にしないでね。」
「ヒ、ヒイロさん!そんな!俺なんて全然ですよ!でも、そう言っていただいてうれしいです!」
ニッコリ微笑む俺と、目をキラキラさせて顔を赤らめるスレイ。
そこに。
「ムラサキ流奥義!BL撲滅拳!」
「「イッッッッッ~!」」
さきねぇがすごい速さでこちらに突撃し、俺とスレイの脛、いわゆる弁慶の泣き所に全力チョップを放ってきた。
クソいてぇ!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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